ラブコメ風味の「萌える」不良漫画、からの罪と罰 - 特攻天女の感想

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特攻天女

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ラブコメ風味の「萌える」不良漫画、からの罪と罰

3.53.5
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
2.5
演出
3.0

目次

物語はいかにして暴走したか

このお話は、恋に始まり結婚式で終わる(おそらく)ごく普通のラブコメ+ヤンキー漫画として始まって、形容しがたい何か(少なくともラブコメではない)として終わった。

括弧つきでおそらくとはいったが、ごく普通のラブコメ+ヤンキー漫画ではじまっただろうことは結構確信を持っている。
何しろ登場人物設定を考えてみて欲しい。主人公の祥に恋する高村はヤクザの息子で、祥を特別大事にしている瑞希は財閥令嬢だなんて、「これから祥は様々なヤンキーバトルに巻き込まれますが裏社会側にも表社会側にも揉み消し要員は配置済みです」と言っているようなものだ。

そんな安全な暴走族世界で脇を固めるのは、高村に恋するあまり男装して暴走族の世界に飛び込んできたアキラ、そんなアキラを密かに想う伊沢、瑞希に執着する遊佐。すったもんだのラブコメをやるにはうってつけの舞台で、ヤンキーバトルしつつ祥と高村の距離は縮まっていく。その路線は、ある程度成功していたんじゃないだろうか。当時まだ黎明期のネットにファンサイトが存在していて、話題はもっぱら今でいうキャラ萌え・カップリング談義だったという記憶を持つ者としてはそう主張しておきたい。

しかし、特攻天女はそういうお話で終わらなかった、何故か?
それは、高村・瑞希・遊佐の三人は過去に何かをしでかしており、それは祥の生き方と決定的に対立するものであり、来年の夏には今のままの関係性ではいられなくなる――度々示唆されていたその事件を、「情状酌量の余地がない殺人と婦女暴行」としてしまった所為だろう。
途端にヤクザの息子に財閥令嬢なんていう漫画っぽい設定が、家の力で殺人と婦女暴行すらなかったことにできる権力として悪目立ちする。
作中でも語られていた通り、その十字架は中学生の少女が主人公の恋の相手には重過ぎた。

とはいえ、だ。それに類するような事をやらかしても作品内で許されて、それはいかがなものかと言いたくなる物語なんて誰でも一つや二つ思いつくくらいにありふれている。読者が納得できなかろうが、被害者が納得すれば復讐譚は終わるのだ。素知らぬ顔で「どうしようもない奴らが主人公の影響で反省して更生し絆を深めるヤンキー物語」に着地することだって出来たはずだ。(ラブコメやるならそこしかないでしょう、落としどころは!)

しかし、三人は「後悔こそすれ、最後まで反省しなかった」と断じられる。しかもかなり強く。
そして月下仙女編は被害者側が我慢する事で(三人とはあんまり関係なく)終わり、それから先はは反省できなかった三人とその周囲の人々の末路が物語られる。

「追い詰められると自傷に走るの、悪い癖だぜ」

作者は反省しなかったと断じるが、「高村と瑞希にとって大切な人間である祥を殺せば、自分は瑞希に殺されて、瑞希はどうせもうすぐ死ぬ、それで手打ちに」という考えに至った遊佐は反省していたといえるのではないだろうか。省みるという行為なくして、どう贖うかを考えられようはずもない。まあ、その結論ときたら、二番目に大切なアキラに高村を残してあげられて、自分は一番大切な瑞希に殺して貰えるというとんでもなく利己的な自傷行為だし、祥を巻き込んでるし、反省になってないのはその通りなのだけれども。

かくて死を以て贖うという方法を試みた遊佐は、その末路において文字通り「死んだ方がマシ」な目に合う。それでも遊佐が生きることを選択したのは、同じく自己犠牲的な方法――瑞希を許した罪を贖う為に残りの一生を捧げようとした――を試みた廉太郎への憎悪故だ。そしてそれを止めようとするアキラもまた自己犠牲に走りがち。遊佐の物語の最後が、この三人でどん詰まりの状況になるというのは、作者が自己犠牲を強く否定した証左ではないだろうか。この三人がそれぞれ視力を失ったり、麻薬でボロボロだったり、不治の病に冒されていたりと凄惨なまでに痛めつけられるのはきっと偶然ではない。

降魔の利剣が貫いたもの

遊佐の対極は、許される事など望まなかった瑞希だろう。
永遠の人・廉太郎が「瑞希を許した自分を許せなかった」から、許されようと思わない。
絶対に許せないと思う人に許される事を望むのはそもそも暴力的な行為だといえなくもない。その意味で、一番身勝手な瑞希が、被害者・姫月の「絶対に許せない」という気持ちを一番慮っているともいえる。結局は廉太郎と再会するという目的を果たす為に姫月に殺されるのを良しとしなかったどころか、かなり非道な方法で反撃までするのだし、だからどうしたという話でしかないのだが。

瑞希の末路は、廉太郎と今まさに再会する瞬間に降魔の利剣――悪を調伏する剣に討たれるというものだ。
瑞希は悪として討たれたのだけれど、それは許される事を望まず反省しないという方法を否定されたのか、それとも罪と向き合う事より自身の目的を優先させた身勝手を否定されたのか。そしてあの最期は再会したといえるのか、いえないのか。実の所、私は未だに結論を出せないのだけど、とかく彼女もまた否定されたことは間違いない。

彼らの結婚式とはなんだったのかについて①

そして、高村である。
高村は困り果てた末に友人の助言で「許されなくても謝り続ける」。命をもってしてもどうにかしようとした遊佐と、どうにかしようとしなかった瑞希の中間のような方法を選択したのだけれど、先に述べたように高村もまた反省しなかったと断じられている。
だからこの物語の終わりは祥と高村の結婚式なのだけど、「高村が二度と悪事を働かないよう繋ぎ止め」る為にもという保護観察処分の話ですか?とツッコミたくなるような弁解つきだ。

そういう風に終わるのならば、祥が廉太郎に怒った時点で解決できていた筈なのは指摘しておきたい。

おまえの失敗は、瑞希を一人で置いてったことだ。責めることもできねーほど惚れてたなら、戦場でもどこでも連れてって、一緒に泥被って生きてりゃ良かったんだ

こんな風に言う祥なんだから、もうそこで祥の結論は出ている。出てるだろ。でも続く。コメディチックな鬼ごっことか廉太郎の別れを経て、結局、前述の弁解があってやっと二人は結婚するのだ。

これは迷走ではないか?
救いようがなかった瑞希はともかく、遊佐やアキラ、廉太郎に姫月でさえも(姫月もまた藤生に対しては加害者だ)安易に救済しなかった作者だ。
高村の事もどうしても許せないまま、高村の選んだ「許されなくても謝り続ける」事に納得できないまま、結婚式というエンディングに辿り着いてしまったが故に回り道や弁解を必要としてしまったのではないだろうか。

ちなみに姫月を殺す事を我慢して加害者側にならなかった藤生だけは、過去の清算で忙しい物語においても新しい友人を得たり、トキの親離れに戸惑ってみたりと、変化のある日常に回収されていく。彼のその後の描かれ方を見ても、理由もなく報われなさや不幸を描いている(不憫萌え!)のではなく、真摯にキャラクターや物語と向き合って描かれていると感じずにはいられない。
そもそもこのお話がラブコメを逸脱してしまった理由からして、犯罪と真摯に向き合ってしまったからだろう。
このお話は、作者の誠実さ故に暴走し、迷走し、反省も許しも救済も描けないままで終わってしまった。作品としては不格好だが、その不格好さが作者のあがきをそのまま表出した結果のようで、心を打つ部分はある。(当時の週刊少年チャンピオンが「編集は読まずに掲載しているんじゃないか」とまことしかやに噂されていたという、さもありなんだ。)

彼らの結婚式とはなんだったのかについて②

大人になって読み返した。
高村という奴は、伊沢の助言を受けないと罪との向き合い方すら決められなくて、祥に怒られないとすぐ道を踏み外す。
だが、周囲の人の助けられてどうにかマトモに生きられるというのはみんな多かれ少なかれそうではないだろうか……。重要なのは周囲の言葉に耳を傾ける事ができるかどうかで、高村は伊沢や祥の言葉に耳を傾ける事ができる奴なのだ。周囲に助けられていれば他の誰かでは無理だっただろう藤生を止めるという大金星だってあげることができる。

高村が祥に捕まえて貰おうと鬼ごっこを仕掛けるが捕まえて貰えず、その上、自分を捕まえるより優先した男にキスするところまで見せつけられ傷心の旅に出るというコメディちっくなあのエピソード。当時はグダグダな迷走のように見えたが今見てみると、「じゃあ、祥が他の誰かのものになってしまったら高村は悪人に戻るの?」という実験ではないかと気づく。
高村の帰還をもって、祥がどうあれもう離れられないのだということが示される。
ともすれば道を踏み外しかねない本質は変わらないけれど、祥から離れられない以上、高村はこの先ずっとマトモに生きていくしかできないのだ。

それは反省でも償いでもないかもしれないけれど更生だろう。
マトモに生き続ける限り、許されなくても謝り続けるということを完遂できる可能性はある。
そう考えると、鬼ごっこや傷心の旅を経ないと祥が高村との結婚を承服しなかった理由も腑に落ちる。

かくて私はようやく彼らの結婚を祝福することができるようになった。
作品として不格好であるのは変わらないと感じる。評価しろと言われればあまり良い点をつけるのは憚られてしまう。しかし、私はこの物語で更生を描ききった作者を称えるものである。

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エロやギャグ路線に走らない、珍しいレディース漫画。喧嘩とバイクがほぼ10割の男性向けヤンキー漫画と違い、恋愛要素があったこと、女がかっこいいと思う男性が多く若干の乙女ゲーム的なキャラへの愛を感じる。今はやりの男の娘の走りなのかアキラの男装キャラもいいところに目をつけた設定だとおもう。全巻通した内容でお一人ひとりの愛だったり情だったりほのぼのしている漫画かと思いきや時々残虐な腹を切るシーンなどがでてくるのがメリハリもあり、1巻から最終巻まででイラストのレベルがかなり向上していることも好印象。レディース漫画の最終巻がよもや結婚式で終わるという、前代未聞の終わり方だったけれど作品を通してずっと一人の女を愛し続けた高村が祥が結婚できたこで個人的にもほか読者的にも満足できたのかなと思う。ただ、結婚式シーンでほとんどのキャラが和解して参加、ほのぼのしているシーンからの遊佐シーンだったので高村の次に...この感想を読む

4.54.5
  • 愛沢かすみ愛沢かすみ
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