最恐のホラー小説
恋人を愛しすぎてしまったがゆえの罪
作品中に登場する土井雄樹は大好きな彼女、綾乃から別れを告げられた。綾乃のには永遠に自分のものだと、彼女を愛しすぎたゆえについには自ら罪を犯してしまう。そしてその殺し方は残酷だった。ピアノが大好きだった二人。一緒にピアノの練習をしてピアノが二人の思い出だった。しかし、土井はその思い出のピアノで彼女を殺したのだった。なんの前触れもなくいきなり大好きだったピアノによって殺された綾乃の心情はどのようなものだったのだろう。作品上で語られてない以上何もわからないが、笑顔で自分の最愛の人を殺す土井の心情も不思議なものだ。いや、愛しているが故の笑顔だったのかもしれない。綾乃が死んだ以上、これでようやく綾乃は自分のものだと。普通の人から見たらクレイジーにしか思えないこの行動。優しい笑顔の裏にはどのような感情があるのかわからない。だからこそ人間はとても怖い生き物なのだと思う。
母にできること
土井祐樹とともにクレイジーな考えを持っているのは土井の母親だ。息子が彼女を殺した直後、殺された綾乃をみた母はこういう。「祐樹ちゃんがしたいようにすればいいのよ。ママはいつでも祐樹ちゃんの味方よ」聞きようによっては感動的な言葉かもしれないが、シュチュエーションが明らかに間違っている。母親の使命とは何なのか。子供がやりたいことは例外なく許してもいいのか。この小説の例はかなり極端だが、日常生活にも当てはまることはあると思う。土井の母は息子の行動がエスカレートしても何も止めることはしなかった。死体の処理やその方法などを考え、むしろとても協力的だった。どうしてそんな風になってしまったの。過去に息子に対して詫びるようなことがあったのか。もはや息子の奴隷と化してしまった母親は洗脳されているようにしか思えなかった。いつ目を覚ますのか、それともいつまでも息子の犯した罪のお手伝いをするのか。不思議でしょうがない、現実に存在するととかなり危ないキャラクターだと感じた。
殺されるかもしれないという恐怖に耐える
この小説の主人公である加奈は、土井のいる学校、クラスにきてから不可解なことが多く起きた。それはまるで誰かが自分のことを常に監視しているかのように。しかし、それらは気のせいではなく、実際に起きていたのだ。加奈がかつて綾乃が座っていた席に座ることを、土井はどうしても許せなかった。この恐怖を想像できるだろうか。しっかりとカーテンを閉めていたはずなのに、部屋での写真が撮られている。毎日のように自分のプライベートな写真が送り付けられてくる。部屋に盗聴器を仕掛けられる。このような嫌がらせを受けていたにも関わらず。加奈は精神を病むことなく学校に通い続けた。しかし、土井に自分の命が狙われていることをしったときの恐怖からは逃れられなかった。殺されないようにしっかりと防御を張っていた加奈だったが、それは加奈だけに終わらず加奈の家族にも忍び寄る。自分だけならまだしも家族までは、、と思う人は多いはず。人の弱みでもある家族に漬け込むのはかなり残虐な行為だと思った。
どんな手を使ってでも殺してやる
土井の決意は固かった。加奈本人がダメならと、ピアノが大好きな加奈の妹を陥れたのだ。加奈の妹からカギを手に入れた土井が加奈の家に入ってきたとき、加奈の恐怖は最高潮になった。ただ必死に逃げたが追い詰められていくときの恐怖は計り知れないだろう。しかも相手は自分よりも力も強いのだ。逃げられるはずがない。何も考えずに、ただ恐怖にとらわれながらいると人間の脳の機能は停止してしまう。最高に恐ろしい状況を失神という形で逃げ切ったのはなかなかのものだと思う。運良く殺されることを免れた加奈だったが、土井のいる学校を恐れて違う町に引っ越す。しかし、呪いの席の恐怖はここでは終わらないと私は思う。なぜなら、また加奈のような何も知らに転校生がやってくるのだ。そしてあそこの席に座る。恐怖のストーリーは永遠に続く。土井のどんな手を使ってでも綾乃のせきには座らせない、座ったやつは消すという執念深さに逆に驚かされますね。自分で彼女を殺しておきながらもここまでするとは、かなり独占欲の強いキャラクターだということがよく伝わってきます。
この小説のいいところ
山田佑介さんの作品にはすぱっとした小説もあるが、この作品のように最後まで読み終わった後も恐怖を味わわせる構成になっているのはとても面白いと感じた。特にこのキャラクター設定も普通の人では思いつかないような設定と関係性をもっている部分も見ていてとても引きつ得られる要素だ。dの作品を読んでもはずれがない山田悠介さんの小説。個人的にはあまりにも怖すぎて、一気にたくさん読むと心がきついです。そんな小説でもまた読みたいと思う。素晴らしい効果だと思います。これからも山田裕介さんの作品を楽しみにしたいですね。
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