清水 玲子さんの世界観
綺麗な絵と魅力的な登場人物
清水玲子さんの漫画は、小学生高学年から中学生の頃に読んでいたのですが、この作品で久しぶりに読みました。
まず、登場人物の綺麗さに魅力されます。髪の毛一本、顔の輪郭の微妙な角度、服のシワなど細部にわたり細かく丁寧に描かれており、見ているだけでうっとりしてしまいます。
主人公の薪 剛の中性的な綺麗さ、頭の良さ、部下を罵倒するSなところ、桁違いの動体視力と想像力、冷静さ、銃の命中率の高さなど魅力される要素がこれでもか!というほど入っています。
これで、実は情に熱いなど、読んだ誰もが好きになってしまいます。
学生時代からの友人で唯一、心を許していた鈴木を正当防衛で、殺してしまうという、哀しいトラウマを抱え、貝沼事件の秘密も自分だけが知っている、秘密にしておかないといけない、などの心の苦悩を抱え、薪という人物の哀しさが随所に散りばめられています。
家族を守るべき者を持つことを許されていない、望まれていない役職、本当にあるのだろうか、と思わせる真実味溢れる描き方、本当に素晴らしいです。
イジメを受けて孤立していた少年の遺体の扱われ方に憤慨するところは、なんて繊細な人物像の描き方をするのか、人間味溢れる薪に尊敬の念が出ました。普通なら、酷い状況になっている少年にかけより、助けようとするのが当然なのに、誰も駆け寄らず、写真を撮っている、といった繊細な人物像の描き方、凄いです。
死者の脳から記憶を再現
この話は少し先の未来の日本で、死んだ人の脳を再現して事件を解決する通称「第九」が舞台なのですが、難事件を解決する為、とは言え人の記憶を覗き見、プライバシーの侵害といった偏見や反発があります。
でも、話をどんどん読み進めていくうちに、表面上では分からない事件の真相が暴かれて、思わぬ人間の狂暴性や、かえって優しさに触れる場合もあります。
家族を惨殺した容疑者の知られざる秘密、優しさというのか、人間の愚かさ、弱さなど見せつけられます。
誘拐犯に殺された少年が最後にみた映像が、直前に見ていた夢の中に出てきた母親の笑顔、なんて涙がボロボロこぼれ落ちました。犯人の顔と、母親の顔を交互に見て、殺されたいった少年。なんてことを描くのだろう、と清水玲子さんの凄さを改めて感じました。
薬剤師が殺された事件では、自らの保身、安全、危険に巻き込まれたくない都会的な他人に無関心なところがクローズアップされ、在日問題まで話は及んでいます。細かな人間心理の分析が随所に見られます。
政治家の国益優先の為、一般市民の命を守らずに、自分の娘を助ける為に殺人を犯してしまう人間の弱さ、薪の二重三重のワナにはまるなど読みごたえ抜群です。
幼い頃、DVを受けた葵、大きくなり婚約した相手からまたDVを受けるなんて哀しい境遇。さらに自分を守ろうとしてくれた兄が殺されてしまう、脳を見ることにより、昔起こした事件の真実を知ることにより、新たな殺人が起こってしまう哀しさ、儚さ、過去の不幸により、人は幸せが阻まれてしまうのか、と思わせる事件でした。
6巻では、要介護の父を抱えた40歳の乙女な趣味の独身女性が起こした殺人事件なんて、最初は残虐な事件に思われていたのが、人の親切が引き金になっているだなんて、実はとても哀しい事件でした。妄想から、抜け出して、しっかり生きて欲しい、という親切から妄想がなくなる薬を渡すことが自らの身を滅ぼす事になりうるなんて考えさせられます。
妄想していなくては、現実が辛すぎて生きていけない人がいるということを想像出来ない、と監察医の三好雪子が薪に言われていましたが、大半の人はそうではないでしょうか。自分が綺麗だと、人から酷いことを言われても誉められているように感じる、恵まれた境遇だと思い込まないと生きていけない、その事で心のバランスを保っている、なんて人の描き方、恐怖と哀しみを感じます。
世の中の大半の人は、自らの境遇とかけ離れている人の事は、想像出来ないと思うけど、実際にはこういう哀しい、辛い境遇の方もいるかも知れない、と思わせる辛い事件でした。
猟奇的な殺人犯の脳や被害者の脳の再現は、残虐過ぎて、読んでいると気分が重苦しくなっていくときがあります。しかし、人間味溢れる優しさが随所にあり救いになっています。
読むのは大変気力がいりますが、最後まで読まずにはいられない作品です。
部下の青木一行
青木の被害者に感情移入し過ぎて、自分の命を顧みず助ける優しい気持ちに、救われます。ちょっと間抜けなキャラクターで、薪のことを絶大な信頼をおいているところも人間味溢れていて読んでいて救いになります。また、薪にとっても心の許せる人物となり、なくてはならない人となっています。
他の登場人物も、この人は信じて良いのか、味方か、など冷や冷やしながら読みました。
青木の姉夫婦が殺されるのは理不尽で納得が全然いきませんでした。まさか二人が殺されてしまうなんて、悲しすぎる事件でした。
監察医の三好雪子と薪との関係も微妙なもので最後まで引っ張られました。
映画化
この作品は2016年に大友啓史により映画化されています。主人公の薪は生田斗真、青木は岡田将生、鈴木は松坂桃李と演技派の男前が揃っています。
DVの父親が椎名桔平って、またまあ、はまり役でリリーフランキーの役どころも良い味を出して原作とは違った楽しみ方も出来ます。
でも、殺された人間、殺した人間の見たものの再現という特殊な残虐なものを見て、事件を解決するという、触れてはいけない神の領域を犯すような気持ちにもさせられます。
見終わった後、色々と考えさせられる映画です。
テレビのニュースは、世の中のメディアは、どれだけ真実を伝えているのか疑問がわいてきます。
表面上には決して浮き上がってこない真実があるのではないか、考えさせられます。
真実を、知らなければ良かった事、知らなければ起こらなかった事があるかも知れません。真実を、暴くことが必ずしも正解とは言えないのかな、と思います。
人のアイデンティティーを揺るがす、凄い作品だと思います。
この作品は少女漫画ですが、その域を遥かに越えて、あらゆる世代の人に読んで、見てもらいたいです。改めて清水玲子さんの凄さを目の当たりにしました。この作品を映画化してくれた大友啓史さんに感謝です。
秘密
題名の秘密、トップシークレットとは何のことなのか、ずっと頭の片隅におきながら読み進めていました。
一つは、私的には主人公の薪の好きな人かな?と思いました。最初は鈴木が好きで、次は青木の事が恋愛感情があるかどうかは不明ですが、青木の事が好きというのを秘密にしているのか?と思いました。男の友情、仕事の関係以上のものを秘めているのかな⁉ここは少女漫画かな?と思いました。
貝沼事件の秘密はずっと最初からキーとなっているのですが、まだそれ以外にもそれ以上の秘密があるかのような展開です。
カニバリズム事件も恐ろしく、一度読んだだけでは理解しにくい部分も沢山有ります。
また、死者の脳の記憶の再現のMRI捜査自体が、秘密だということなのでしょうか。見てはいけないもの、人には知らせてはいけないものなのでしょう。秘密を知った「第九の人」もまた秘密なのでしょう。
沢山の秘密に囲まれ、展開される事件の数々。多様性に作者の人気の秘密があるのではないでしょうか。これからも数多くの作品を生み出して欲しいと熱望します。
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