恐ろしすぎるホラー漫画
壮絶なホラーの幕開け
まずこの絵!なんでこんなに美しくないんでしょう。そう思ってました。だけど…もうね、この漫画はこの絵でなければこれほどまでに怖さは際立たなかったと思うんですよ。物語はすでにいじめの真っただ中に春花がいるところから始まっていきます。妙子を中心として巻き起こる、あまりにも悲惨ないじめ。卒業間際に東京からド田舎へやってきたよそ者の春花に対するいじめ。よそ者だから出ていってくださいなんてそんなくだらないことでこれほどまでにひどいいじめを始めたの?って思いました。しかし、読み進めていくと、いじめをしている側にもスポットがあたり、事情が明らかになっていきます。決して許されるものじゃない。だけど、1人1人を見てみれば、こんなにも切ない気持ちになるのはなぜなのでしょうか…
この物語で一番ひどいところは、春花自身に対してだけではなく、その家族、大切なものすべてを壊すところでしょう。「精神崩壊」がテーマになっており、廃校になる中学校最後の卒業生たちが繰り広げる、それぞれの屈折してしまった気持ち。春花をつるし上げることで次々と複雑に絡まり、ほどけることなく協力に結ばれ、そして後戻りできなくなる。一番憎いのが、すんでのところで妙子と和解できたあの一瞬を見せておきながら、流美と晄によって復讐が再び始まるあの流れ…春花をどこまで苦しめれば気が済むの?どこまでいっても終わることのない悪夢。最初はなんてことない小さな黒い気持ちだったはず。それがどんどん膨らみ、強大な悪となって、誰かの心に深い闇をおとす。そして、戻れなくなる…これを読んだら、もう誰かを傷つけること、したくなくなるんじゃないでしょうか。晄みたいな心をお持ちでなければ、の話ですが。
それぞれの思いの先
妙子と春花は友達だった…この衝撃の事実は、物語の最初のところからはまったく想像できません…どう見ても妙子が怪物に見えます。まさか百合が関係していたなんて、知る由もありません。なんてうまく作られているのでしょうか…しかも、流美も妙子に執着し、自分を認めてもらいたいと言う欲求があまりにも強すぎて、邪魔な春花を消そうとします。それは久賀も同じでした。妙子が好きだったから、春花は邪魔だった。妙子がいじめるなら、それは正義になる。これって、普通の日常生活でもあるじゃないですか。何が正しいかわからない社会の中で、長い物には巻かれろとよく言われる。長い物の言うことはおそらく正しく、おそらく正義で、おそらく自分に危害が及ばない…だから、何をやっても笑っていられる。自分には関係ない…普段自分が感じてしまう不条理って、こんな残忍な気持ちと同じなんだなと思うと、自分がいかに醜いのかって思ってしまいますね。
池川も、春花のこと好きだったのは間違いないのに、いつの間にか憎悪に変わる。吉絵は家での虐待が背景にあって、常に憂さ晴らしをしたいと思っている。理佐子とゆりは、傍観者気取りで最後はおびえて死んでいったかわいそうな二人。真宮は残虐な殺しができる人間でありながら、自分が死ぬときは池川の失敗に引きずられたかわいそうな奴。流美は妙子に認められたい気持ちが爆発して暴走した最も恐ろしい心の持ち主…もともとはいじめられていたのが、いじめられなくなってむしろほっとしていたのに、春花のせいでまたいじめられ始めたら…いや、春花のせいなんかじゃないんだけど、そう感じてもおかしくない環境が、もう心をえぐってきます。
そんな悲惨ないじめの中で、首謀者である妙子だけが放火・春花の両親殺害には関わっていなかった。むしろ晄の本性を知っていて、春花の心が奪われていくのも、何もかもが気に入らなかっただけで、殺そう・壊そうとは思っていなかったのかもしれないね…いや、いじめの内容はすでに悲惨すぎて目を背けたくなるくらいのグロさではありますから、かばうことはしませんけど。
復讐
春花の復讐はそれはそれはひどいもので…もうね、放火に関わったみんなを惨殺します。敵の武器でも手持ちの刃物も、すべてが武器になるのです…目をつぶし、口を裂き、腹を裂き、次々に命を奪っていく。その目は深く、黒く、よどんで輝き、復讐の鬼と化した春花の姿が、胸を打ちます。春花が報われて欲しいと思いながら、どうか誰か止めてほしいと思わずにはいられません。決して、命を奪うことを正当化してはいけない。でも、両親を奪われ、しょーちゃんを奪われ、彼女にはもう、何も残ってない…
衝撃的なのは、晄。まさか想いを寄せた相手が、そんな趣味があったなんて…晄も、決して最初からそんな人間だったわけじゃない。両親が、大人が、創り出したと言っても過言ではない人格。それにより、春花は殺すしかなくなるわけです。たくさんの命を奪っても、晄はそれを認めてくれる人間だったかもしれない。でも晄が春花を好きだと言ったのは、苦しむ人間が好きだからなのかもしれない…その苦しむ姿を自分の目に焼き付けることが、晄の恍惚のもとになるものだったのかもしれない。そう思ったら、妙子の言う通り、こんなやつ、絶対やめておいたほうがよかった。いじめられている春花をおかずにしていただけなのかもしれないのだから。あぁ…悲劇が悲劇のまま、希望をみることがない終わりは本当に辛い…なのに読んでしまうんですよ。最後の最後まで、何か1つでも残るものがないかと探してしまうんですよね…
家族
春花にとってかけがえのない家族。たまたま転勤でこの学校に転校しなければならなくなっただけなのに…お父さんも心を痛めて、いじめがあるならなんとかしてほしいと学校へ申し出た。行動もできる、いいお父さんじゃないですか。支えるお母さんも、しょーちゃんも、みんな優しい家族だった。なのに…春花に向けられたみんなの憎しみが膨張し、爆発し、家族の命までも奪う結果となってしまった。しょーちゃんは生きてるけど、全身にひどいやけどを負っていて、絶対長く生きれない…しかも、しょーちゃんを守るようにして、お父さんが死んでいたって言うじゃない…どこまでつらさを煽ってくるんですか押切先生…
でも確かに、静かに生きていたいだけなのに、そうは生きれない人っていますよね。ただ仕事して、家でゆっくりして、家族を大事にして、毎日を笑って生きていたいだけなのに、誰かの思い、自分の思い、特に知りたくもない人間の悪意、否応なくさらされなければならない荒波に乗り、それが人生だと言い聞かせてなんとか舵をきる。そんなつらい毎日の中でも、自分の中に意思があり、本当に大切にしたいものを守っていられるのであれば、立っていられる。誠実でいられる。だから、家族って一番大事なんですよね。軸であり、揺らいではならないものというか。子どもであればなおさら、そこしかつながりを持てないのですから…吉絵も、かわいそうな子なんだよね。家族も、晄も、何もかもを奪うと、最後はこんな感じに壊れてしまうのでしょうか…
綺麗な感情も過剰になれば毒
どれも最初は純粋な好奇心や好意や逃げ道だったはずですよね。恋心だったり、憧れだったり、つらい毎日の中での唯一自分を楽しませてくれるものだったり…田舎だろうが都会だろうが関係なくて、誰かと比べて自分を優位に立たせることが、人間の承認欲求なのだろうなって思うんですよね。そして、どんな気持ちも、やりすぎもやらなすぎもよくない。どちらかに偏ることは、こういう恨みの気持ちを生み出すし、誰かの同じような負の気持ちとつながってすべてを壊してしまう…人間って、すごい生き物だな~…
これだけは言えるなーと思うのが、みんな自分の事で精一杯で、誰かを想う気持ちを持てていないということです。自分の気持ちを押し付けるのではなくて、誰かの不幸を願うのではなくて、誰かを心配したり、誰かの幸せを願える人がもっと学校にいたら…未来は違っていたかもしれないって思います。
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