世界観から終わり方までおもしろさ光る - 幻覚ピカソの感想

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幻覚ピカソ

4.504.50
画力
5.00
ストーリー
4.00
キャラクター
4.25
設定
4.50
演出
4.75
感想数
2
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世界観から終わり方までおもしろさ光る

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
5.0

目次

画力の高さに脱帽

「バクマン。」や「ヒカルの碁」などの名作を描いていた小畑先生も絶賛するというこの絵ね。もうそれを毎回見せつけられるんですよ。だいたい短編集って感じです。同じ学校に通う生徒たちの心の叫びをキャッチし、それを幸せな方向へ導くために生かされたというヒカリ。登場人物たちの表情もそうだし、背景、服の濃淡、光と影のコントラスト、そしてまるで本当にどっかの画家が描いたのではないだろうかという心の中の絵。全部が秀逸で、想像力を刺激してくれます。個人的には、ヒカリの腕が腐っている絵がすごい好きというか、気になりますね。細かな線、グロさと怖さもちょっぴりあって、ふざけている感もある。いや、全体的にすっごいうまいんですけどね?腐っていく絵がうまいなーって思うんです。そして、表紙や扉絵の楽しさもありますね。全部凝って描かれているので、いったいどれだけの時間をかけてこの作品を描いているのだろう…と作者の健康が若干心配にすらなります。それほど画のクオリティはずば抜けていますね。

今度はいったいどんな意味を持った絵なのだろう?ヒカリが心に闇を持つ者と接触するたびに、イメージがあふれ出てスケッチブックいっぱいにその見えた映像を描き出す不思議な発作。描かずには得られないほどの衝動が走るらしいです。その絵がいったいどのような悩みを投影しているのか?って絵を見ながら想像する楽しみがあるので、読んでて全然飽きがこないという魅力がありますよ。ヒカリと千晶が絵の中に精神のみダイブできるという設定もなかなか面白いですよね。幽体離脱みたいなもので、絵を通して相手の心の中に入ることができる。できることなら入ってみたい。

ヒカリというキャラ

「ピカソ」という名前を上手に利用していますよね。本来、画家ピカソはかなり有名な画家であり、画風も写実主義というよりはシュールレアリスト。現実を飛び越えて、心が思いつくままに絵を描いていく。それはまるで一種の幻覚のように…この物語の中でも、絵は人の心の中を映すものとして使われ、どれも何を意味するのかぱっと見では理解できない複雑なものばかりです。だけどその謎解きもまたこの物語の楽しいところであると言えるでしょう。ピカソって名前が本当にお似合いだよね。ハチャメチャ感もありつつ、大事なところはつかんでいる。本当の画家ピカソも、いろんなことがあってそれでも画家であり続けた人。それがヒカリの姿と重なるんです。いつもアンテナを張って、感じたことを絵にして、その絵を誰かの人の役に立てている…かっこいいじゃないですか。茜ちゃん、君は本当にいい選択をしたなと思うよ!

ヒカリはプライドが高く、お友達なんていらない、自分の世界を守って生きていければそれでいい。絵を描いていられるならそれでいいって人でした。河原の水だけは、自分を馬鹿にしない。いつもそこにあるし、怒ることも褒めることもない。確かにあるんだけれど、そこにいるだけでは何の意味もないということに、気づけて本当に良かったなーと思います。今まで絵を描くことで人を救ってきたヒカリ。でも最後は自分が心の闇に取りつかれてしまう。そこを助けに来るのが、今までヒカリなりに努力して救ってきた人たちなんですよね。

助けられていく人たち

11人の話がすごく深いというか。テーマとして扱われているものは、どれも誰にでも起こり得る、心の闇です。親との確執や、姉妹の心の行き違い、恋の行方などなど、誰もが経験するかもしれない身近なものです。これを読んでいると、心に闇を持つのは真面目な人ばっかりなんじゃないのかなーって思えてきます。不良って余計なこと考えてないというか、真っ向勝負!って感じで、多少の困難なんのその!という雰囲気すらある。自分の過ちを責めたり、逆にプライドが高いがゆえに失敗を恐れて他人に行動を求めたり、逆に罪を求めたり。真面目な子はそうやって表ざたにならないようにひたすらストレスをため込み、自分をダメにしているような気がしてなりません。ストレスはあまりにも身近なものであるのに万病のもとにもなる危険性があります。いつまでも逃げずに、立ち向かう気持ちを育てていくことが大事なんでしょうね。心の弱さが、いろいろな犯罪を発生させる温床になる。少しでも悩みがあるなら、年齢問わずにカウンセリングとか受けてもいいのかもしれないですね。

人が誰でも考えてしまう気持ちを、正直に伝えてくれていると思いますね。

千晶が心理学・哲学に興味があった子であったことも、うまく物語をつなげられている要因の1つでしょうね。河原でいつものように絵を描いていたヒカリ。いつも1人で生きているヒカリ。そんな彼を千晶は知っていて、いつも何を思っていたんだろう…?神様にどうかヒカリだけでも生かしてほしいとお願いした、それくらい彼を大切に思っているからこその行動のように思います。

最後までいてくれた杉浦くん

杉浦くんとは長い付き合いでしたね~。ヒカリの初仕事が杉浦くん救助であり、最後までヒカリと仲良くしてくれた人物でした。なんでかわからないけれど、「ピカソのことを大事にしたいと思うんだ。」杉浦くんはもとからいい奴で、非の打ち所がないような男の子でしたから、ヒカリにとってはコンプレックスを嫌でも感じさせられるような相手です。だけど、近くにいてくれて、心配してくれて、困ったときに助けてくれて。こんなに嬉しい事ってないよね。友達って…あったかいね。

当初の杉浦くんは、父親と対話できずに、自分の夢はもう叶わないんだと絶望して、父親を困らせることをしてやりたいと考えていました。それが駅のホームから人を落とすことっていうのはずいぶんと穏やかな話ではないですけど、それをすんでのところで止めてもらい、父親と対話することができた。それからはヒカリと行動を共にするようになり、世界が広がったようでした。なんだかんだ、ヒカリの人助けがうまくいっていたのも、決してヒカリや千晶の力だけなのではなく、杉浦くんをはじめとして助けた人たちが少しずつヒカリに恩返しをしてくれているような、そんなパワーがあったのではないかなと思いますね。

せつなくもすべてを明るくする終わり

やっぱり最後はヒカリ本人の闇でしたね。どう考えても、ヒカリは心の闇の塊みたいな男でしたし。今までも一人だったんだから、それでいい。でも、一度知ってしまった誰かの隣は、思っていた以上に広くて、せつなくて、寂しいもの。これに気づいてしまったら、もう、自分がいかに弱いかを思い知らされ、出口の見えない世界に閉じ込められてしまったような気持ちになる。井戸の底から太陽を見ているカエルみたいに。そんなヒカリを、今までヒカリが助けた人たちが自然と集まって、助けに来てくれる。人づきあいをちゃんとしてこなかったヒカリは、一度壊れてしまったらもう元には戻れないと考えていたのかもしれないけれど、人のつながりは、もろいけれどなくなってしまうほど弱くはない。信じる限り続いていくものであると、知ることができたのが財産でしょう。

最後は、ずっと近くにいてくれた千晶とのお別れ。そうだよね、千晶がヒカリが幸せになるように望んでくれたから、こんなに素敵な仲間ができた。君なしにはここまでこれなかった。だけど、君はもうこの世にはいないから…ヒカリは自分が一人だけで生きているのではないということ、生かされて今ここにいるということを、忘れずにがんばっていってもらいたいですね。

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ピカソだってわかっていたけど抵抗していた

絵が巧すぎてどうしよう表紙といい、扉絵といい、全部がこまかくて、いったいどれくらいの時間をかけてこの線を描いているんですか?と問いただしたいほどの出来。「バクマン。」「ヒカルの碁」などを手掛けたあの有名な小畑さんでさえ、絶賛してしまうほどの出来である。よく見たらこの「幻覚ピカソ」を描いてる古屋さんって「帝一の國」の人じゃん…!そりゃーうまいわけである。ピカソと呼ばれるヒカリの立ち位置ってちょっと変わってて、ウザがられているってわけでもなくて、確かに絵ばっかり描いてるけど否定はされていないっていうか…自分自身で卑屈になってるパターンだ。ヒカリをおもしろい、と捉えてくれた千晶がいて、彼女がそばにいたから完全には拒絶されなかったのかもしれないけど…はたから見たらずいぶんといい環境にヒカリは存在している。そんなヒカリの絵がとにかく秀逸。1本1本の線の細かさ、心の絵をどう表現するかという部分、そ...この感想を読む

4.54.5
  • kiokutokiokuto
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