歴史ヒーロー満載、スリリングな展開、恋愛の行方、盛りだくさんの青春時代劇!
歴史ヒーロー満載
本作はかの有名な歴史上のヒーロー真田幸村配下の霧隠(きりがくれ)才蔵(さいぞう)を中心とした時代活劇だ。才蔵は架空の人物ではあるが、歴史小説や漫画で人気のキャラ。更に、これまた有名な猿飛佐助を相棒として、戦国時代有数の智将として人気が高い武将:真田幸村の命を受け、徳川家康暗殺を謀る、というこのわずかな紹介で、本作がどれほど豪華かがわかる。
人物以外の設定でも伊賀忍者の頭領としての才蔵と、甲賀の佐助、そしてそれに対抗する屈強で凄腕の忍者:獅子王院も登場し、個人対個人、組織対組織の戦いもまた豪華、それらを見ごたたっぷりなのに、しかしすっきりと、活劇、恋愛、時に笑いも含めて丁寧に描いている。
スリリングな展開
当初は幸村を敵とする才蔵だが、幸村の人柄に惚れて家康を討つことを承諾する。ここからが実にスリリングだ。才蔵と佐助が周到な計画を立てて家康暗殺に臨む姿と、その二人を阻止しようとする家康側の獅子王院もまた力押しではなく計画的だ。
忍術勝負もあるが、作戦と作戦のぶつかり合い、そして半端なく窮地に陥る才蔵たちも描かれ、毎週手に汗握る展開が続く。
中でも最も興奮を誘うのは、江戸城で三河漫才師に成りすました才蔵と佐助が可能な限り家康に接近して、最高のタイミングで放つ攻撃が、残念ながら偶然の事故で失敗するところだろう。ここまでの準備が数週間にわたって描かれただけに視聴者全員が「ああっ!失敗したのか?くっそー!」と声を上げること間違いない。
次点では才蔵を葬るために獅子王院が周到な準備をするシーンか。直接対決では才蔵を倒すのは難しい、と早い段階で認識した龍王院は旅の途中の才蔵と佐助を罠に追い込んでいく。
これも非常に周到な作戦でほぼ成功と思われたがやはりアクシデントで失敗する。それでも伊賀忍者最強の誉れ高い才蔵に重傷を負わせ、当面戦闘不能に陥らせるあたりは作品中でも屈指の戦闘シーンだろう。
もう一点あげるとすれば終盤の佐助の爆死シーンか。若くしての死でありながらも自らの使命を貫き、最後まで戦い抜いて死ぬあたりは実に見事な場面だ。
どのシーンもドラマとして見事に見えるのは、それぞれのキャラの本気度や覚悟が高いからだ。
獅子王院の作戦にはまり重傷を負った才蔵が、歩くのも精一杯というリハビリのレベルから家康暗殺の使命をかけて三河漫才を習得したり、江戸城の図面を巡って何度も検討したり、という演出を見ているからこそ彼の本気がひしひしと伝わってくる。
そしてそれらをわずか23話という話数に凝縮してきっちり描いたスタッフの本気もまた立派だ。
恋愛の行方1:才蔵と阿国
歴史の教科書にも登場する出雲(いずもの)阿国(おくに)が家康側の女スパイであり、しかし才蔵の恋愛対象という設定が面白い。現実の出雲阿国は素性や行動に不明な点が多い女性のようだが、慶長12年(1607年)江戸城で勧進歌舞伎を演じたという記録は実際にあるようで、才蔵、佐助とともに江戸城で家康暗殺を狙うという設定はこれを踏まえたものかもしれない。
当初は家康側に所属していた阿国が徐々に才蔵に惹かれていく様子は時代劇というよりは青春恋愛ドラマのようでもある。そのように影を背負った設定であるので前半は屈託なく笑うシーンは少ないが、前項で記述した獅子王院の才蔵暗殺計画の後、殺されたかもしれないと思っていた才蔵に再会するシーンは恋愛ものとして必見のシーン。歩くこともおぼつかない才蔵を助け、手当をする姿が実に愛らしい。
この後いくつかのエピソードを経て、自分が敵である俊岳の娘だと告白する阿国。この告白は非常に辛いものだっただろう。せっかく育んできた才蔵との愛、隠岐殿の信頼など、全てを失ってしまう可能性が高いからだ。しかし才蔵はそれをあっさりと許し、認める。
もはやこの段階で才蔵は、阿国と離れる未来などありえない、と確信しているのだろう。
前半では隠岐殿や青子に気があるような気配を見せ、女好きのお調子者というイメージもあった彼だが、ある意味その三人の中では最も地味ともいえる阿国を選んだ。それは生死を共にした仲、ということもあるが、家柄などにとらわれずに生きれる二人のベストな選択だったのだろう。
この後語る獅子王院については全く真逆の展開となるので、生まれ、性格、選ぶ道、全てが対を成すものとして見事に描かれている。
そして最終決戦、もはや豊臣が滅び去る事は自明となった状況で、そもそも豊臣家臣でなかった二人は幸村や隠岐殿と運命を共にすることなく生き残る。
晴れて夫婦になるシーンまでしっかり書き込まれているところが単なる時代活劇ではないと思えてほほえましい。
主要人物の凄惨な死がいくつもあったにも関わらず、この晴れやかさはなんだろう?
全23話を通して描いてきた才蔵の素直さと、運命に翻弄されながらも自らの行く先を切り開いた阿国であればこその、はればれとしたラストなのだ、と私は思う。
恋愛の行方2:青子と獅子王院
番組開始時にこの二人の恋愛が描かれるなど考えたものはいなかっただろう。それほど異様な取り合わせだが、中盤からある意味物語の中軸を担うようになる。
無邪気な青子が明るく奔放な才蔵に惹かれるのは当然のことだ。そして暗く屈折し任務の事しか考えない獅子王院を嫌うのもまた、ごく当たり前として描かれる。しかし、紆余曲折を経て徐々に近づく二人。
だがこの二人は才蔵と阿国のように想い合う男女の仲になるにはあまりにも境遇が違いすぎる。
もしかしたら才蔵であれば「江戸など行かず俺とともに来い」と言えたかも知れない。しかし獅子王院にはそんな自由な考えは無い。彼は戦いと策略と上下関係しか知らないのだ。
それなりに気持ちが通っていても手を取り合うことなどできない二人。詰まるところ、青子は獅子王院を必要に思ったり大事に思ったりはしても、それは愛ではなかったのだろう。敢えて「愛」という言葉を使うとしても、それは唯一無二の男女愛ではなく、隣人愛とでも言うべきか。もっと酷な言い方をすれば使用人への愛と言ってもいいかもしれない。
獅子王院はどこへ行く・・・
多くの視聴者が、獅子王院は才蔵に敗れて死ぬとか、敗北して自ら死を選ぶなどの帰結を考えただろう。私自身も二人の命を懸けた激しい最終決戦を期待してもいた。
しかし、獅子王院は生き残り、青子を失い、俊岳の元も去り、出世の道も失う。
前述の晴れやかに旅立つ才蔵と阿国とは対照的に、全く未来が見えない獅子王院。
彼はかなうはずもないものへのあこがれを追い求めすぎたのだ。
しかし、冷静に考えよう。豊臣は滅び、徳川の時代が始まったのだ。この後、世は急速に侍を必要としなくなっていく。ここで出世の道など絶たれた方が、獅子王院にとってはある意味幸せだったのかもしれない。
仮に侍になったとしても、鎖に繋がれた番犬としてゆっくりと腐っていった可能性が高いのだ。
では彼はこの後どのように生を全うしたのだろう。
忍びとしての需要は無くなりそうだが、寿命が短いこの時代のこと、彼の生涯くらいは今の技能を生かした生き方があったかもしれない。
あるいは、寡黙な蕎麦屋などの生き方もあるかもしれない。彼はそもそも愚者ではない。使命に向かって周到な作戦を練り、一時は才蔵を死の寸前まで追い詰めた男だ。どのような職についても高い技能を身につけることは可能だろう。一方、人付き合いが得意になる未来はなさそうなので、商売そのものには向いていなさそうだ。青子に似た明るい町娘でも見つけて、商売の切り盛りはそちらに任せれば、意外と評判が良い店になるかもしれない。
何よりも彼は青子に才蔵と仲良くする未来を説かれたが、劇中ではそれは受け入れなかった。その時は状況が許さなかったが、戦乱無き後、殺し殺される道に生きる必要もない。そこだけは青子の願いを受け入れ、彼は平穏に生きていったのではないだろうか。
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