アーチャーの傑作小説! - 時のみぞ知るの感想

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時のみぞ知る

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アーチャーの傑作小説!

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文章力
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目次

クリフトン家にまつわる壮大なストーリー

本書は、イギリスの小説家ジェフリー・アーチャーによる長編小説であるクリフトン年代記の第1巻である。クリフトン年代記は全7巻で構成される作者渾身の大作と言えるであろう。現在、日本では6巻まで発売されているが、イギリスではすでに完結編である7巻が発売されている。一気に引き込まれる物語に星4.5、伏線が多く残されている点、完結するまで物語としての評価が出来ない点から、残り0.5は最終巻の素晴らしいであろう結末に期待して残しておく。

本ストーリーは、主人公であるハリー・クリフトン(クリフトン家)とハリーの友人であるジャイルズ・バリントン(バリントン家)の両家の人々を中心に様々な出来事、災難、現実が繰り広げられる。主人公であるハリーは労働階級の家の子として生まれ、父親のいない、貧乏な生活を送っていた。しかしながら、多才な能力を持つハリーは周りに支援されながらも成功への道を歩み始める。その過程で出会うのが親友であり、大手造船会社の息子であるジャイルズだ。ここからクリフトン家とバリントン家の重なり合う運命が始まり、多くの人や社会への影響を及ぼしていく。

私は、正直本書のテーマを具体的に明記できない。そしてストーリーも上手く説明できない。それはつまり、本書が非常に複雑で多くのテーマを含んでいるからである。初めは、貧困家庭の少年の成功物語かと思った。サクセスストーリは気軽に読めて幸せな気分になれるから好きだ。しかしながら、読み進めるにつれて、段々と気軽な気持ちで読むことが出来なくなってきた。あまりにも複雑で多くの出来事が混ざり合っているのだ。非常に多くの伏線が張られている本書は、数ある中の1つのテーマや登場人物のささいな気持ちを見逃すと一気に置いていかれる。読み進めるうちに、全てを頭の中で組み合わせて「クリフトン家」と「バリントン家」の関係を一つの壮大なストーリーとして整理し、捉えなければならないのではないかと考えるようになった。

複雑な社会背景にも注目

今回紹介する第1部は主にハリーの幼少期の話であるが、貧困家庭で育ったハリーは奨学生として富裕層の子どもが集まる小学校へと進学する。そこは、当時のイギリス社会を写し出しており、大人社会の縮図であると感じる。日本とは異なるイギリス階級の厳しさを思い知らされた。生まれの違いによる人生の違いというのは、努力だけは中々克服できない。日本は、差別や所得格差が比較的少ない平和的な国だと思う。一方で、イギリスでもアメリカでも、その他国々でも今でも似たような問題は存在する。本書で表されている格差社会に目を向けると普段あまり感じることのない現実の厳しさを思い知る。ハリーは、そういった子ども達の様々な感情と子どもながらの残酷さが入り交じる世界で、時には素晴らしい友情をも感じなが日々過ごして行く。「そうそう、子どもの頃ってこういう世界もあるよね。」とか、思った以上に差別される世界を見て、「生まれたときからある程度の運命は決まってしまっているのかもしれない」という辛い気持ちを感じながら、ハリーのことをついつい応援してしまう。そして、本書の見所のひとつは、今後きってもきれない関係へと繋がっていくバリントン一家との出会いだ。バリントン家の人々から受ける謎の憎悪や温かい優しさの両方を感じ、戸惑いながらハリーは前へと進んで行く。ここでも、私はついつい深く感情移入してしまった。小説だとは知りながら、ハリーを全力で応援してしまうのが本作品の魅力の一つとも言えるだろう。ジェフリー・アーチャーの作品は、人物像が魅力的すぎて毎回主人公に肩入れしすぎてしまう。

ジェフリー・アーチャーの凄みが詰まった傑作

さすがジェフリー・アーチャーの作品である。物語は一筋縄ではいかなかった。先の展開が常に予測できないのだ。まさかの場面で、クリフトン一家にまつわる秘密やバリントン一家に関する秘密が露わになる。しかも想像以上にシリアスでシビアな現実だったりする。作者はこれを魅せたかったのかと思いきや、更に以外な事実が露になったりする。1つの小説の中に、計算しつくされた細かいシーンがちりばめられている。一体この物語はどこまでつづき、どこで終結するのか想像が出来ないというのが、作者であるジェフリー・アーチャーの作品の素晴らしさだと思う。今回の作品も文句無しです。脱帽。というのが私の感想だ。

また、1つの話を中心に様々な登場人物の視点で表す点も、物語を興味深いものにさせている。それぞれの登場人物の性格や考えがよくわかるからこそ、何が最も良い選択なのか、ハリーはどのように生きるべきなのか、ついつい一緒になって考えてしまったりする。人間の人生は、誰かにメリットがあれば誰かにデメリットがある場合が多くあるのだ。皆が幸せになるというのは中々難しい。少々自分の立場に置き換えて考えたりもさせられる。

独特の疾走感

疾走感があり、テンポの良いストーリー展開は本作品の特徴の一つだ。しかしながら場面によっては、テンポ良くことが運びすぎ、物足りなさを感ないこともない。また、多くの出来事がちりばめられていることから、全てを一貫性ある一つのストーリーへと完成させるのは難儀に見える。本当に伏線を全て回収できるのか1巻時点ではまだわからない。ただし、そこは作者の力量だろう。期待したいと思う。

1巻を読むと、7巻まで読むことに・・・

何となく人に薦められ読んだ1巻であったが、気がついたら7巻まで買ってしまった。更に言うとクリフトン年代記の世界を深く知りたい気持ちが強すぎて原書まで読み始めてしまった。そこでわかるのだが、日本語訳も素晴らしく上手い。海外本独特の読み辛さや違和感を感じさせず、人物それぞれがもつ個性を日本語で十分引き出している。海外本が苦手な方でもすらすら読めるのではないかと思う。

ちなみに、1巻を最後まで読んだ人の殆どは2巻も買ってしまうのではないかと予想する。なぜかというと、上流社会へと足を踏み入れ成功へと近づいたかと思うハリーの世界は突如戦争の世界へと突入するからだ。え、いきなりそうなるの?それで、どうやって完結させるの?と少々面食らったのは私だけではないはずだ。ただし、これも長いストーリーの中では欠かせない要素だろう。不自然に見えた出来事はやがて自然で必要不可欠な出来事となって物語を構成する。2巻も必見である。

“時のみぞ知る”というサブタイトルはこの物語を良く表していると思う。そう、彼らの人生の行き先は誰にもわからないのである。だからこそ面白い。もしも、2巻以降をまだ読んでいないのであれば是非とも読んでいただきたい。

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