ナオミとカナコ~直美と加奈子と達郎の心の傷
加奈子の心理状況はどのようなものだったのか
加奈子は、夫に暴力を受けているが、解決方法はないと考えどうすることもできないでいた。誰にも相談できず、助けを求められないその気持ちは、虐待をうけた彼女にしか理解できないものだ。
殺人をするまえに、逃げ道は、いくらでもあったようにも思える。雨が降っている中ベランダに出されて、鍵をかけられたり、何度もなぐられたり…命の危険ある時でも、加奈子は我慢をしていた。
このような行動は「抑圧」という「防衛機制」がはたらいていたと思う。夫は優しくしてくれるはず、これは愛情なのだという気持ちを、無意識的に苦痛な経験を心の中に閉じ込めようとしてしまったのだ。みなさんも、いじめの経験談で「わたしが我慢すればおさまるだろう」「いじめにあったのは、自分がいけないからだ」という話を聞いたことがあるのではないだろうか?
防衛機制は、心の問題でもある。これ以上自分が壊れないように、傷つかないようにするためのものなのだ。だから、解決するためには、難しく、友人などの力が必要ではなかろうか。しかし、直美の提案は、「殺人」という一番やってはいけないことだった。ちょうど服部達郎とそっくりな姿の林竜輝を見つけてしまったからということもあるが、友達のために、殺人をしてしまうのにはびっくりだった。
人間とはどんなことでもできてしまうのか?
直美は加奈子が暴力を受けていることを知り、加奈子の夫を殺害することを決意する。しかし、私が疑問に思ったのは、親友のために殺人を犯すことがあるのかということである。いくら、親友だと思っていたとしても、殺人を手伝うということは、考えにくい…
それに、親友と口では言っていたとしても、結局は他人である。育った環境や、性格というものは、人それぞれであり、心のどこかでは、他人と思うことは自然なことなのであると私は思う。一番近いのは同じ環境の中で育った家族や兄弟なのではないだろうか?(一概にそうとは言えないが)そのため、直美が殺人に成功し、その後に感じることは、「加奈子が助かってよかった」ではなく「このことを知ったら家族は絶対悲しむだろう」という後悔だと私は思う。しかし、この物語では、殺人を犯した後の後悔は、すこしは書かれていても、あまり重要視されていないようにも思える。このことがすごく、疑問でなぜなのだろうと感じていた。
しかし、物語が終板に近づくにつれこのような背景が原因なのかもしれないと思うようになった。その背景とは、直美の過去である。直美の母親も、昔夫に虐待をうけていた。それをみていた直美はやはり、DVなど暴力をおかす男に対して相当な嫌悪感をかんじていたのではないだろうか。そういう暴力をする人間を排除したいと心の底で願っていたのかもしれない。今回、親友ともいえる加奈子の状況を聞くことによって、その心の底に眠っていたものがあふれ出し、殺人という行動に出てきてしまったのではないか。と私は考察する。
そうであるならば、この物語でのすべての原因は、DVであり、DVが原因となり、いろいろなところへ発展する問題の恐ろしさを伝えたかったのではなかろうか。
達郎がDVをしてしまった原因
なぜ、達郎はDVをおかしてしまったのだろうか。家をみるかぎり、金銭的にも問題はなさそうだし、達郎の姉や、両親をみてみても、家族に問題があったとは到底思えないのである。
そこで、あげられる問題は、自己愛が強いのではないかということだ。達郎は銀行営業部課長代理だろいうのだから、頭もよく、昔から両親に「できる子」として育て上げられと考えられる。達郎自身には、「自分はできるのだ、何とかして評価を得なければいけない」と思うのと同時に「できなかったら捨てられてしまう、どうしよう」などと人間不信に陥っていたのではないだろうか。
その状況で、加奈子は暴力をふるっても、否定することはなく、自分から逃げていかない。「達郎には、自分が必要なのだ、今回でやめてくれるはずだ、これは私を愛してくれているのだ」と心の中で思ってしまっている。
加奈子にとっての達郎は私がいなければ生きていけない存在であり、達郎にとって加奈子はこんなことをしてまでも逃げていかない、愛してくれている存在なのだ。つまりお互いがお互いの依存関係になってしまっているのだ。
このような状況が続いたからこそ、DVはいつまでも続いたわけで、今回の殺人という行動が出てきてしまったのだろう。
DVの被害者も、加害者もどちらも心の問題を抱えている。それは、解決するためにはとてつもなく大きな問題で、解決できるかどうかはわからない。そのようなことを、このドラマでは伝えたかったのではなかろうか。
現在DV、虐待に限らず、多くの心の病にかかっている人はたくさんいる。心の問題は、傷を受けたことに気づかず、長い年月を過ぎてから分かる人も多い。
心の傷は一生消えないし、その傷を絆創膏で隠すことができたとしても、それはふとした瞬間にはがれて、でてきてしまうものなのである。
このドラマは、3人が3人とも心の傷をかかえ、見えないところで悩み苦難し、それが悪い方向へといってしまったともいえる。このような状況になる前に、なんとかして、解決策を探していかなければならないというメッセージがこめられているのではないだろうか。
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