ラストが切なくも温かい - 魔王の感想

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魔王

4.674.67
映像
4.50
脚本
4.63
キャスト
4.67
音楽
4.63
演出
4.25
感想数
4
観た人
8

ラストが切なくも温かい

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

大野智さんの初主演ドラマ「魔王」。最初は、なんか暗い雰囲気のドラマだな~なんて感じで真剣に見ていなかったのですが、途中からものすごく面白くなってきて、私の中で今までのドラマの中で一番好きなドラマとして君臨しています。夏になると見たくなる、儚くて切ないドラマです。

 

 

一番号泣したお姉さん(優香)との別れのシーン

 

真中友雄(大野智)は、“成瀬領”という人物に成り代わります。それは、成瀬領には目の見えない姉しか身内がいなかったからです。最初、この設定を聞いたときに、いやいや目が見えないからって全くの別人が成り代わっていたらわかるだろー!声とか違うし!!とツッコんでいたのですが、実はお姉さんはとっくに領が別人だということに気づいていたということがわかったシーン。あれは泣きました。それでも、領のことを守ってくれたところも。

 

お姉さんは、病室から出ることができず、生きていても何もいいことなんてないと思っていた。でも、再び人生が輝きだした。領が来てくれるようになったから。領が来る日だけが楽しみだった。だから失いたくなかったんですよね。お姉さんが全てを知っていたと悟り、もう二度と会いに来ることはないと心に決め、今までの感謝を伝えボロボロと涙を流す領。この領の涙が溢れて止まらないシーンは、本当に大号泣でした。私の友人は、お姉さんが領が本物ではないことを知っているのはとっくに気づいていたと言っていましたが、私は全然気づいていなかったのであのシーンは衝撃とともに本当に感動しました。でも、突然成りすましの人間が現れたら、本当の自分の弟はどこに行った!?こいつに殺されたのか!?と怖がるのが普通ですが、お姉さんがあれだけ領に心を開いていたのですから、領がどれだけ誠実に接してきたかがわかりますよね。

 

 

大野智の目の演技がスゴイ!

 

このドラマは、大野智さんの記念すべきドラマ初主演の作品ですよね。しかし、あまりの演技力の高さに衝撃を覚えました。セリフは少なめでしたし、淡々とした喋り方で演技が上手い下手というのはすこし判断しかねる役どころでしたが、とにかく目の演技がすごい!弁護士としての成瀬領はとても穏やかで優しい目をしているのに、復讐鬼に変身するときは目が悪魔に変わるのです。

 

 

これが最初のほうは、本当に復讐に燃える悪魔の目だったのですが、終盤からその目がまた変化していくのです。自分の弟を殺した芹沢直人(生田斗真)を苦しめるために芹沢一族を崩壊に追い込むことを計画する領ですが、父親(石坂浩二)の告白により直人は領の弟・英雄を意図的に刺したのではなかったという真実を知ります。そして、こんな悪い人間に見えるようであっても息子に対して最大の愛情を注いでいる一人の温かい父親だったということも、領にとってはショックを受ける事実だったのでしょう。父親と話をしたあとに、明らかに動揺を隠せないでいます。目は泳ぎ、迷いが生じます。しかし、ここまで進んできてしまった。もう後にはひけない。そんな思いが、領を突き進ませるのです。

 

 

優しさ、怒り、迷いなどをセリフなく全て目だけで語った大野さんの演技には、かなり感心させられました。大野さんは最近では「世界一難しい恋」でコメディにも挑戦していましたが、杉本哲太さんと小池栄子さんとの3人のシーンではいつもププっと笑わせてくれましたよね。コメディこそ本当に演技の上手い下手が出てしまう、なんていう評価もありますから、大野さんの演技力はやはりかなり高いと思われます。

 

 

成瀬領(大野智)を正しい世界に引き戻そうとしたたくさんの人々

 

そしてこのドラマの切ないところは、非常に多くの人々が成瀬領を明るく正しい道に引き戻そうと手を伸ばしていたところです。まず、その代表として領に恋心を抱く図書館司書のしおり(小林涼子)ですね。そして、前述した通り領を本物ではないと知りながら、ずっと会うのを楽しみにしてくれていたお姉さん(優香)、領の同僚たち。しおりが同僚たちと一緒に領の誕生会をこっそり祝おうとしているのをドア越しに聞いたときの領は、かなり心が揺れていましたよね。こんな温かい世界をもっと早く知っていたら、自分の人生はもっと違っていたかもしれないって、そう思ったのではないでしょうか?

 

 

領は、最後の復讐に向かう前にしおりに手紙を残しており「今までの過ちを捨て、新たな未来を、あなたと一緒に生きていけたら…あなたを近くに感じるたびに、何度そう夢見たかわかりません…」と綴っています。しかし、自分には死んだ弟に誓った復讐をやり遂げる義務がある。そして、もう引き返すことができない・・・。この決断は、本当に切なすぎます。

 

 

しかし、後戻りできないという理由以上に、しおりへの気持ちが本物だったからこそ、もう戻れないと感じてしまったのかな~と思います。すでにもう何人も殺してしまっている自分が、あんなにいい子のしおりと幸せな未来を生きていくのは不可能。しおりにも自分の罪を背負わせることになる。だからこそ、自分の罪にしおりだけは巻き込めないと思ったのでしょう。もっと早く出会っていれば・・・。この復讐が始まってしまう前に、しおりが領を止めることができていたら・・・。本当に残念でなりません。

 

 

領(大野智)と直人(生田斗真)が寄り添って息絶えるラストシーンが切なくも温かい

 

ついに最後に対峙する領と直人。直人はそこで初めて、本当の領の復讐が直人に領を殺させて、今度こそ“殺人”の罪を向き合わせることだったと気づきます。でも、どうしても領を撃つことができない・・・。領はここで、直人もまたずっと過去の罪に苦しんできたのだと悟ります。父親の間違った愛情によって、償いのチャンスを奪われてしまった。直人もまた被害者だったのかもしれません。

 

 

そして、もみ合ううちに銃が暴発して直人の腹部に。その時「死ぬな芹沢!死なないでくれ!」と叫ぶ領。これは、自分の復讐が果たせなくなるから死んで欲しくないという理由ではなかったと思います。本当に純粋に「死んで欲しくない!」という感情が溢れていたから。真実を知り、直人の苦悩が痛いほど伝わっていた領は、本当はもうとっくに直人のことを許していたんじゃないでしょうか。だから、生きて欲しいと心から願った。

 

 

寄り添うように共倒れて死んでいた二人。それは、まるで兄弟のよう。あの事件からずっと過去の自分の罪に苦しみながら生きていた直人と、ずっと直人に復讐することだけを考えて生きてきた領。お互いに、ずっと相手のことだけを考えて生きてきた人生といっても過言ではありません。お互いにもたれかかるように寄り添う二人の姿には、やっと許し許された安堵感を感じました。

 

 

二人とも死んでしまって本当に悲しいラストだったけど、やっぱりこうするしかなかったのかなと思わせる切なくも納得のラストでした。

 

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