伊藤計劃ワールド - 虐殺器官の感想

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虐殺器官

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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演出
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伊藤計劃ワールド

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
5.0
演出
4.5

目次

タイトルより中身を

読書好きの恋人から勧められて読み始めた一冊。ジャンルがSFと聞いて思わず星新一を思い描いてしまった。正直期待はしないで読み始めた作品だった。舞台は海外、それも世界を股にかけるので、入り込むのに少しだけ苦労した。海外の台詞調がサクサク読みやすい。と、内容に入る前の前置きはこの辺にして虐殺器官について書いていきます。

どのようにして虐殺は行われるか。

そもそも虐殺って何やねんって思いますよね。辞書によると、「むごい方法で殺すこと」だそうです。笑  ジョン・ポールという人物がどのようにして虐殺を促し、実行するのか、そして虐殺は止められるのかというスリリングな展開となっております。関与した国に大量虐殺を振りまくジョン・ポールは何者で、目的は何なのか。最後までわくわくしながら読み進められます。

本文中に気になったフレーズ集。

うまく内容を整理してお伝えする力がないので、独自の目線で、小説の中に散りばめられた濃いキャラクター達から吐き出されるフレーズをまとめていこうと思います。

まずはP.71「理由を告げずに逝くことは遺された物を呪縛するのだ。自分はなぜ気がつかなかったのか、自分が悪かったのではないか自分が他ならぬその死の理由ではないか。 死者は答えない。だからこの呪いは本質的に解かれることはありえないのだ。忘却というものがいかに頼りないか、誰でもそれを知っている。夜寝入りばなに突如襲い来る恥の記憶。 完璧に思い出さずにいられるような忘却を、僕らの脳は持ち合わせていない。人は完璧に憶えていることも、完璧に忘れることもできないのである。 」誰も彼もが身に覚えがあるような、かゆいところに手の届くかのようなフレーズ。忘却は頼りない、私もいつもそう思ってます。忘れたい過去を忘れたいですよね。「忘れたい過去」などと確固たるものにすればするほど忘れられないものです。

P.225「音楽は心を強姦するのだ。意味なんてのは、その上で取り澄ましている役に立たない貴族のようなもの。音は意味をバイパスすることができる。」これも深いしおもしろいフレーズです。音楽はこちらの準備など気にせず心に直接アクセスしてきます。心を強姦するのが音楽でよかった。とても素敵な言葉。

P.354「自由とは選ぶことができるということである。できることの可能性を捨てて、それを「わたし」の名のもとに選択するということである。」これも素敵なフレーズ。自由という不自由さを、矛盾を素直に表現できている言葉だと思う。

最後に

虐殺の言語やテロの危険性や、近代国家のデメリットその他諸々の未来にある危険を、リアルに描いている作品。物語としても傑作ですが、個人的に各キャラクターの放つ言葉がそれぞれ力があって面白い作品だと思います。ジョン・ポールが生み出した虐殺のプログラムのように、話す言葉や内容だけで色々な人の人生が変わっていくことは十分にあり得ます。それなら自分は幸福になる言語を生み出して、子供にひたすら聞かせていたいです。なんてそんな妄想をしながらまた繰り返し本作を読み返そうと思います。

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