等身大の気持ちが伝わるいい作品!
「主人公っぽくない人を主人公に」という作者の気持ち
まさかの40代、何もとりえのないバツイチの女性の日常から入るストーリー。うわーこれはだらだらと長い日常が繰り広げられてつまらなそう…まず1話を読み始めてそう思ってしまった私です。しかし、1巻読み終わるころには完全にファンに…!この人がこれからどうやって生きていくのだろう…?気になってしょうがなくなっていくんですよね、どんどん引き込まれて。
まず、ぐっと来たのは夜でしたね。厨房で野菜を切る仕事をしながら、老いた母と二人暮らしをしているたかこさん。バツイチで子持ちで、子どもはたまに会いに来る程度。約束していても来れないときがある。毎日が同じように、変わり映えなくただ通り過ぎていく。元来のコミュニケーション能力の低さはそのままに、年齢だけが積み重なっていく。それでもいいしなにも困らない。いつものようにお酒を飲んで床につく。そして当たり前のように夜眠っている。そんなとき、たかこさんが涙を流して天井を見つめていた…一生懸命生きてきたつもり。だけどつもりになっているだけで、実はがんばってなんかいなかった?どこで道を間違えた?何が原因?自分?何が自分をこうさせた…?そんな心の叫びが聞こえてくるようで、胸が締め付けられました。同じ女性だからわかる、これからそうなるかもしれないという恐怖、すべてを経験してきたつもりになっていて人生を決めつけて生きているたかこさん。そんなたかこさんが若者の曲と出会ってどんどん変わっていくんですからすごいです。でも確かに、人が変わる時は一瞬だなーと思うので、まさにこんな感じで、今まで何も意識していなかったところに実はものすごいものが転がっていて、キャッチした瞬間に人生が180度変わって見えてくる…そういうものだと思うので、もう胸が高鳴りまくりましたよ!
第1巻の内容はもちろん共感の嵐だったんですけど、巻末の作者メッセージがよりぐっときましたね~「人が描かないような人を主人公にしたい」というメッセージ…それが作者である入江喜和先生のロックだそうです。読者は絞られるだろうけど濃い読者が楽しんでくれれば…と書いているところ、とても素敵だと思いました。
曲1つで人生変わる奇跡
実際に私も、ある1曲に衝撃を受けて、その年はもうそればっかりずっと聴いて元気をもらい続け、どうにか生きていたという年がありました。その時は自分は不幸の中にいるとか、いやこれは通過点だとかわからず、ただただ苦しく、どうしたらいいのかわからない時期でした。そのときに本当に神様みたいに気持ちをわかってもらえる曲に出会えて、しかも気持ちを代弁してくれているような本にも出会えました。もうどうしようもなく泣けてきて、胸がいっぱいになったことを覚えています。そのおかげで一回りも二回りも強くなったと思っているので、たかこさんの青春やり直しがあまりに共感できてしまうのです。それなりに一生懸命、その時目の前にあることに自分なりに考えていたつもりで、でもそれは結局足りていなかったり、別に大事でもないところでなぜか踏ん張っていて、努力していたつもりになっていただけだった…がんばっていれば、それが間違っているとか誰も言わないし、自分でも何となく時間をたくさん使っているから正しいことだと思い込んでしまうことがあります。そして振り返ったときに何もなかったことに気づくんです。たかこさん。あなただけじゃないよ!夜に涙する人間はたくさんいるんだ!
個人的には、光一くんに出会えただけで3か月ぶりに女の子の日がやってきたたかこさんがかわいすぎて、そこでファンになってしまったと言っても過言ではありません。
いろんな人間がいていいんだと思わせてくれる
結婚したら、子どもを産み、立派に育てて大学まで通わせて、あとは素敵に老後を生きればいい。子どももまた、とりあえず高校・大学を出て、それなりにいい仕事につき、それなりに稼いで、何となく好きな人と出会ったら結婚して…
こうあるべき、こうあることが理想。そんなのくそくらえ。自分らしく生きていこう。好きなものを好きと言い、自分の信じる道をいこう。迷いながら前に進んでいくけれど、それは前みたいに何も選べなかった残念な自分じゃなくて、積極的に変わっていこうとする迷いだから、それすらも嬉しくありますよね。お母さんと別れた旦那の子どもである一花だけだったたかこさん。光一君の歌に出会って人生がばら色に輝いていく。美馬さん、自由なみきっぺ、憧れの光一くん、初めてかもしれない恋の相手の植松くん…どんどん見えなかった人に出会っていく…1つ変わったら全部変わる。それは、長く生きている大人にしかわからない感覚で、だからこそこの「たそがれたかこ」はおもしろすぎるんです。どこにでもいて、それなりにみんな生きているけれど、つまらない人生は一つもないなーって思わせてくれるし、思わず周りに何気なくいた人たちの人生すらも興味深くなってきてしまう。そんなエネルギーがこの物語にはありますね。まさに、一度腐った人だったら気持ちがわかるはず。
人生は何度でもやり直せる
たかこさんは、どんどんかわいく若返っていきます。若いときにできなかったことに40歳超えてどんどんチャレンジしていく。知らなかっただけで、本当はできてもおかしくなかったこと。おしゃれもそう、恋もそう。これを読んでいると、何歳になったっていいじゃないか、健康であればこそ、なんでもできるなーという気にさせてくれます。そして逆に、どんな結果も年のせいにはできないなということも痛感させます。歳をとって残念なのは体力が減ることぐらいなもので、考える力も経験も、病気にならない限りはひたすら磨かれていく。磨き続ければずっと光り続けるけど、磨かなければ腐って消え失せていく。だからいつでも全力に生きていかなければ人間らしくないなとすら思わせます。痛いなー共感させているようで、実は現実の辛さもぐさっと刺してきます。
たかこさんみたいに悩んでいる女性が本当にたくさんいると思うんですよね。夫をたてて、自分を殺して、やりたかったことをなかったことにしてしまった女性たちが本当にたくさん。そういう世相も反映して、たかこさんががんばることでそんな女性たちを応援してくれている気がしますね。たかこさんでもできる。じゃぁ私もきっとできる!
これからどんなことになっていくのか気になりすぎる
自分の子どもくらいの若さの少年に恋をしてしまったと気づいたたかこさん。これからどんなことになっていくのか…気になりすぎます。物語的に、リアルな女性像が描かれますから、もしかしたら普通に失恋かもしれない…光一くんに憧れて、美馬さんにポジティブシンキングを習って、植松くんに恋をして。できなかった青春全部を今になって一気に味わうことになったたかこさんが、失恋しちゃったら落ちぶれる?それとも大人のパワー全開に、切り替えの早さを見せてくれるのか…?どんな展開もありだなーと思うから、気長に見守っていくつもりでいますよ。まさかとは思うけど、憧れの光一くんとお知り合いになれる…とかそんな馬鹿な展開にはいきませんよね?それこそ無理だって、テレビやラジオのパーソナリティーなんて直に会えるもんじゃないんだから!ファンタジーにはしないでください!できるだけリアルにお願いいたします!
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