シビアな問題をアニマルたちが心温まるエピソードにしてくれる
表紙とのギャップに驚く
初めてこの漫画を手に取ったとき、かわいい漫画っぽいなと思いました。スタートも和やかな雰囲気で、コメディー要素強めか?と思いきや…いきなり事故で渚の両親(生まれてくる予定だった妹も)亡くなりました…え?ここからどの方向へ?と思ったら、アニマルセラピーを行う叔父さんが登場し、心に傷を負った渚をその道へ導くという…けっこう壮大なテーマになっていました。
渚は、カメラマンとしてほとんど家にいなかった父親の代わりに、母親を守ろうと生きているような男の子として描かれています。当時12歳。それなりにいろいろなことを考え始める時期でしょうか。それが目の前で母親の死に顔なんて見たら、心的外傷後ストレス障害になってもおかしくないよなー…元気にしていても時々フラッシュバックを起こす。辛いよね。自分を守って死んだなんて言われたら、もっと苦しい。今まで自分が守ろうと思ってきたものが、自分のせいで死んだって思っちゃったら、どう立ち直ったらいいのかわからない…すごく重い問題だなと思いました。そこを無理やり沖縄に連れ出してくれたのが叔父さん。ここで思うのは、やはりかわいそうだと塀に囲って生かすより、ぶち壊して成長させてくれる存在というのがどれだけありがたいかということですね。腫れもののように扱われるよりも、対等に戦う力を持たせようとしてくれる人。これほどありがたいものってないと思います。
救うことで救われるんだ
と言い切る叔父さん。いいこと言いますね。
渚が超人的な感じで描かれるザ・少年マンガ
12歳のころに目覚めた精神的ストレスを音として感じ取る能力。脳に過度な負担がかかったとき、こんな超人的な能力が身につく場合もあるのでしょうかね…能力身につくとかの前に、心が壊れて…みたいなブラックな方向もちらっと考えられました。明るい方向にいく漫画で良かったです。物語の初めにイルカを持ってきているのは、イルカが超音波を伝達ツールとして使っていることと渚の能力の接点みたいなものを表現している感じもしますね。助けられたイルカがまさか渚を助けるってことはない気もするけど…イルカってどれほど賢いのだろうか。
もちろん、渚がとてもいい育ち方をしているのもいいところではあります。守ろうとする気持ち、正義感、責任感、それゆえの心の傷。全部が組み合わさり、イルカを助けようとしたときの賢い選択。果たしてこれほどに考えて行動できる子がいるのだろうかと思いますが、超人的な能力の前に、そういう立派な人間であるということがうれしくもあります。少し物足りないなと思うのは、12歳の渚がいきなり19歳まで成長し、子どもの頃のイルカとのエピソードがもととなって心理学部へ進んでいるというところ。19歳になって、自分の能力をうまく使って生きるようになっているんですが、それまでの7年間の苦悩みたいなものってどうだったんだろう?というのがもう少し見たい気もしました。19歳になった渚がアニマルたちとともに心に問題があって動けずにいる人をどんどん癒していくので、もはや超人になっちゃってるんですよね。そこにくるまでの紆余曲折みたいなものは、もっとなかったんだろうか?すでに能力が開花しちゃっていると、少し寂しいです。
社会問題への提起だったりもする
スタートの居眠り運転による事故に始まり、いじめとも思える学校で声を失っていた少年や、コミュニケーションに悩む人、そして人を殺してしまったという十字架を背負って死を考えている人…果たして何がいけなかったのか?自分で自問自答して、考えていても答えなんて出ないんですよね。どこかで踏ん切りをつけて、自分で1歩前に歩いてみないと始まらない。でも今のところから変わっていくことも怖いから、自分の殻の中だけで閉じこもって、自分が悪いんだと悲観的になって、自分が悪いとわかっているように見せかけて実はそんな自分は自分だけが理解できるみたいな…完全な負のループの中にいる。それが精神的なもろさを持つ人の特徴なんだと思います。そこから脱却できるのかどうかは、誰かの道しるべが必要だったり、自分で歩き出す勇気を持てるように後押ししてあげることだったり…とにかく少しでも立ち直る方向を向いてくれない限りは癒せない。そういうときに、アニマルたちがいいんですよね。人の言葉って時々ウザいと感じるじゃないですか。わかってるよ!って拒否したくなる人もいます。でも、犬だったり猫だったり…アニマルたちは何も言わない。でも確実に人を必要としていて、どんな人間であったとしても必要としてくれる。それが1歩踏み出す原動力にもなってくれるんだなーと思いました。そこがアニマルセラピーのすごさなのかもしれません。どんな年代の人でも読めちゃう作品だなーと思いました。
4巻という短さですっと終わった
渚がすでに能力開花した状態でどんどん心の問題を解決していくので、4巻ですっと終わりましたね。でもこのくらいでちょうどよかったかもしれません。すぐに渚の過去の問題にも区切りがついたし、あとはいろいろな人たちを自分たちなりの方法で救っていくんだ、という姿勢が見えてちょうどよく終わってよいでしょう。これ以上何か能力開花的なものがあってもファンタジーになってしまっておもしろくなくなってしまうし、人の心を救うことにアニマルたちがどう関わっていくのかというのは語りだしたらきりがないだろうし。渚がいきなり大人になっちゃったのは物足りなくはあるんですけどね。どうせならそこ多めにして、解決していくエピソードは少なくてもよかったのかな?
人を成長させてくれるのはその人にとってインパクトのある経験だけで、感動も衝撃も何もない人生ではおそらくどうしようもない人になってしまうでしょう。常に新しく、常にポジティブに生きていける人がもう少し多かったら、世の中もう少し明るいのかもしれませんね。
動物たちの気持ちはわからないけれど愛あるものと信じたい
漫画ですから、要所で愛らしい動物たちのセリフも出ています。本当にそう考えているの?と思ってしまうのが悪い癖…犬の気持ちはわからないじゃない。動物の気持ちってなんだろう?って思うとよく思い出すのが、何かの話で聞いたことがあるですが、従順に主人のお世話をしていたゴールデンレトリーバーが、首輪を外してもらったとたんに走り出し、子どものようにじゃれて遊び始めた…というエピソードです。犬にもオンとオフあって当たり前、犬にとっても仕えることはお仕事だよなーって。そうでなきゃ給料(ごはん)もらえないじゃない。愛ってなんだろう、家族ってなんだろうって考えだすときりがないけど、お互いに足りないものを補い合っている関係であると思えば、ウィンウィンでいい関係ってことなんでしょうか。どうしようもなく助けなきゃ!!って思ったりできるのは、人間くらいかもしれません。
ということで、動物がお医者さん?!というコミカルなタイトルとは裏腹に、けっこうシビアな問題が出されていく物語でしたね。それでも、絵はかわいいですし、登場するアニマルもかわいく描かれ、癒し効果は抜群です。もし周りにちょっと元気のない人がいたら、声をかけるときに参考になるような考え方も教えてくれるので、お役立ちな漫画であると思います。お互いに助け合って生きていけたら嬉しいなと思いました。
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