物語の流れが美しくまとまった秀作 - プピポー!の感想

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プピポー!

4.504.50
画力
2.50
ストーリー
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キャラクター
4.00
設定
5.00
演出
4.00
感想数
1
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物語の流れが美しくまとまった秀作

4.54.5
画力
2.5
ストーリー
5.0
キャラクター
4.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

読者を惹き付ける導入部の上手さ

『プピポー!』は押切蓮介氏による2007年から2009年までFlexComixブラッドにて連載された物語です。全三巻という読みやすい漫画として仕上がっています。

前半はギャグ展開が多めで謎のピンク生物のポーちゃんの造形もとぼけた親しみが沸くデザインとなっています。ストーリーもシリアスなものではなく、全体的に明るく適当な雰囲気を漂わせているため作者の過去作『でろでろ』に通じるものを感じるかもしれません。

ですが本作は一貫したストーリーをもつシリアスな漫画でもあります。ラストに明かされるポーちゃんの正体を知ったときに読者は胸を締め付けられるでしょう。またギャグからシリアスな展開への移行も見事なものとなっています。

ギャグとシリアスが混在した世界観

ホラーとコメディが紙一重なように、作者の本作における世界観もギャグとシリアスが混在した世界観となっています。例えば主人公の若葉ちゃんが人や霊にひどい罵倒を受けることがあるのです。この罵倒の内容が辛らつで、一歩間違えば鬱屈としたストーリーになってもおかしくはありません。ですがここでポーちゃんが助けにきます。見かけが丸ごとギャグなポーちゃんによって若葉ちゃんが助け出されると、それまでのシリアスな展開が中和されるのです。

作品の良し悪しを決める要素に「作品世界が開いているか、狭く閉じているか」という基準があります。もし普通にプピポーのストーリーを描いてしまうとシリアス一辺倒になり作品世界は狭く硬いものとなってしまうでしょう。ですが本作ではギャグを随所に入れ込むことで緊張感を随時緩和することに成功し、作品世界が開けたものとなっています。通奏低音のようなギャグとシリアスの混在を上手く体現した作品が『プピポー!』なのです。

全てはラストの展開のために

本作はラストのために存在している漫画です。ポーちゃんの正体を明らかにする旅の道のりと言えるかもしれません。恐らく作者は始めから本筋となる設定を考え出していたのでしょう。途中で現れる様々な伏線やそれぞれの運命というものがポーちゃんの正体に収束していく流れは見事なものです。

導入部にはギャグを用いつつ段々とシリアスな要素を混ぜ込み進んでいくストーリー展開は見事と言う他ありません。正に読者が引き込まれるという体験をさせてくれます。舞台も固定された世界ではなく次々と移って行くため飽きることも無く読むことができるでしょう。娯楽としての漫画というものを意識していることが分かります。

ラストで明らかになるポーちゃんの正体は何とも悲しいものでした。献身、無償の愛、純粋、犠牲、といった悲劇的な観念が読者の胸中に訪れるものです。またそのデザインが無垢なものなのでより一層締め付けられる思いがします。こうしたポーちゃんという存在の設定を考え出すことは常人には難しいでしょう。作者の才能をうかがわせるラストでもあるのです。

漫画世界ならではの豊かさを再確認させてくれる

現実にはありとあらゆる制約がありますが、漫画にはそんなものはありません。作品世界の中では何をしても良いのです。本作はそうした利点を自由に生かしているように見えます。例えば主人公の友人を助け出すためにあの世とこの世の狭間にあるような街へ行くことになるのですが、その行き方は「ポーちゃんの能力」によるものです。あらゆる説明を排してポーちゃんの能力によって行くことができるのです。

その街では天国行きの列車を待つ死者で溢れ、悪人を取り締まる更生施設の職員が巡回をしています。また更生施設では「もっと…女遊びがしたかった…」という囚人に対し看守が「モテない!モテない!」と叫んでいたりするのです。こうした世界に合理的な説明は一切無く、また必要もありません。面白さを優先した世界を構築し、不要な説明は省くことで漫画自体のテンポも良いものとなっています。

本作品はストーリーという主軸さえ整っていれば自由に世界を構築することができるということの証明と言えるかもしれません。漫画を描こうとする方にとって行き詰まったときに作品作りの良い参考となるでしょう。

思いや信念こそが力となる

本作では様々な問題が起こりますが、それを解決する方法はどれも人の思いです。技術ではなく信念こそが問題を解決するものだと力説しているようにも見えます。主人公や相手役、友人から家族まで誰もがそれぞれの信念を貫き問題を解決しようと奮闘する姿が描かれているのです。そしてその思いを集約した姿こそがポーちゃんなのでしょう。そうした意味ではポーちゃんは希望の結晶とも言えます。

ポーちゃんはある種、神のような存在でもあり最もか弱い存在でもあります。そんなポーちゃんが最後に見せる姿は人間の可能性を読者に知らしめているのでしょう。現実で苦しい立場になったときにはポーちゃんの事を思い出せば乗り越えられるはずです。

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