弱小バスケ部から始まる王道ストーリーなのに妙にリアル
才能だけじゃない、リアルな成長がわかる
数々のバスケットボールを描いた作品がある中で、あひるの空はちょっと違った雰囲気があります。弱小で、何もないところから、一からバスケ部が立ち上げられ、どんどん強くなっていく。もちろん王道のストーリーではあるのに、どこかリアル。本当に部活動に打ち込んでいる姿が共感が持てるし、1人1人がもちろん才能を持っているんだけれど、決して最強じゃないあたりが自分たちと同じ目線にある気がしてきます。
バスケが好きで、楽しくて、どんどんうまくなっていく人…一方で高校から初心者で、センスがなくて、それでもがむしゃらにがんばっている人…自分が足を引っ張っているかもしれない。こんなにみんなが、バスケが好きなのに、やめる決断をしなければならない…茶木…(泣)このときはもう、なんて言ったらいいのかわかりませんでしたね。こんなに自分の中心にあったものを失う決断ってどんなに重かっただろうかと。大事なのに、憎いと思ってしまう。部活をやめようと決める人の気持ちがすごくせつなくて、でもリアルで、心を打ちます。こんなに瀬戸際の部分を細かく描写してくれるマンガってなかなかないので、じーーーんとしちゃうんだなー…
キャラクター1人1人が深い
とにかくバスケ部にいる1人1人が最高のキャラクターたち。天才は1人もいないと言えるかもしれません。強いて言えばトビと千秋かな。空は3ポイントシューターとしての才能を持つが身長が圧倒的にない、百春は抜群のセンターとしてのジャンプ力とリバウンド力を持っているがシュートがとにかく下手、千秋は最高のパッサーで司令塔だが完全に引き立て役でシュートはほぼなし、トビがフォワードのエースとしてオールラウンダーに活躍するが膝に爆弾を抱えている、茂吉は恵まれた身長を持つが持久力がからっきしにない…などなど、長所と短所をそれぞれが持ち、それとどう向き合って克服していこうとするのか、そういうところが深いんですよね。もちろん、マンガなので同じような境遇の敵もちょうどよくいるのですが、敵チームも同じくいろんな思いをもってコートに立っている。このコートに立てるまでには紆余曲折があって、成長して、今がある。深いな~これだけ真剣に物事に打ち込んだことが果たしてあったのだろうかと思うほど、それだけバスケに打ち込んでいたら、人生違っていたかもなーと思わずにはいられません。
後半からは坂田監督が辞めて空のお父さんがコーチに…っていうのもよくありそうじゃないですか?それこそ田舎の弱小チームに。そういうちょっとした演出がリアリティを生んでると思います。それに、新入生が入ってきて、その新入生たちのキャラクターもすごくいいんです。完全に感覚だけでなんでもそれなりにこなしてしまうが1つに打ち込んだことはない小南、完全に才能がないけど誰よりも努力する才能があるよしお、一度入部してやめてしまったが先輩たちの戦いぶりをみてまた入部を決める中田・小池・和田…いかにテキトーになんとなーくいるキャラがいないか、その設定1つ1つが主人公級で、1人1人に感情移入しまくりです。誰もがバスケットボールという競技を共有して、人間が成長していくんですけど、誰一人欠けても足りない。そう思わせてくれるチームだなーと感心します。
敗北すら美しい
結局百春と千秋の代ではインターハイへは行けなかった。あれだけ苦難を乗り越えて、何にもなかった最低のクズから一生懸命這い上がって、ケガとも戦って挑んだ県大会の決勝戦…それでも負けるんですよね。強いチームが必ず勝ち、弱いチームは負ける。スポーツってそういうものだし、負ける側には負ける理由が必ずある。悔しいけど…でもそれすらあひるの空ではきれいにまとまってるし、そこから人間がどう変わっていくか、それを乗り越えて何が起こるか、そういうのを見せてくれるので楽しくなります。
たいていスポーツマンガでは女子部のことをあまり描かないけれど、あひるの空ではきっちり絡めて展開させています。お互いに影響を受けて強くなっていく。なんか恋が混じってるあたりもすごいリアルだなーこういう状況ってよくあったよなーと共感してしまいます。バスケで優勝したら、負けたら、終わりなのではない。そこからまた始まっていくものがある。そこまで描いてくれるのがうれしいんですよね。なかなか終わった後の世界を描いてくれるマンガってないので…日向武史先生もストーリー展開を相当考えてるから、よく連載休載するんですよね。それくらい、九頭龍高校バスケ部の面々は役割がでかすぎる。どんな方向だったとしてもアリなんだけど、それでもこいつらだったらどういうことを決断するかなって相当考えてると思いますよ。お疲れ様です(笑)。いつも楽しませてもらっています。
負けて、打ちひしがれてどうしようもないくらい落ち込んで、そこから這い上がりたい…そういうときにあひるの空は読みたくなります。
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