問答無用に完成度の高い脚本を楽しむ - 運命じゃない人の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

運命じゃない人

4.724.72
映像
4.38
脚本
4.90
キャスト
4.30
音楽
4.20
演出
4.96
感想数
5
観た人
10

問答無用に完成度の高い脚本を楽しむ

4.64.6
映像
3.9
脚本
5.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.8

目次

新作が待ち遠しい

内田けんじ監督、寡作なのでいつもほんとーーうに待ち遠しいのですけれど、日本映画の監督の中では最も楽しみに新作を待っている監督のひとりです。近作は「鍵泥棒のメソッド」でこれもあっぱれな作品でしたが、もう4年前。早く新作が見たいものです。

何故か全然メディアに登場しない内田監督。李相日監督のような、というとあれですが、ぶっきらぼうなタイプでもなく、むしろウィットに富んだ、かなり喋れる人とお見受けするのですが、新作の公開のプロモーションの時でさえ、あまり前に出て話したりすることがないという印象です。「鍵泥棒のメソッド」などは、三谷作品ほどまで行かなくとも、もうちょっと派手に宣伝を打てば、もっともっと話題になって当然だったろうなと思います。そういう昨今のプロモーションのやり方があまり好きでないのかなあ。

当然HPもなければSNSもない、本も書かない。私のように新作を心待ちにしているファンからすると、もうちょっとオープンにしてもらえると助かるのにとは思いますが、何か訳があるのでしょう。今後も辛抱強く待ちます。

問答無用に面白いスクリプト

内田作品は、込み入ったトリッキーな脚本が何よりの持ち味で、これほど徹底してお話を作り込み、しかし結果的に、これほどただただ誰でも普通にあっけらかんと楽しめるものを作るという心意気がすばらしい。監督自身もインタビューなどでたびたび「好きな監督はスピールバーグ」「マニアックではなく、王道を行きたい」などと語っています。

今の日本国内には、彼のような作風の監督は知るかぎりいません。誰とも似てない。構造的には「パルプ・フィクション」や「レザボア・ドッグス」など比較的初期のタランティーノ作品や、ドイツ映画の「ラン・ローラ・ラン」などを想起させます。けれど、お話の緻密さという点ではむしろタランティーノよりよほど凝っている。いずれにしても、多面的な視点でもって時間を行ったり来たりする物語というのは、何か人を無性にわくわくさせるものなのでしょうね。

内田監督はぴあフィルムフェスティバル出身で、この作品はスカラシップで製作された監督の長編デビュー作です。それだけにインディーズ感というか、平たく言えば撮影が自主映画ぽく、音楽も非常に素朴。でも今見返すと、それが逆にわくわくと面白い気分を高めてくれるような独特の親密さになっています。

とにかくどこまでもお話が面白い、ただただ普通に面白い!本作にはメジャーな俳優も出ていないので、さほど映画好きじゃない人は一見食指が動きにくいかもしれませんが、そういう人にこそ見て欲しい。この映画は「めっけもん」です。

ちょっと間抜けな愛すべき人間たちが繰り広げる一夜のどたばた喜劇

作品はある一晩の出来事。中心となる登場人物それぞれの視点にフィーチャーしたシークエンスを繋ぎ合わせて多層的にお話が語られていきます。

こうだと思い込んで何気なく見ていたものが、別の人物の視点に切り替わるたびに少し時間が巻き戻り、再度別の視点で語られると、「え、そういう意味だったの!」「そこにこの人が実は居合わせたの?」というような驚きの新事実がいちいち提示されるのです。シークエンスが変わるたびに、トリッキーで人を食ったようなくすくす笑いを誘う罠が何重にも周到にかけられています。

これ、どういう考え方と利害関係を持った人物がどういう人間関係と行動原則に基づいて動くかということや、誰が何時何分にどこにいるかまでを全部把握していないと成立しない脚本なので、作るのには本当に骨が折れることだろうなあと思います。そういう意味では推理小説的な成り立ちの物語です。

ただ、推理小説と違うのは、登場人物たちの動きが、観客だけに丸見えなところ。次に何が起こるかということも分かってしまう部分も多々あるので、あーあ、ばかだねえ、と観客は高みから安心して人間たちの滑稽さを笑うという、なんとも気持ちが良くって、なおかつスリルいっぱいの体験ができる作品だと言えます。

予算が豊富でない作品でもプロットの力でこれだけ面白く見せた、という所がもちろんこの作品の一番の魅力なのですが、そんな中でもキャストも皆いい感じにはまっていました。現在もジャンルを問わず、多作で活躍している俳優が多くいます。

缶コーヒーのCMや、企業もののドラマのサラリーマン役などで見かけると「あ、ミヤタがまた出てる」と思う、地味が持ち味の主演の中村靖日、男前の探偵役の山中聡は、最近では橋口亮輔監督の「恋人たち」での演技が印象深かったです。霧島れいかは、はかなげなお母さん役なんかでテレビでよく見るし、悪女役の板谷由は女優というよりもはやキャスター。個人的にはちゃらいヤクザの親分さん(山下規介)も好きでした。

皆、主役級の役者さんではないかもしれませんが、きっちりこの作品の面白さを下支えしているなと思い、それも好印象です。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

感想をもっと見る(5件)

関連するタグ

運命じゃない人を観た人はこんな映画も観ています

運命じゃない人が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ