寺と恋愛の異色作 - 寺ガールの感想

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寺ガール

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
2.50
感想数
1
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1

寺と恋愛の異色作

3.03.0
画力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
2.5

目次

大御所が切り開く新境地

少女漫画家は少年漫画家と比べ、漫画家生活が息長いように思える。

激戦区の少年漫画界では、日々の打ち切りや時代の流れでありとあらゆる作家たちが現れては消え現れては消えていくが、少女漫画ではそういったことはあまり見られない。描き続けられる人が残っていく。そのように思える。

水沢めぐみは少女漫画界のなかでも、かなり大御所の部類に入るだろう。2016年で53歳。16歳のときにデビューしているはずだから、漫画家生活30年を超える。筆者が子供のころは『姫ちゃんのリボン』がアニメ放送していたと記憶しているから、幅広い世代の女性たちの記憶に残っている作家といえるだろう。

しかしそれだけ、少女漫画界の第一線で走り続けているというのは、あらためて考えても素晴らしいことだ。失礼ながら、年を重ねてから少女の気持ちに寄り添った漫画を描くということは決して簡単なことではない。

だが『寺ガール』を読んで、水沢めぐみのポテンションの強さを再認識することが出来た。大御所が大御所たる理由が、そこにはあったのだ。

少女漫画と寺というジャンルを切り開いた「才能」

最近、若い女性たちの間で仏像や寺のブームが起こっていると盛んにテレビで特集されているのにも関わらず、あまりエンターテイメント業界で取り上げられることはなかった。流行にはすぐ飛びつくTVドラマ業界でさえ今までノータッチなのだから、少女×寺が未開拓の分野であることは推して知るべしであろう。

そこに果敢に飛び込んでいけるのが、大御所・水沢めぐみの強さである。

単行本の柱などに書かれている作者コメントを見れば、『寺ガール』を描くうえで、水沢めぐみが寺院や僧侶など、関係各所に積極的に取材を重ねているのがよくわかる。

そのうえで、寺生まれの娘たちの恋愛事情など実際にある「リアル」を、教会生まれの少年との恋愛や跡継ぎ問題という、恋愛漫画必須の「障害」として変化させたうえで織り込み、少女漫画として完成させている。

重ねていうが、これは決して簡単なことではない。まず取材にはかなりの体力がいるし、専門家に話を聞くというのなら猶更だ。正確なものを作ろうとすればするほど、取材に長い時間と根気が必要になるだろう。漫画家のなかには、アシスタントや編集に全て取材や資料を任せて自分は描くだけ、という作家も多いと聞くだけに、なおさら水沢めぐみが本気でこの作品とテーマに向き合っているのがよくわかる(ただし、各々によって連載中などの事情があるだろうが)。

ここに水沢めぐみの漫画家としての意識が透けてみえる、と筆者は思う。自分の考えた物語を世の中に伝えたいだけの漫画家が溢れるなかで、「世の中の人のこういう(寺)世界があることを、読者たちに知っておいてもらいたい」という強い意志が、『寺ガール』を通して感じられるのだ。柱やオマケページによる用語説明が極めて丁寧なのも、それを裏付けている。

これが、水沢めぐみを息の長い漫画家にさせた「才能」なのだ、と筆者は思う。『寺ガール』からは、漫画を通したホスピタリティ精神が溢れているのだ。

ほんとうに寺の恋愛は難しいのか

そして、何を隠そう筆者もまた水沢めぐみ大先生の描く寺ガールたちの恋愛事情にふんふんと興味津々である。

「娘と教会の跡取りは結婚させられないのか」という実際の住職に質問するコーナーがあるが、「個人の自由」だとか「愛があれば大丈夫」的な意見がみられる。はぁー、となんともいえぬ嘆息を吐いてしまう。つまり、親としてはOKしたいけど、何の障害もない訳ではない、というようだ。恋愛結婚が主流の現代において、これはやっぱり特殊な世界といえるだろう。

そもそも寺の後継者不足はどこの寺でも深刻な問題だと聞いているが、これでは物語の主人公たちも悩むはずだ。家や檀家のために恋愛も制限が必要。進路も悩まねばならない……となると、ちょっと「かわいそう」とすら思ってしまう。

特に、檀家さんとの関係が一番の問題なのではないだろうか。光里はたびたび「檀家さんの目」を気にする様子が見られるが、檀家さんは寺にとって大事なお客さんであり、親戚も同然の付き合いだ。彼らを失望させることは、寺の信用を失墜させるのと同じことなのだろう。いわゆる「ムラ社会」が根付いている寺と檀家の関係性を考えれば、たとえ好きな男の子が出来たとしても、軽々しく近所を一緒に歩くことも出来ないのだろう。特に教会の息子となったらもっての他だ。

もちろん、現実の寺の後継者に聞いた訳ではないから、推測になってしまうことは否めない。しかし、現実にこんな社会があるとなれば、不憫な気持ちになってしまう。

『寺ガール』は水沢めぐみにより少女漫画として供された作品であるが、同時に寺社会において、いまだ古き慣習が根付いていることを再確認させてくれる漫画だ。

これを一つの問題提起として受け止めることも、必要な気がしてならない。

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