駆け引きとアクションを存分に楽しめるアクションムービーの名作 - 交渉人の感想

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駆け引きとアクションを存分に楽しめるアクションムービーの名作

4.64.6
映像
4.4
脚本
4.6
キャスト
4.5
音楽
4.1
演出
4.2

目次

篭城系パニックアクションの名作

これまでに見たパニックアクション映画の中でも最も印象深いもののひとつです。個人的には「タワーリング・インフェルノ」「ダイ・ハード(一作目)」「スピード(一作目)」と並ぶ面白さと思っています。「ダイ・ハード」や「スピード」のように安易に続編を作らなかったのがいいですねえ。主演がサミュエル・ジャクソンとケヴィン・スペイシーだったからということもありそうです。しかしこういった、一連の「高層ビルもの」の面白さってなんなのでしょうね。人間性がむき出しになるかんじが面白いのでしょうか。

監督のF・ゲイリー・グレイは元々音楽畑出身で、ヒップ・ホップアーティストのPVなどをたくさん手がけて来た人で、彼自身も黒人です。この作品監督時は弱冠31歳の若者で、このような隙のないエンターテインメントを一流の役者を起用してかっちり作り上げるというのは、相当なことだと思います。

彼が2003年に手がけた「ミニミニ大作戦(原題は「The Italian Job」あまりにひどい邦題!)」も同様にアクションが楽しい良質な作品でした。しかし映画監督とは厳しい商売で、キャリアを積み上げて来ても、ひとつ失敗作を製作してしまうとなかなか次が無いというシビアさで、2005年製作の「Be cool」の失敗以降はなかなかこのようなビッグバジェットの作品には起用されていない状況のようです。

定型を踏襲しつつ極上のエンターテインメントに仕立て上げる

本作は1998年の製作で、今から20年近く前の作品になります。それだけに、今見返すとわりに「シンプルに」感じられると思います。今のサスペンス映画は、陰謀がもう込み入っていて何が何だか、専門用語も色々出て来て・・・という作品も多く、個人的にはついていけなくて疲れてしまうようなものも多いのですけど、さすがに20年前の作品を今見返すと、利害関係のありようやトリックなどもわりにすんなりしているように感じられます。

でもけして単純なだけではなくて、とても脚本がいいのでぐいぐい引き込まれて見られると思います。思うのですが、映画ってそこまで激しく込み入っている必要ってあるんでしょうか。微に入り細に入った趣向は作品のクオリティーやリアリティーを担保するものではなく、作り手の自己満足なんじゃないかと思える作品もあります。

この映画の心地良さって、脚本をはじめとした様々な要素を非常にかっちりと押さえたなかでおもしろく見せる、プロフェッショナルらしい良い職人の仕事である部分ではないかと感じます。定型をきちんと押さえていながら小気味良い駆け引きとアクションがどちらもとても優れている上、脇役に至るまでの人物相関図も良く練られていると思います。

もちろん整合性の問題はいささかあって、何が何でもサミュエル・ジャクソン演じるローマンを射殺しようとするSWATチームの面々であるとか、人質の言動などが芝居回し的な動きを見せるなど、脇役がいかにも脇役な部分もあったりするのですが、「ルール破りのショックバリュー」という手を使わない中で、作品そのものと人物の魅力で見せていく安定感にクオリティーの高さを感じます。

ケヴィン・スペイシー!

この作品を初めて見た時の印象は、やはり「ケヴィン・スペイシーかっこいい!」でありました。サミュエル・ジャクソンの「本気」の気迫も素晴らしいですが、ケヴィン演じるクリス・セイビアンの切れ者ぶり、クールに理路整然と相手を論破していく知性と、肝の据わった型破りな言動にしびれます。

また、この作品は実際にセントルイスで起こった、警察の内部汚職をテーマにしており、我が身可愛さから罪の無いローマンひとりに罪をなすりつけて自分たちだけ助かろうとする「裏切り者」が仲間のなかに紛れ込んでいるという設定。

そのような醜い人々が、いかにも正義の振りをして保身をはかるという、何か現代社会の縮図のような人間のありように、セイビアンは感情的になるでもなく、あくまで冷静に交渉人らしい小気味良い駆け引きを交えながら、彼らの化けの皮をはがし、真実に迫っていく。

既成事実を捏造し、積み上げ、マスコミ的にもほとんどローマンは愚かで暴力的な犯人のレッテルを貼られ、罠にはめられそうになっていく中、その流れを切り裂くようにセイビアンが放つ、「一体どういうことなんだ。彼(ローマン)は仲間じゃないのか?あなたたちはみんなで彼を殺したがっている。何かあるとしか思えん!」というひと言に周囲が静まり返る。溜飲が下ります。

かといって、ローマンにやみくもに味方するでもなく、あくまで交渉人らしく駆け引きに次ぐ駆け引きでもって、最後のどんでん返しに至る面白さに拍手。

この映画、当初はローマンをケヴィン・スペイシーが演じる予定で、セイビアンはシルベスタ・スタローンにオファーされていたそう。スタローンが断ったことで、ケヴィンがセイビアンを演じることになったそうなのですが、映画にとってこれは僥倖だったと言わざるをえません。スタローンの交渉人だったら、こんな名作にはなってなかったと思います。

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言葉使い 魔法使い 

この映画はチェスをするような醍醐味があります。ああ言えばこう動き、こう行動すると先へ先へと読む楽しさがあります。ストーリーを追ううちに、どちらに感情移入しているか、またはこう言えと自分の心で語りだせるのです。このタイトルの交渉人とは、犯罪者と話し合って、言葉の中から共通点や思考の穴を探し、印象コントロールして感情の先読みして、なんとか自分の有利なところへ持っていこうとします。相手の言葉の中から相手の教育程度、なまり、人種、環境、反応する点、動きをコントロールして、動かすのが描かれていますが、人の心理やパニックした時の人の選択を考える事が好きな人には、是非とお勧めしたいです。心理学などを学んで行う事が多いですが、学んでも必ずできるとは言えないので、これは多分にうまれ持った才能がモノを言う分野だと思います。 詐欺師も同じ系統の言葉使いの現象を使用しますね。またカルト、自己啓発セミナーなど、...この感想を読む

4.54.5
  • 82view
  • 448文字

高IQ同士の超絶駆け引きがたまらない

ダニー・ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)は、シカゴ警察東分署の敏腕交渉人だった。ある日相棒のネイサンの年金基金が盗まれていることを知り、内部の犯行とダニーがネイサンから聞かされる。後日ネイサンと会う約束をしたダニーは、殺害されているネイサンを見つけたところ、ネイサンの殺人容疑と年金基金を横領した罪で拘束されてしまう。司法取引のためたった1日の猶予を与えられたダニーは、妻の制止を振り切り、内務局にいた4人を人質にしてビルに立てこもってしまう。ダニーは西分署の敏腕交渉人のクリス・セービアンを交渉人に指名し、ダニーとクリスの交渉人同士のすさまじい駆け引きが繰り広げられていくが・・・・・・。シリアスな作品からメジャーな作品まで幅広い役柄をこなすカメレオン俳優、サミュエル・L・ジャクソンと、『アメリカン・ビューティー』でアカデミー最優秀主演男優賞を獲得した名優、ケビン・スペイシーの非常にハイレベ...この感想を読む

3.53.5
  • 黝璽黝璽
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  • 707文字

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