忍者が繰り広げる時代劇
主人公の違和感
「獣兵衛忍風伝」の主人公である獣兵衛は、とても格好良いキャラクターだと思います。
忍術めいた技を使うことなく、剣術のみで戦っている印象です。刀に糸を仕込んでおり、刀を手放すことがあっても、糸を手繰り寄せることで、常に戦闘形態を崩すことなく戦えます。非現実的な技を使わないことが、獣兵衛の格好良さなのではないでしょうか。
他の登場人物・忍者においては、不思議な技を忍術と称して使います。
そういった意味では、周囲の登場人物と比較しても、異端な存在だといえるのではないでしょうか。しかし、そこが正々堂々と戦う姿勢を感じて、格好良く映るのだと思います。非現実的な技を使うことで、もっと強い主人公に設定できたのでしょうが、卑怯さは拭えないものになったように感じます。
また、人物像的にも仲間想いで優しいです。
性格面でも、観る側を惹きつける人間性を感じられます。女性であれば惚れてしまうと思わせる内面においても格好良い主人公なのではないでしょうか。ヒロインである陽炎(かげろう)が惚れてしまうのも頷けてしまいます。
非の打ちどころのない主人公に感じられるのですが、どうしても拭えない違和感があります。
それは、ズバリ声の問題です。
そう感じるのは私だけかもしれませんが、獣兵衛の声優は、山寺 宏一さんが担当されています。山寺 宏一さんといえば、バラエティー番組などでも活躍されることの多いタレントになってきました。山寺 宏一さんの声は、印象が固まってきているように思うのです。気さくな方で、決して悪い印象の方ではありません。しかし、獣兵衛の印象と合致するのか、と考えると別のように思います。山寺 宏一さんはタレント業ではなく、声優が本業の方なのだと認識しています。声を使い分けにおいても、プロの領域の中でも抜群のレベルにある方だと思います。ただ、山寺 宏一さんの声質と獣兵衛の印象が合致しないように思えて成りませんでした。
そのように感じたのは、私だけなのでしょうか。
しかし、私はアニメ本編の一部始終において、ずっと考えや印象が変わることがありませんでした。また、山寺 宏一さんのタレントにおけるイメージが頭に刷り込まれていることで、私自身がそう感じられるだけなのかもしれません。
これは、山寺 宏一さんが悪いのではなく、獣兵衛の声に山寺 宏一さんを選んだキャスティングが悪かったように思えます。
陽炎の女性らしさ
アニメ本編で、ヒロインの陽炎は、ずっと強がっている印象です。
獣兵衛に女性扱いされることを受け入れられなかったのではないでしょうか。「くノ一」とは、女性の忍びを指す言葉ですが、女性らしさを捨てた存在だと伺ったことがあります。任務が最優先の忍びにおいて、内面の女性らしさを切り捨てる覚悟が必要だったのだと思います。
陽炎においても、まさに女性らしさを切り捨てた存在だったのだと思います。
そして、これまで仲間から女性として扱われたことがないことで、それが当然のこととして受け止めていたのではないでしょうか。しかし、獣兵衛は、「くノ一」としてではなく、女性として陽炎に接しました。そのことから物語冒頭から中盤まで、陽炎の中で、「くノ一」として甘くみられているという認識しか持たなかったのでしょう。
しかし、獣兵衛の陽炎に対する接し方は、一向に変わる気配がありません。
それが、陽炎の中でフラストレーションとして、少しずつ蓄積していったように感じられます。現に、陽炎は獣兵衛のことを助けようと行動しますが、獣兵衛に対する態度は、優しい表情は見せることがありませんでした。
「くノ一」としては駄目なことなのかもしれませんが、自分のことを身を挺して懸命に助けてくれる獣兵衛に惹かれていったのだと思います。惹かれる、という感情は、切り捨てたはずの女性らしい部分なのでしょう。
最後の最後、陽炎が死ぬときになって、ようやく自分自身の感情に素直になれたのだと思います。
そして、解毒の為には獣兵衛は陽炎を抱かなければなりませんでした。しかし、自分の命より、自分自身と陽炎の女性としての尊厳を重んじた獣兵衛は格好良いです。
鬼門衆の頭領は強すぎ
鬼門衆の頭領である弦馬は、めちゃくちゃ強い存在でした。
鬼門衆の忍びたちが特殊能力を使うので、相当に強い存在ですが、弦馬の強さは段違い過ぎたように思います。あまりに強すぎて、獣兵衛に倒される姿が想像できないレベルでした。
特に、物語のクライマックスシーンである獣兵衛と弦馬の一騎打ちでは、弦馬は一刀両断され、身体が真っ二つになっても再生しました。不死身すぎて勝てるわけがないように感じられたのが面白かった部分です。
しかし、弦馬が倒される様子は、けっこう衝撃的だったように思います。
こんなヤツ倒せるわけがないと思っていた次の展開で、流れてきた金の液体に飲み込まれ、そのまま固まってしまいました。勝てないと思わせておいて、一気に勝負が決まったので驚きは大きかったです。
きっと、金で固まった弦馬は、厳密にはまだ死んでいないように思います。表面の固まった金を溶かすことで復活するのであろう、と考えられます。そう考えると、生きたまま身動きできず、海底に沈み続ける結末は、生き地獄以外のなにものでもないように思えないでしょうか。
その後のことを想像してみると、これ以上ない凄惨な倒され方でした。
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