(陰からこっそり)いつまでも見ていたい二人!
出会ったことが大正解の二人
夏目イサク作品にハズレはないと思っている読者ですが、そのなかでもこの作品は、個人的に大当たりでした。何度読み返しても、ドキッとして、キュンとして、元気がもらえます。
正義感が強くて熱血で、でもちょっと不器用な尾上と、世の中に対して覚めていて、他人との間に壁を作って要領よく生きている蕪木。仕事でコンビを組むことがなければ、お互いに嫌悪感か無関心しか抱かないまま終わっていたかもしれませんが、仕事で無理矢理コンビを組まされたことで、お互いの抱えている生きにくさや孤独を理解しあうだけでなく、全部をプラスに変えてしまうパワフルなチームになってしまいます。その経緯が、なんともいえず気持ちがよいのです。
それは恋でなくてもよかったのかもしれないけれど
反発し合いながらも、スクープのために二人っきりで過酷な張り込みをして、時にはヤクザがらみの危険の状況にも追い込まれ、次第に信頼の絆が生まれて……
同性同士なのだから、そこで「親友」になってもよかつたのに、「恋」が生まれてしまう経緯が、このお話では、絶妙に自然に、なおかつ、おいしく描かれていると思います。
自分の恋心に気づいてしまって盛大におののき、猛烈に挙動不審となる尾上。その尾上の様子をみていて、色恋沙汰に長けている蕪木は、すぐに恋の相手が自分だと察知するのですが、尾上のあまりの純情さに感染したかのように、自分も恋の落とし穴にすっぽりハマってしまいます。
人をだますような汚れ仕事も割り切ってこなす蕪木ですが、もともと尾上以上にピュアで繊細なタイプ。だからこそ、他人との間に分厚い壁をつくって踏み込ませないようにしていたのでしょうけれど、尾上はその壁を簡単に飛び越えて、蕪木の本来の情の深さやのびやかさを、一気に復活させてしまいます。見ていて気持ちの明るくなるような、関係の変化です。
仕事の上では、尾上にとっての蕪木は、ピンチを救ってくれるウルトラマンか救世主かという存在ですが、メンタルな面では、尾上のほうが蕪木にとっては、白馬の王子様的存在だとも言えるでしょう。これはもう、友愛にとどまらず恋愛に突入しても仕方がないというか、そのほうが自然といってもいい関係だろうと思います。だって、ほかの人間か割り込める余地が、もうどこにもないのですから。
脇役がみんな楽しい
この作品、脇役が、それぞれ背後にドラマを背負っている感じで、存在感がくっきりしているのも魅力だと思います。
一番好きなのは、二人の行きつけの居酒屋をやっている、まさやん。彼は尾上の感情が「恋」であることを最初に見抜いた人物であり、なりゆきで、別に知りたくもない二人の恋の成長過程や痴話喧嘩の果てまで、見届ける役割を担ってしまう、気の毒な存在でもあります。まさやんの行く末に幸あれと祈っている読者は、たぶん多いはず。彼の物語も知りたいですが、まさやんには、「彼氏」てはなく「彼女」がいたほうが自然かもしれません(続巻で出てくる、蕪木の妹とか、どうかなと思うのですが、それはないのかな…)
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)