いうなれば大人の絵本
独特の作画で怪しさ漂う
細長い身体に長い足と、登場する人物や動物を極端にデフォルメされています。それが独特の雰囲気を醸し出しており、なんとも怪しいイメージが漂っています。
しかし、1話だけでも観てしまうと印象がガラリと変わって、洋物の絵本のような感覚に切り替わります。所見では怖い物語なのか、と思ってしまいますが、中身は癒し系でほのぼのとさせてくれるものなので、妙な安心感があります。観る側の勝手な思い込みかもしれませんが、怖い物語なのか、と思わせておいて全然違う方向のものだと与えられる安心感も一層に強くなるように思います。
これは制作スタッフが意図的にされたものではないと思います。ただ、結果的にそうなった偶発的なものではないでしょうか。思わぬかたちで、癒し効果の増幅作用につながっているように感じます。
結果的には良い方向に作用していますので、私としては良い印象を抱きます。
物語展開も独特なもの
どの話にも共通しているルールのようなものを感じられます。それは物語展開という点において、観る側に想像ができないような意外性があり、驚かされる仕組みで構成されていることです。1話1話が短いショートアニメの構成になっているので、ストーリー性においては薄いのは否めません。しかし、それを補う為、意図的に意外な展開をさせるようものがあって制作されていることが伺えます。そして、意外性のベクトルにおいても独特な雰囲気があり、不思議な世界観を演出しています。
大きなカエルの上に建てられた街並みは、観る者の想像を遥かに超えたものなのではないでしょうか。また、何故にカエルなのか分からないですし、必然性も明確にされていません。必然性がなく不思議には思えるのですが、旅人に映っている目の前の出来事が事実なのであって、そこに必然性は不要で関係ないのかもしれません。
旅人のキャラクター性①
「或る旅人の日記」という作品で癒し効果を与える重要な要素が、旅人自身の人柄であり、キャラクター性だと考えられます。きっと、不思議なものを見たくて、面白い体験をしたくて、旅を続けているのでしょう。この方の探究心、好奇心が前提となっていて物語が構成されています。一般的に「旅」というと、目的の有無で意味合いは大きく変わってくるように思います。
私どもが旅行というと目的は観光であり、その国・土地の名所と呼ばれるところを巡ることが多いのではないでしょうか。そして、レジャー目的ということも挙げられます。スキューバーダイビングやゴルフに代表される遊び、温泉や食べ物に代表される休息など、様々のことが考えられます。
しかし、このアニメ作品における旅人は、旅をする目的が明確にされていません。強いて目的を挙げるのであれば、前述のように探究心・好奇心を満たすことだと思うのです。
探究心・好奇心を満たす旅なのであれば、危険は付き物なのではないでしょうか。しかし、危険な場面の描写は一切なく、不思議なものを見る、体験することに徹底されています。切迫感があるような内容にしていないことが、アニメ本編から感じられる癒し効果につながっていると思います。
旅人のキャラクター性②
旅人の性格が良い面も、アニメ本編から感じられる癒し効果に大きく作用しています。夕食を食べ損ねてしまっても、周りの子供たちの笑顔で満たされた、というアニメ本編の表現は旅人の性格を強調したものだと考えられます。
また、成り行きで野宿することになっても、拗ねたり、嘆いたり、愚痴をこぼすことはないです。それどころか、アニメ本編の中で、旅人の負の感情を描写している場面は一切ないのです。このことから、のんびりしている性格であることが伺えます。それと同時に、些細なことに動じず、優しい心の持ち主であることを表しているのではないでしょうか。
そういった旅人の優しさが、観る側に与える癒し効果はとても大きいように思います。
作品タイトルについて
「旅人の日記」という部分について、物語自体がそれを表すように展開されています。そこに特別なものはないようですが、旅人が自分語りをしている場面は、自分自身の日記を読み上げているようなものを感じさせる工夫なのではないでしょうか。
作品タイトルと物語展開の印象が合致して、作品タイトルに必然性のようなものを感じさせます。
そして、作品タイトルで最も目につくのは、「或る」の部分だと思います。ひらがなではなく、漢字の表記をしている点において、特別なものを感じさせるポイントではないでしょうか。さらに細かい点を指摘すれば、「或る 旅人の日記」と「或る旅人 の日記」でも意味することに微妙な違いがでてくるのではないでしょうか。
まずは「或る」という表現ですが、アニメ本編は前述のように「旅人の日記」というかたちで物語進行していますので、「或る 旅人の日記」なのだと考えられます。「或る」には特別な意味を持たせているのは間違いないことです。「或る旅人 の日記」なのであれば、旅人自身に特別な意味を持たせていることになります。しかし、アニメ本編における旅人自身はフラットな存在であり、特別感はないことから、やはり「旅人」に係っているではないでしょう。
すなわち、消去法で「或る 旅人の日記」と推察されます。「或る」は「旅人の日記」に係っており、それから特別な意味を考えていきます。「旅人の日記」は「旅人の体験談」と言い換えることができます。そして、アニメ本編での旅人の体験から考えられる特別なことは、沢山のことを挙げられるのではないでしょうか。
それぞれ話のたびに、旅人は特別な体験をしてきているように思うのです。前述した表現を用いれば、不思議な光景・面白い体験という言葉に集約された物語のオチにあたる部分です。「或る」という言葉に、アニメ本編のオチである不思議な光景・面白い体験を匂わせたい制作スタッフの意図から、「ある」ではなく「或る」という変わった表記をしているのだと考えられます。
短く単純な作品のようで、色々なことを考えられ、制作されたアニメ作品なのではないでしょうか。
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