耽美な映像空間で描かれた「自分を生きる」という人間の本能
耽美な映像演出と空間の奥行き
なんて美しい作品だろう。
その耽美さに思わず感動した。
WOWWOWの連続ドラマW。
このシリーズはとにかくハズれがない。
ボディにガッツリ体感の沁み渡る逸品ぞろいだと思う。
この作品は、性や虐待など、
「生きる」ことのシビアな側面をテーマにしていて
一貫して、重く沈みこむような深淵な空気感がベースにあるけれど
同時にとても耽美だと感じた。
セリフのひとつひとつの間、
映像の切り替わる間、
言葉にならない潜象世界の豊かな世界観が
そのひとつひとつの間にふんだんに顕されていて
その奥行きと空気感が、とても美しいのだ。
あらゆる「空間」の豊かさや彩りが
画面を通して伝わってくる。
だからだろうか、テーマはかなり重いのだけど
見ていてしんどくならないのだ。
逆にその重いテーマの根底に流れる
「生きる」という神聖さすら感じさせる。
見終わった後
気づけば深い呼吸をしている自分に気づく・・・
私にとってはそんな作品だった。
自立して生きるということ
性に乱れた母親からの虐待を受け
自らも母への恨みから
母の情事の相手と関係を重ねながら育った節子は
節子の所属する短歌会の倫子という女性と縁が出来るが、
一人娘のまゆみと共に夫からの激しいDVを受けていて
助けを求められる。
最初は無視しようとしていたが、
強引に娘のまゆみを預けられ、まゆみの身体の傷を見たとき
きっと自分の過去と重なったのだろう。
まゆみに心を寄せ、世話をしていくようになるのだが・・・
彼らとの交流の中で、節子がまゆみに発した言葉が
とても印象的だった。
結局自分一人では生きていけない、
まゆみが一緒でないと生きていけないからと、
DV夫の元に無理やりまゆみを連れて帰ろうとした時、
まゆみに向かって
「捨てるのよ、そんな女、母親なんかじゃない!
今すぐ捨てなさい。じゃなきゃ、あんたの人生は変わらない!」
と言い放つのだ。
親を捨てる、とか、家族を捨てる、という表現はシビアだけど
どんな人間関係にも、
「自立」による「別離」というものがある。
彼女たちの場合は状況が深刻だから
痛みもその分深いけど
「何が自分にとっての幸せか」
という、強烈な問いかけだったのだと思う。
結局・・・
節子は自らの手で衝動的不可抗力とはいえ、
母親を殺してしまう。
倫子もまた、夫から自由になるために
節子と共謀して夫を殺害。
「一度、きちんと葬ってやった方がいい。
君と君が今まで背負ってきたものすべて。」
かつての夫が言ったその言葉をかみしめながら
節子は焼身自殺と見せかけて母親の遺体と共に
自らのこれまでを炎の中で葬った。
そして顔を変え、倫子とまゆみと
新しい町で暮らすのだった。
カタチとしては一番傷が深いやり方を選択したわけだけど
殺人の是否はここでは問わないこととして
少なくとも彼女たちは、
今までの自分自身に決別をしたのだと思う。
もう一度生まれ変わりたいと。
もう一度自分の足で生きなおしたいと。
人は何度でも生まれ変われる。
彼女たちのような哀しいやり方でなくても
それは可能だ。
私はこの作品の根底にあるのは
そんな人間の持つ、
力強い本能なのではないかと思った。
相武紗季のダークサイドの魅力に想う
主人公役の相武紗季。
彼女のイメージは、太陽みたいに明るい女性、だったのだが
この役は、ほとんど笑うことがない。
心に深い傷を抱えていて、
生きることに絶望し切っているがごとく
いのちをすり減らしながら生きているような女性。
その演技がとてもイイのだ。
今までのイメージが吹っ飛んでしまった。
こんな演技もするんだ、ていうか、むしろ、
こういう影や闇のあるような役の方が
彼女の美しさや魅力が引き立つのではないかと思った。
こんなに妖艶な一面があったとは・・・
と、これまた感動してしまった。
人は誰しもダークサイドの側面があると思うけど
人によってその幅や深さは違うし、その質感も違う。
役者さんも、演技ではなくて
その人独自のそれがあると思うんだけど
きっと、役柄と役者さん本人の元々の質が融合して共鳴したとき
思いもしないような増幅や化学変化が起きることって
あるんじゃないだろうか。
視聴者からは、役者さんたちの素顔は分からないから
日ごろのイメージからしか想像することはできないけれど
演技を通して、その化学変化のような片鱗を感じられたとき
私はなんだかとても嬉しくなる。
もちろんそれは、まったくの私の妄想なのだろうけど。
でも、その感覚をとおして私は、なんというか、
人と人との関わりにも似た化学変化の豊かさを感じるのだ。
自分と違う質の人と触れ合った時、
想いもかけない自分を発見することもあるし
お互いが共鳴したとき、
一人では生まれなかった新しいエネルギーが
そこに生み出されることって、
日常生活の中ではよくあることだと思う。
私はその化学変化がたまらなく好きなのだ。
だからこそ私はドラマが好きなのかもしれない。
私自身もまた、
ドラマの登場人物や役者さんたちみんなと融合することで
それによって生まれる化学変化を楽しんでいるのかもしれない。
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