まぎれもなくハードボイルド映画 - われに撃つ用意あり READY TO SHOOTの感想

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われに撃つ用意あり READY TO SHOOT

4.004.00
映像
4.00
脚本
3.00
キャスト
4.00
音楽
4.00
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

まぎれもなくハードボイルド映画

4.04.0
映像
4.0
脚本
3.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

走るがこうもかっこいいか

本作の印象的なのは走るシーンである。

一つ目、ヤン・メイランが店を出てその後ヤクザに追いかけられるシーン。まずBGMがいい。そして、雑踏などの余計な雑音がないので、とても洗礼されている。そして、シーンの最後が郷田克彦の視線からヤン・メイランを見るというアングルで唐突におわるのが斬新で面白い。

二つ目、郷田克彦とヤン・メイラン二人でヤクザから逃げるシーン。走っている二人を追いかけていく近いアングルにせず、遠くから一コマ一コマで映しているのがとてもいい。クレーンなどを使わずカメラを固定した、簡単な低コストの撮影方法と言えばそうだが、一コマ一コマ何を入れ込むのか考えられており、新宿の雰囲気をしっかり感じとれるカットが繋がれていく。その為、単なる逃走シーンというより、新宿の景色も同時に楽しめるものであり、面白かった。さらに、スローモーションを使うというのがこれまた斬新で、かっこよさを倍増させたし、なんともいえない面白さがあり、遊びに富んでいると感じ、とても気に入った。

三つ目、ヤン・メイランがさらわれ、郷田克彦が自宅まで奮起して走っていくシーン。ド定番的なシーンなのだが、ここもしっかりかっこよく感じた。BGMがかっこいい為なのか、原田芳雄が筋肉質でかっこいい為なのか。はたまた、ここまで走るシーンで凝ったことをしてきた分、ここであえてシンプルな構図になっていた為なのか。このシーンも先の二つの走るシーンと並び、印象に残った。

本作がハードボイルドアクション映画として作られたことを考えると、アクションシーンである、走るシーンがかっこよくない訳にはいかないわけであり、かっこいいと感じるのは当然なのかもしれない。しかし、上記の三つのように全体として斬新な面白さを取り入れつつ、洗礼されているので当たり前を通り越して本作の印象深い点になりえたのだと思う。

これぞハードボイルド

ハードボイルドアクション映画である本作。先ほど挙げた走るシーン以外にもハードボイルドさは追求されている。

一つ目、個性のある濃い役者勢。原田芳雄はいかにもといった主人公である。その取り巻き勢の役者もそれぞれキャラが立っている。特に桃井かおりは彼女が出演した他の同時代の映画を観ても思ったが、女性、女性しない、サバサバした姉分的な女感がいい。分かりやすい言葉で言うと、女友達といった役回りがとても似合うのだが、簡単にその言葉で終わり切れないほどの、かっこいい女度を秘めていた。それが本作のハードボイルドさに胡椒を加えたようなスパイスを利かせたと思う。さらに蟹江敬三の刑事役が最高にかっこいい。個人的にこれまで他の映画で観たあのような刑事役で、最も蟹江敬三が様になっていてかっこいいと思った。ヤクザにも強気でいく刑事というキャラはよくあるが、蟹江敬三は中でもそういった恐喝的な度胸を持っているという設定に嘘がなく迫力がある演技をされている。顔がもともとそういった役に適しているし、声もまたいいのがその要因であるし、視線といった表情の使い方やたたずまいなどの演技が流石である。郷田克彦の動向よりも軍司浚平の動向の方がもっと観たい気持ちになってしまったほどである。

二つ目、画質である。やはりこの頃の古いきれいではない画質がハードボイルドさには最良ではないかと思わされた。変に現在の綺麗な画質だとヤクザというものやそれに付随する汚さが作られすぎてしまう。それがこの頃だといい塩梅に抜けて、ヤクザが作られている感があっても飽和させられるし、汚さが作る必要もなく自然なのである。現在で意図してこの画質にするとしても、それはそれで作っている印象を受けるので、ある意味でハードボイルドを求めるにはずるい時代なのかもしれない。

三つ目、ベタな事柄。斬新さもいいが、ベタなことをやるのも観ている者に如何にもといった感覚を与えさせ、満足感を得られるのかもしれない。一つ、例を挙げるならばラストのシーンで、弾が当たったのが懐に入れた雑誌の分厚さに助けられるといったことである。ベタな内容に突っ込みをいれたくなるが、この要素をあえて入れ、やり切った感があると、観ているこちら側は微笑ましさを感じてしまう。やっぱりこれはまさかとは思っていても、あってもいいもんだなと、こういった感じである。

四つ目は、タイトル。「われに撃つ用意あり READY TO SHOOT」、ハードボイルドにふさわしいタイトルである。それだけのために付けたタイトルかとも思われたが、ラストの撃ちあいを観ると、「われに撃つ用意あり READY TO SHOOT」という表現に通じるものを感じ、この言葉を選んだことにかっこよさを思わずにはいられない。

以上、4点にハードボイルドさの追求を感じ取れたのだが、このようにとことんとハードボイルドにこだわった本作はまぎれもなくハードボイルド映画と言える。

1970年を切り取る

ベトナム戦争と全共闘。この二つを扱ったことによって、本作は単なるハードボイルドアクションだけで終わらず、深みのある作品になりえた。

まず、ベトナム戦争に関してはヤン・メイランの口から痛烈に語られる。途中の海賊に犯されたという回想シーンは、入れなくても良いのではなかったのかと思うほど雑に感じられ、残念であった。しかし、その点以外は呂㛢菱の長セリフで語られるものは痛切であり、その気迫がしっかりこもっていて良かった。難民という問題にこういった作風でも切り込めるものだと感心した。

そして、全共闘に関しては写真のカットを入れ込んで語られていくのが斬新だった。ストーリー自体に大きく絡んでいく内容ではないが、ベトナム戦争と同時期の日本の姿ということを思うと、これを入れ込んだことで、作品が単純な話ではなく、その時代の問題を意識した深い物になれたのである。なお、余談だが、エンドクレジットによって早稲田大学が協力したことが分かったが、日大などではなく、早稲田大学だけであるのに、早稲田大学が映画界とのつながりが濃いことの表れだと思った。

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