音楽を聴くためだけに
学芸会・PVレベル
始まりの軍用車でのミュージカルは低音が利いていて、重々しく緊迫感があるものでドキドキさせられる。そして、突如弾丸音でシーンが切られる。何が起きたのか、このうちの誰かがやられてしまったのか、などハラハラさせられる。つまり、始まりとしてこのシーンはかっこよく、引付の効果が高かったといえる。しかしその分、その後の平凡さには愕然とさせられた。
確かに、銀婚式の後の兄カップルの店でのミュージカルは陰影を使い、かっこよくしたてられていたり、ラストの大勢で踊るシーンは〝THEミュージカル〟という感じで壮大だったりなど、要所要所凝っていたのは分かったが、結局のところ上辺だけであった。なぜそのように感じたかと言えば、物語が薄っぺらいからである。両親、兄カップル、妹カップルと三つの物語の要素があったわけであったが、どれも事件に対しあまり深みがなく、あっさりと解決に向かってしまう。そういった物語の浅さを歌ってごまかしているだけにしか見えないわけである。三つの物語の要素を入れ込まず、どれかに絞って脚本を書きなすべきだったのではないだろうか。元が舞台のミュージカルだったらしいが、舞台だからこそ三つの要素をうまく魅せていけるが、映画ではそうはいかない。だから結果として本作は、出演者皆の出番を平等にしようと画策する、小中高生の学芸会レベルになってしまっているのだ。学芸会としてはこれほど丁度良いものはないと思うが、やはり大衆映画として売り出すものとしてのクオリティとしては考え物である。
いくらヒットしたミュージカルとは言え、この物語で映画化するのはリスキーであった。最新の映像技術や音響技術を披露したいとしたならば、そのラインは確かに満たしている。しかし、映画である必要はなかった。このぐらいの物語だったら5分ぐらいのPVでもっとシャープに魅せられるのではないかと思う。いい音楽を聴きに劇場に来たにせよ、100分もかけてこの内容では観る人は物足りなさを感じるだろう。映像技術を駆使し、かっこいい映像を如何に撮れても、映画としては物語の軸が強固でなければ、面白みがない。3本のPVを撮って見せるだけで充分だった。
兵士という問題に向き合いたいのか避けたいのか
妹のリズとアリーのカップルの結末は簡単に言うと自己実現を優先した女と捨てられた男というものである。確かに今時であり、女性の社会進出へのエールとして描いたとするならば、上々である。しかし、捨てられたアリーの哀れさを思うと気持ちのいい結末ではない。なぜなら、アリーは愛する人との安寧を求めて、兵士を辞めて普通に働き、家庭を築こうとしていたのに、捨てられたことで、再びいつ死ぬか分からない兵士に戻ったからだ。
アリーが哀れになるからリズは彼と一緒になるべきかというと、なんだかそれも違う気がするが、もっと違う形があったのではないか。何か違った答えを導けたかもしれないシーンとして、友人デイヴイーとのけんかのシーンがポイントだったと思うが、このシーンはあっさりと終わってしまい、これでいいのかと思った。何か答えをはぐらかされたように感じる。あの内容だと、デイヴイーは女を捕まえて安寧を得られたが、女に捨てられたアリーは安寧を得る資格がないので兵士にでもなっとけというように見える。そう思うと兵士としての職の哀れさが描かれているようだ。
義理姉に出て行って欲しいというシーンもその哀れさを増長しているのだろうか。しかし、そこの子供が兵士はかっこいいともてはやす描写もあることから、一概に兵士を哀れな職であると描きたいわけではないと考える。では、本作は兵士というものに対し問題提示をしたかったのであろうか。それならば納得できる。しかし、結局そこにちゃんと向き合うような物語の構図を取っていないので、かえって中途半端になっている。あえてこの宙ぶらりんさが答えであるとも言いたいのだろうか。なんだかすっきりしないし、失礼な描写に終わってしまったと感じた。
ミュージカル映画とインド映画
私自身がミュージカルは苦手だからというのもあって、過剰にあまり本作にいい評価を与えないのかもしれない。やはり、何故そこで歌うのか、踊るのか。受け入れがたさを本作でも感じた。家で観たのもまたよくなく、劇場で観ればよかったのかもしれない。しかし、このミュージカル苦手の私でもインド映画は家でも楽しく観られた。インド映画も歌ったり踊ったりがすごいが、あれは受け入れられる。では、二者では何が違うのだろうか。ミュージカル映画を本作以外これといったタイトルを出せないほど、観ていない身でインド映画と比較するのもあれだが、まず歌に託す理由が違うことが大きいと考える。インド史の授業で教えていただいたのだが、インドでは規制が厳しいために歌に込めて訴えるしかなかったという。この切迫感ゆえにどこか耳を傾けたくなるのだろうか。また、歌の音域というか音質というか、聞きなれた洋楽とは違った雰囲気によって、世界観が別物であると感じる故に、歌いだされても抵抗を感じないのかもしれない。正直、ミュージカルを映画化する意味はあまり感じていないがこれからも挑戦されるならば、インド映画からなにかヒントを得たらいいのではないかと思うなどと、本作を観ながら考えた。
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