ファンも予想外の『バイオハザード』映画化
ゲームの漫画化の珍しい成功例
テレビゲームのコミカライズはそう珍しいものでもない。代表的なのは『ドラゴンクエスト』の漫画化であろう。ジャンプで連載された名作『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』や、エニックスで長年続き人気漫画家を多数輩出した『ドラゴンクエスト4コマクラブ』など、数々の作品が作られた。
だが、必ずしもゲームのコミカライズが成功した訳ではなかった。『ドラゴンクエスト』は成功例が多い稀有なタイトルで、その他の作品は(具体例を挙げるのは控えさせていただくが)お世辞にもゲームの面白さを表現しているとは言い難い作品が多く、多くはコミックス一巻二巻で打ち切りになってしまうのである。
この流れはテレビゲームの黄金期ともいえる90年代から00年代にかけて、多く見受けられた。好きなゲームがコミカライズされると聞き、ゲームのファンは胸を躍らせたが、実際の作品はどれもいまいちな出来ばかり。
失望は強まり、やがてはゲームのコミカライズ自体を鼻白んで見てしまう……という悲しい結果が起こってしまう。
故に、多くのゲームファンは『バイオハザード』が漫画化するといっても、大して期待しなかったであろう。筆者もその一人で、連載当初は「どうせ打ち切りになるんだろう……」程度にしか思っていなかった。
『バイオハザード マルハワデザイア』を読むまでは。
まず、その表紙絵にはっと目を覚まさせられる。限りなくゲームのビジュアルに近い作画なのだ。漫画家は星の数ほどおれども、これほどゲームそのまんまの作画を出来る漫画家はいないだろう。立ち絵だけでなく、表情や動きもブレがなく、クリーチャーや背景までしっかりと『バイオハザード』しているのだから恐れ入る。
ストーリーはゲーム『バイオハザード』のスタッフが制作したものだけに、原作とのリンクも完璧、ゲーム『バイオハザード6』へしっかりと繋がる構成になっている。その完成度の高さは素晴らしく、「ゲーム(『バイオハザード6』をやる前に読んでいた方がいい一作」にまで昇華している。
まさしく、ゲームファンの予想を良い意味で裏切った作品なのである。
『マルハワデザイア』をここまで造り上げた意義は大変に大きい
先にも述べたが、ゲームのコミカライズ作品で、上質な作品は大変に少ない。
それは単に「ゲームの雰囲気を壊していない」だとか「ゲームの設定を忠実に再現している」という意味に留まらない。
ゲームをわざわざ漫画にする、「意義のある作品」が少ないのだ。
大抵の作品は、ゲームのストーリーそのままを追いかける。ゲームをプレイしたことのない読者にストーリーを知ってもらい、販促に繋げようという意志があるのかは定かではないが、ともかく多くの作品はストーリーをなぞらえてコミカライズする。
だが、それでは正直読者は物足りない。そもそもコミカライズをもっとも待ちわびているのはゲームのファンであるはずなのに、知っている話を劣化(と断言してもいい)した絵で再度読まされても、面白味を感じないのである。
それこそ『ドラゴンクエスト』の『ダイの大冒険』や『天空物語』のような、作者がゲームの設定を熟知した上で練りこむ作品が、もっとも理想的な漫画だろう。だが、そうした作品は少数派だ。
では『マルハワデザイア』はどうであろうか。
『マルハワデザイア』は先にも述べたように、ゲームスタッフがオリジナルストーリーを作成しているだけあって、ゲームの設定に忠実だ。
重要なのは、ゲームの設定を補完するようなストーリーになっているという点だろう。ゲーム『バイオハザード6』の重要なキーである「Cウイルス」の実験に使われた学園。ゲーム『5』と『6』の橋渡しになる物語だ。ゲームをプレイしたファンも、この漫画を読んで更に『バイオハザード』の世界観に浸っていく……。
このように、ゲームの物語を深めるために設置された「公式」漫画は、意外にも少ないのだ。
そのため『マルハワデザイア』は単なる外伝コミカライズの枠に留まらず、『バイオハザード』ファン必読の一冊になっている。こうしたコミカライズ作品は、非常に珍しい。
『バイオハザード』のような長寿の人気シリーズでしか実行は難しいのかもしれないが、漫画化するならこれぐらいのクオリティーにしてほしいものである。
あえて注文をつけるなら、もう少し漫画の色味を出しても良かった気がする。このストーリーを楽しむなら、それこそゲームでも映画でもよかったと思ってしまうのだ。
漫画→ゲームはいいが、ゲーム→漫画は薦められないのが難点
ただし、問題が一点だけ。
漫画を読み、後日談であるゲームの『6』をプレイするのはいいが、『6』をプレイしたあとに読む漫画ではない。
何故なら、『6』に登場しないキャラクターが出てくるからだ。ゲーム既プレイの読者は、この時点で「あっ……こいつもしかして漫画で死ぬんじゃ……」と察してしまうだろう。事実そうなってしまったのだから非常に残念だ。まぁ筆者のことなんですが。
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