’94年のフジテレビ月9を彩った名作。 - 妹よの感想

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妹よ

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
4.50
演出
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感想数
2
観た人
6

’94年のフジテレビ月9を彩った名作。

4.54.5
映像
3.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

貧乏暮らしのOLと御曹司が恋に落ちる、王道のラブストーリー。

“健気で可愛らしいーーだがしかし、それ以上に芯が強い”

そんな女性を演じさせたら右に出るものはいない。和久井映見のハマリ役だ。「妹よ」の脚本は水橋文美江。同’94年、同じくフジテレビ系列で放送された「夏子の酒」の脚本家だ。ヒロイン夏子を和久井映見が好演していたことを考えると、「妹よ」は彼女の為に当て書きされた作品なのではなかろうかとさえ思える。

そしてまた、若かりし日の唐沢寿明演じる御曹司がいい。後々の「白い巨塔」や「不毛地帯」もそうだが、自分の“血”や“国”など、目に見えない大きなバックボーンを背負うことの出来る数少ない俳優だ。「妹よ」での唐沢演じる高木雅史は、“御曹司”という世間や父親からの重圧、若い内からの社会的評価や不自由さを背負っている。自分の運命を悟りきれない憂いを帯びた目。その目に映るのが、慎ましく生きる平凡なOLのゆき子であるーーそこに、人間ドラマを感じる。

真逆の境遇に惹かれあう男女ほど、必然的に燃え上がる。じつは皆、それが見たいのだ。古くはシェイクスピア「ロミオとジュリエット」の時代から、人間は相も変わらず激しいものに惹かれ続けているのだな、とつくづく実感する。だから、どんなにベタだと分かっていても、シンデレラストーリーはやめられない。

それから、傑作ドラマというのは、決まって脇役がいい。

能登で民宿を営む松井兄妹の父親役に、河原崎長一郎。母親を河内桃子。高木コーポレーションの会長で雅史の父、高木浩一郎を神山繁。(なんだかもう、このキャストの時点で贅沢だ…)高木家の秘書、三浦真司を豊原功補。雅史のかつての恋人、美咲を森口瑤子。(現在、唐沢とミツカンの味ぽんのCMで共演している。CMを見て複雑な気持ちになるのは私だけだろうか。)特に、豊原功補の毒のある演技がいいスパイスとなって、この作品を甘いだけではない、苦みも酸味もあるラブストーリーに仕立てている。

クレジットタイトルから始まっている、兄妹の物語。

駅のホーム、東京へ向かうゆき子を母親が見送るオープニングのクレジットタイトルは、ドラマを見る前から視聴者を惹きつける。特筆すべきは、やっぱり岸谷五朗ではないかと思う。和久井映見演じるゆき子の兄、菊雄を熱演している。ひょうきんだが情に厚く、誰よりも妹の幸せを願っている熱血漢の兄。このドラマを見ていた女性ならば、「こんなお兄ちゃんがほしい!」と皆、一様に思ったのではないだろうか。少なくとも、当時反抗期の弟がいた私は、岸谷五朗のお兄ちゃん像に夢を抱いていた一人だ。この理想の兄妹像は、どこか「男はつらいよ」の寅次郎とさくらを思わせる。劇中、雨の公園で菊雄が傘を差しながら、かぐや姫の「妹よ」を口ずさんでいるシーンがある。まったく関係ないのだが、ふと、黒澤明「生きる」の志村喬演じる主人公が、雨の公園でブランコに乗りながら「ゴンドラの唄」を歌っていたのを思い出した。大の男が、雨の中公園にいて、しかも歌っているという絵面は、それだけで切ない。そのシーンだけで、いつもはおちゃらけている菊雄が、本当に心から妹を心配し、慈しんでいるのが伝わって来る。

田舎から出て来た人間臭い松井兄妹と、都会的で育ちの良い高木兄妹。

対照的に描かれているこの兄妹に、作り手は一体どんなメッセージを込めたのだろうか?今では、大河ドラマは別として、この時代のドラマほど熱量のある人物は描かれなくなってしまった気がする。裏を返せば、こういった心の機微を見つめる濃密な人間ドラマが流行らなくなったとも言えるし、それを視聴者が求めなくなったとも言える。だがしかし、それによって、いい俳優も減ってしまったように思う。俳優は、仕事をする現場はもちろん、作品や与えられた役によって成長するものだ。 携帯電話やSNSが普及したことが大きな要因だということは誰もが想像するに容易いと思うが、いつでもどこでも“誰か”と繋がっている状態というのは、たしかに安心だ。 けれど、久々に誰かと会えた瞬間の感動が半減しないだろうか。なかなか会えない、相手がどう思っているのか分からない…そのもどかしさが人を、人の想像力を、成長させるのではないだろうか。

ゆき子の誕生日、能登から母親が東京に来る回で、ゆき子が母に嘘をついて雅史に会いに行くシーンは何度見ても泣かされる。親に対する後ろめたさと罪悪感…。あげくの果てに、結局その夜は菊雄も帰って来ず、母は東京のアパートでたった一人で過ごす羽目になる。翌日、雅史のマンションから、ゆき子が能登へ帰る母を見送りに来るシーン。高速バス乗り場で、バスを見送りながら何度も「ごめんね」を繰り返すゆき子。その光景と、オープニングの駅の映像が重なって、さらに胸が苦しくなる。菊雄が雅史に、「妹を捨てないでくれ」と土下座するシーンと同じくらい大好きなシーンだ。

視聴率30%を叩き出した最終回のラストシーン。

赤い傘の向うで交わされる、二人の口づけ。ーーあの憎い演出は、お手上げと言うより他はない。

「めぐり逢い」

オープニング曲は言わずと知れたCHAGE&ASKAの「めぐり逢い」。「101回目のプロポーズ」もそうだったが、タイアップ曲がドラマに影響する力は計り知れない。曲がドラマに影響を与え、ドラマが曲を一層盛り上げる。

「101回目のプロポーズ」のシナリオは本当はバッドエンドだったが、出来上がった曲が「SAY YES」であった為に、ハッピーエンドに書き換えられたという逸話がある。ドラマ制作のモノ作りの心意気みたいなものを感じる。今ではほぼ皆無になってしまったタイアップ曲。とても淋しい。 芸能事務所やドラマ制作サイドの、大人の事情があるのだろうけれど、どうか、願わくば、音楽とドラマ双方が盛り上がっていくタイアップ曲を、もう一度復活させてほしい。

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5.05.0
  • ぬうぬう
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