隣り合わせの理不尽
青春とは時に厄介なものだと思い返す 。何か理想を掲げてみたものの現実は全力で若者の夢を破壊するだけだ。必ず挫折を経験させるようなシステムが構築された社会でもがくのだ。
稲中卓球部の世界観を味わった読者は、見事に突き放されるので要注意だ。平凡な学生の日常に入り込む傲慢な暴力と抑えきれない性の衝動が、大人になって記憶から抹消した青春の葛藤と渇望を掘り起こし、読者の平常心を揺さぶり赤面させる。
若い時代だからこそ出来る場面は限られていて、年月を重ねて分別が付き人々の個性や感性を封じ込めてしまうものだ。
安定した生活を選ぶのも良し、バイト生活を選ぶのもその人の自由だ。無理矢理物語の終着点を押し付けるような作品では無い。格差で歪む社会だの、裏社会でしか存在意義を見いだせないだの 、必ずしもそんな題材を主眼に置いているわけでは無い。
人は忘却の生物だ。それが人間の本質だと作者は言い切っているといっても過言ではない。普遍的な本質が忘却だとすれば 辛くてもせめて前を向いて進む事ができるのだろう。親友だと思っていたが記憶に留めるには薄い。かつて暮らした街を見つめてトラックが走り去る。もう交錯する筈もない思い出が頭をよぎる。
あのアプリリアのTシャツはもう無い。
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