千年の果てしない時を過ごす吸血鬼の気持ち・・・とても切なくて - 千年の雪の感想

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千年の雪

4.504.50
画力
5.00
ストーリー
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キャラクター
4.00
設定
3.00
演出
5.00
感想数
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千年の果てしない時を過ごす吸血鬼の気持ち・・・とても切なくて

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
5.0

目次

10年ぶりの連載再開、3、4巻の表紙に注目

桜蘭高校ホスト部で有名な作者ですが、千年の雪の方が個人的には好きですと言ってしまいたいほど、涙を流さずには読めない本です。2巻が出たのが2002年、3巻が出たのが2013年。絵が違ってきています。それでも出したいと思った作者の思い入れがすごくわかります。連載再開まで10年かかった理由がホスト部にあるとは知らず、ずっと続きを待てども待てども出なくて切ない思いをしていた本です。ホスト部も軽いノリでわははと笑いながら、読んでいましたが、この千年の雪ほど、売るのをためらわなかったです。それほどに内容がいいものです。千雪という主人公の名前と千年という時間を過ごさなければいけないトウヤ。それがこの題名と重なっていて、上手にリンクしています。ただ、この連載が続けば、どんな展開が待っていたのか、結果は同じような気がしますが、違う展開で違うストーリーが読めたかもしれないと思います。砂月くんとか砂月くんとか砂月くんストーリーがもっと読めたかもと思います。でも、10年の再開があるとは思っていなかったので、それはそれでファンとしてはうれしい限りです。1,2巻と3,4巻の絵の違いに戸惑いを感じます。ここまで美しい表紙を見れたのは10年経ったからですね。絵のタッチも変わってきて、年月の変化をうれしいと思う反面、悲しいとも思います。

言葉という目に見えないもので人の心は動くということを教えてくれる

「自分にさえ、見通しのつかない遠い未来へ、俺は誰かを連れていくことができるのか?いつかその人間が自分の果てしない命に絶望した時、俺はどうやってその責任をとったらいい・・・?」最初の1巻ではそう思っていたトウヤが「俺はずっとどうやって生きたらいいのかわからなかった。誰かを千年の未来へ連れて行く自信もなかった。雑音ばかりでどこにあるけばいいのかわからないこの世界に信じるべき光が必ずある事を今の俺は知ってるから、そう教えられたから、ただ一緒にきっとそうやって生きていくだけなんだ」千雪に出会ったことがトウヤの人生観も変えてしまったのですね。一緒に生きながら、この一瞬一瞬が千雪にとっては大事な瞬間だった。今日にでもこの心臓は止まってしまうかもしれない。そんな状況のなかでトウヤの血で少し延命ができていた。今日が大事で大切でそんなに思えるということは大事なことなんだけど、みんな当たり前のように生きている。明日も明後日も同じ日のような感覚でどこか麻痺しながらも生きている。その一瞬が大事な千雪にとっては、みんなが見えていないものが見えていた。「たとえ発作で苦しむかもしれなくても、時間が流れているからこそ、誰かと出会える。支え合えるの。思い出して・・・なぜ時間を止めたいと思ったの?生きている間、皆と過ごした過去の中に誰より愛された時間があったからじゃないの・・・?」イザベルに問いかけているようで、トウヤに問いかけている言葉でもあるなと感じました。一日一日を大事に生きている彼女だからこそ、言える言葉の数々、それに心に雪のように降り積もって、トウヤの体のなかに溶けていくのを感じます。今の砂漠のような世界にいるような潤いがない言葉しか聞かないような世界で大事な言葉を発見したような気になります。

心の声を拾うことは千雪だからこそできたこと

仁藤先生のお話では、涙が頬を濡らすほど泣きました。仕事が忙しくて、子どもが肺炎を起こしていたのに気がつかなかった。私も寝ていると思っていた子どもが起きては、寝ての繰り返しで言葉も満足に話せないので「苦しい」の一言が言えなくて、どうしてだろうと思っていたら、帰ってきた主人がその異変に気がついたということがあります。病院に運んだら、肺炎と言われ、肺に満足に空気がいきわたっていなかったのです。あの時は、大人が3人いたのに、子どもの変化に気がつかなかった。だから、仁藤先生のお話は他人事とも思えず、つらいお話しでした。先生は子どもを亡くしてしまった。周りからなじられ、夫からも顔を見るのがつらいと言われ、みんなから見放された。「雪の日はね・・・どうしようもなくなるのよ。何度も死のうと思った。でも、できなかった。・・・今、私のしている事が罪滅ぼしになるわけじゃないのもわかっている。時々溢れてどうしようもなくなる気持ちを殺して雪に埋めて、泣いて泣いてまた立ち上がって、そうでもしないと生きてこれなかった。・・・私は弱い人間だから」トウヤは強いと言っています。この先生の強さは、弱さを認めているからこそだと思います。立ち上がる先生の強さ、それでも生きていく強さ。あの笑顔を取り戻すためならなんでもやりたいと思うけど、その笑顔はもう取り戻せないのもわかっている。わかっているけど、あの笑顔を繰り返し思い出しては、涙を流す日々。その思いが上手にトウヤとリンクしていっているのがわかります。「弱い殻に隠された人の心の強さを千年という想像もつかない時間の中で俺はひとつでも多く知る事ができるのだろうか。千雪が彼女の声を拾ったように。自分にも誰かの声を聞くことができるのだろうか・・・」誰かの心の声を拾うことはなかなかできません。言葉に出して言わないと言葉は伝わらない。だけど、その人の声の調子とかトーンで、今日の様子がわかる。長く付き合えば付き合うほどわかってくる。そのアンテナも自分が調子がよくないと拾えないのです。千年の雪を読むと、カサカサになった心に潤いのような思いがいろいろな思いが心に寄せてくるような気がします。新作「ウラカタ」は勢いのある絵とストーリーで一気に持っていくあたりは、桜蘭高校ホスト部で培われたものではと思ってしまいます。よくこの千年の雪が描けたなぁと先生の愛には驚いてしまいます。続きをありがとうございました。

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