ボーイズラブというくくりでは当てはまりきらない作品
いわゆるボーイズラブ作品というのは、登場人物の設定の段階でメインとなる二人の両方、もしくはどちらかがゲイであるというのが当たり前な傾向となっています。
ですが、この作品についてはメインの二人ともがノンケ(異性愛者)です。そんな二人が出会い、そして体の関係までもってしまうというストーリーなのですが、残念ながら完全なハッピーエンドとは少し違います。
メインの二人のうちの一人である松岡は女装をして街中で男の視線を浴びることを趣味としていて、一方の寛末は松岡と同じ会社に勤める要領の悪い男で、街中で偶然出会った松岡のことを女性だと思いこんで一目惚れをしてしまいます。
女装趣味の男とそれに全く気づかず彼のことを女性だと思ってしまう男。この時点で、そんなことは現実世界ではまず考えにくい設定だし、小説のなかでの話だとしても読んでいて違和感を感じてしまう読者もいるのではないかと思います。
なのにこの作品ではそんな違和感を全く感じさせません。そこが作者である木原音瀬の文才のすごいところで、最近ではめったに見ることのない「読ませる」作品を書く数少ない作家ではないでしょうか。
途中、松岡が男であるということに当然寛末は気づき、松岡から距離をとろうとします(かなりひどい仕打ちで)。ただ、その頃には男であることがわかっていながらどうしようもなく、一種病的なまでに寛末に惹かれてしまっている松岡。
読んでいる側としては、なんとか寛末が松岡のことを受け入れてくれないだろうかと思ってしまいますが、結局ラストまで寛末の気持ちの整理はつかないままで物語は終わってしまいます。
ここまで読ませておいて、若干放りなげられた感も感じますが、実はこのお話には続きがあります。この文庫版が出版される前に上下巻としてすでに同タイトルで発表されており、個人的にはそちらの上下巻を読まれるのをおススメします。
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