この作品は「推理もの」というジャンルではない - 探偵学園Qの感想

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探偵学園Q

4.004.00
画力
3.25
ストーリー
4.00
キャラクター
4.50
設定
3.50
演出
3.75
感想数
2
読んだ人
5

この作品は「推理もの」というジャンルではない

4.04.0
画力
3.5
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
3.0
演出
3.5

週刊連載の推理物の漫画と聞いてよく挙げられるのは少年サンデーの「名探偵コナン」、少年マガジンの「金田一少年の事件簿」だろう。だが、私は金田一少年の事件簿と同じ原作者、作画者で、少年マガジンで連載されていたのこの「探偵学園Q」が隠れた名作だと思っている。

さて、先に挙げた3作品とこの探偵学園Q、共通点は「探偵役が学生」だということ。だがこの作品の大きな特徴は「探偵になるために主人公たちが探偵を養成する学校に通っている」という点だ。その点で、ほかの作品と異なる点が大きく二つある。

まず一つ目。ふつう、推理物ではただの学生である主人公(とその友人たち)がたまたま事件現場に居合わせ、事件を解決する、というシチュエーションが多い。コナンなど、偶然居合わせた事件が多すぎて、ネット上で「もう外を歩かない方がいいんじゃないか」とまで書かれる始末だ。だがこの作品は違い、探偵学園に併設された探偵社にきた依頼先に行き、それが事件に発展するという、いわば「起こることが半ば決まっている事件」に居合わせることが多い。作中に出てくる主な事件10件のうち、偶然居合わせた事件は3件だけ。あとの7件は、依頼から発展した事件だ。

そうなると、必然的に読者側は、あらかじめ疑いの目を持って関係者を見ることになる。もちろん推理ものなのだから、ほかの作品でも事件が起こることはあらかじめ読者もわかっているのだが、事件が起こることを予測している主人公から見た人物像から事件を予測するのと、事件が起こることを全く考えていない、いわばモブと同じ考えの主人公から見た人物像から予測するのでは、大きく異なる。私も事件が起こる前から「誰が殺されるか」というところから予測を始めたものだ。その点からいえば、読者に犯人やトリック、動機を予測するタイミングが多くあるのがこの作品の面白いところだ。

二つ目。先ほどから主人公と書いているが、この作品は主人公クラスのキャラクターが5人いる。それぞれ違う理由で日本一の探偵を目指している者たちだ。年齢は下は小学生、上は高校生と幅広い。シャーロックホームズ、エルキュールポワロなど有名推理小説の探偵たち、そして先述の2作品も、協力者はほぼ一人か二人、ほぼ探偵一人が遺憾なく推理力を発揮し、犯人を追いつめるという構図が多い。だが、この作品は5人が協力して捜査を進める

発想力に優れたキュウ、瞬間記憶能力があるメグ、オールマイティで冷静なリュウ、コンピュータの扱いが得意なカズマ、体力自慢のキンタ、この5人がお互いの欠点を補充しあい、事件を解決に導いていく。この点に私は雑誌は違うが少年ジャンプの「友情・努力・勝利」のキャッチフレーズを思い出す。これが他の作品と大きく違う点で、この作品の最大の特徴だろう。

そしてこの作品が「推理もの」として先述の作品よりも人気を集めないのはこの点であろう。探偵ものと聞けば、読者はまず探偵役に非凡なる才能・推理力を期待する。たしかにこの作品の第1話でキュウはほかの登場人物よりも優れた観察力、推理力を発揮しているが、普通の人より少し優れているレベルの能力だ。メグ、キンタの二人は、ほぼ一般人と同じ程度の推理力しか持ち合わせていない。非凡なる才能を持っているのは、他の4人より遅れて登場するリュウ一人だ。だがリュウも、冥王星がかかわる事件になると冷静さを失い、推理力が激減する。そう、彼らはまだコナンや金田一少年に比べて子供なのだ。登場人物の個性は強いが、全員完璧ではない。そこに面白さを感じる読者もいれば、物足りなさを感じる読者もいるだろう。

だから私はこの作品を最初から推理ものとして読んでほしくない。私はこの作品を人に勧めるときは必ず「学園もの」と言って説明するようにしている。探偵学園という設定自体は面白いし、トリックも面白いものが多い。主人公と同じ目線で、主人公たちの成長を一緒に感じられる、そういった読者にこの作品は魅力的であり、推理ものとして完全に傍観者目線で漫画を読む読者にとってはこの作品は物足りないだろう。

この作品は「推理もの」というジャンルでは括れない、もっと違ったジャンルの作品であると私は考える。

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九頭龍匠についての考察

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4.04.0
  • フクロウフクロウ
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  • 2107文字
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