ドルチェのように甘くもあり、チョコのようにビターな部分もある作品
アイディア満載のお話、ベルゼビュート
じつはどの漫画も読んで思うのですが、アイディアすごいなということ。この悪魔とドルチェも負けず劣らず、すごい!お菓子作りが上手な女の子の話というと、よくある話のようなのですが、それにプラス悪魔を加え、さらにバニラエッセンス的な要素で、お菓子好きな悪魔とそれを使役する魔女のお話になっています。いい加減に力が抜けているので、小倉マユリがいじめられているのにそんなに深刻じゃないお話のように見えてくる。彼女は友達を作るのが得意ではないらしいというのがわかる。高校生活、ひとりでお弁当を食べるのはつらい。それをさらりと読ませてくれる。重くなりすぎないけど、問題定義もきっちりとやってくれます。
メフィストフェレス、「天使と悪魔がよくわかる本(PHP文庫)」にも掲載されている悪魔です。まこちゃんと呼ばれる人間に変身しちゃいますが、ベルゼビュートよりも人間慣れしている感じがいいです。どこか主を笑い飛ばしている節があって、それが肩の力が抜けるようなシーンになっています。ルシフェルのお茶会に無理やり参加させられているところでは、主に背けなかったか、まこちゃんと肩を叩いてあげたいほど、小さくなっています。
恋とは甘いも辛いもありなのだ
ベルゼビュートの幼なじみのユフィール登場のところでマユリが回想しています。「ビュートも彼女もちゃんと自分に自信を持っているけど。私にはお菓子しか作れない」マユリちゃん、それは十分な強みですけどと言ってあげたくなります。「怖がってばかりで進めば進むほど、たくさんのものを着込んでた―」人って余分なものを着込んでしまうもの。恋愛になると、客観的になれなくて、ちょっとしたことで落ち込んだり、喜んだり、それはもう忙しい。空白の時間のときに彼のことばかりを考えてしまって、何も手につかない。恋することしかできなくなってしまう。そんな不器用な人間。だけど、それが頬ずりしたくなるほど、愛おしい日々です。そんな気持ちになるのって一生のうちでどれだけあるのか?と考えてしまうと、そんなに長い時間ではありません。恋するときは一所懸命に恋してほしい。マユリちゃんを応援したくなり、自分の恋と照らし合わせて、一緒にお菓子のような甘い恋に浸りたくなります。しかし、「恋はお菓子みたいに甘いものばかりじゃないのだから」と作者は言っています。甘い恋もあり、苦いと感じる瞬間もある。その両方を上手に描き分けてあります。ビュートがマユリを大事にすると、誰かが泣くことになります。でも、両想いでも泣くことは多々あり、離れていると余計にそう思えてしまいます。魔界と人間界で別れている世界。これは、大きな難関です。どうやって突破するのかは、作者の手腕だなと思っていましたが、最後は見事に裏切ってくれました。恋が主体だと思っていましたが、どうやら友情が主体の物語だったのです!
友情がテーマの物語
最後に彼女が得たものは、友情だった。マユリが一番望んでいたものは、友情だったのかもしれない。この物語が始まるとき、教室のなか、ひとりでご飯を食べているシーンから始まります。ママに書いている手紙には、彼女らしい嘘をちりばめて心配しないようにしています。それだけで両親思いのやさしい子なのだなということがわかります。みんなと違うことは、悪魔を使役すること。だって魔女なんだもの!仕方がないことのはずなんだけど、誰も気味悪がって近づこうとしない。私達は異質なものに出会うと、無意識に排除しようとするのかもしれません。常識でわからないから、意識の外に追い出しちゃえ!とそんな感じでつまはじきにあったのがマユリ。誰でもいろんな特技があるそれを受け入れようとしない。常識で物事をとらえようとするのが人なのかもしれませんが、いろいろな人がいると思い、ひとりひとりの個性として受け入れていかないといけないのかもしれません。
マユリは、まこちゃんに会ってもベルゼビュートに会っても地獄の気にあてられることがないのは、小さい頃からパパが悪魔だということを知らぬまま育ってきた環境にあると思います。育ってきた環境が、魔女の母と悪魔の父を持つというだけで、特異な体質を生み出したと言ってもいいかもしれません。それが彼女を浮世離れさせた原因のひとつだった。悪魔とばかりお話をして、人間とお話をすることを途中で諦めてしまったのかもしれません。だから、彼女は最初から全然欲望がない人間なのです。望んでも一番欲しいものは、手に入れられなかったとすると、欲望がなくなるのも仕方のないことなのかもしれません。マユリは小さい頃から、諦めるのがきっと潔い人だったのではないでしょうか。飲み物と甘いものでお茶会をしているときの彼女の表情は、うって変わってうれしそうな顔をしています。甘いものを食べるとき、人って本当にうれしそうな顔をしています。まさにそんな顔をしているのです。自分のお菓子を食べてもらうときの極上の笑顔、その笑顔をクラスでもすればいいのに、そこは不器用な女の子なのですね。とにかく恋も友情も手に入ったお話しだったのですが、どちらかというと、友達が欲しい女の子のお話しだったといってもいいかもしれません。意地悪していた子がカエルになっていて、ひび割れた鱗肌になってしまったクラスメイトのために、必死に解決しようとする姿が彼女らしさ、やさしさが出ています。恋が先に手に入っていないと、俺は知らんで終わってしまう話でしたが、恋人が大悪魔だったために無事解決。ラストをもっと見せてほしかったけど、このあっさりした終わり方は、作者ならではの持ち味かなとも思いました。
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