『聖闘士星矢』スピンオフ作品の映像化
スピンオフ作品のアニメ化は珍しい
昨今、伝説的漫画のスピンオフ作品が増えている。『キン肉マン』や『北斗の拳』、『魁!男塾』『巨人の星』など、スピンオフ元の大体が伝説的人気を博した作品だ。スピンオフされる=本家にあやかることであり、本家以上の人気を得ることは難しい。
そんななかで、本家に勝るとも劣らない人気を得て、むしろ本編のファンを増やすという相乗効果を生み出した作品がある。それが『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』だ。
『週刊少年チャンピオン』で人気を博した今作品は、2009年にOVA化されることになった。これは前述の伝説的漫画のスピンオフ作品のなかでも異例の快挙である。
しかし、これは『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』という漫画作品への賛辞であって、OVAへの評価ではない。アニメ作品と原作の漫画の評価はかい離していることが多く、秀作の漫画のアニメが必ずしも面白いとは限らないのだ。
だが、『OVA聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話(以下、OVA聖闘士星矢LC)』は漫画を凌ぐ出来だったと断言できる。
優秀な作画、ベテラン声優陣の安定した演技、迫力のあるバトルシーン。原作『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』では古参のファンから「少女漫画のよう」と難色を示された手代木作画が、アニメでは見るも鮮やかに表現されている。
漫画に留まらず、アニメで更なる躍進を見せた『OVA聖闘士星矢LC』。その魅力を考察していこう。
漫画を超えた作画
アニメにおいて作画は重要な要素である。いわゆる「作画崩壊」を起こしている作品が多く見られるが、作画崩壊はその作品のファンを大いに失望させる事態だ。作画担当者によって顔の描き方が違うなどはまだ受け入れられるものの、明らかにデッサンが狂っている回などを見せられると視聴者は悲しみを通り越して怒りを覚える。
故に、アニメはまず1クール通して安定した作画を描けているかが非常に重要となる。
そういった意味で、『OVA聖闘士星矢LC』はまず合格といえた。
だが、更に視聴者にとって嬉しい誤算が起こった。『OVA聖闘士星矢LC』は、漫画をも超える素晴らしい作画を見せつけたからだ。
先にも少し述べたように、原作『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は確かに絵はキレイだが、少女漫画のような繊細な線と書き込みとトーン使いで、昔からの車田正美『聖闘士星矢』ファンからは賛否両論だった。
しかし、『OVA聖闘士星矢LC』は性別問わず受け入れられる見やすい作画と演出で、古参のファンをも納得させ、更に新規ファンを獲得することにも成功する。
まず、キャラクターの動きが素晴らしい。『聖闘士星矢』には欠かせないアクションシーンの一つ一つ、細かくいうなら口の動きや手の動きにまで、入念に作られている。特に各キャラクターの見せ場である必殺技に関しては、ファンのもっとも厳しい目が集まるが、これにも『OVA聖闘士星矢LC』作画スタッフはしっかりと応えていた。
ペガサス流星拳などの打撃技、廬山百龍破などの小宇宙のエネルギーをぶつける技まで、本家のイメージと迫力を損なうことなくしっかり描ききっている。これには往年のファンも安堵し、アニメスタッフに惜しみない賛辞を送ったことだろう。
静と動を巧みに描き分け、キャラクターが死ぬ重要なシーンも感動的に演出されている。このように、『OVA聖闘士星矢LC』はアニメーションとしては満足すぎる出来だった。
キャラクターも本編以上の出来に
もう一つ、『聖闘士星矢』において重要なのが登場人物たちである。
手代木版『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、タッチが繊細なぶん、画面がごちゃごちゃするという欠点があった。
しかし、アニメではその弱点をも克服した。遠景、近景メリハリのある作画のおかげで、手代木史織の、ある種少女漫画的タッチから、アニメ的演出に見事書き換えている(ただし、そのぶんやや原作と離れているという点は否めない)。
また、声優陣の演技も評価に値するだろう。『LC』は『聖闘士星矢』とキャラデザインがほぼ一緒で、声優陣たちは”本家『聖闘士星矢』のキャラクターとうり二つでありながら、全くの別キャラクター”という微妙な演技を求められた。
『聖闘士星矢』の声優交代騒動は広くアニメファンの間で知られるところであり、スピンオフ作品とはいえ声優陣たちにもプレッシャーがあったことだろう。
しかし、声優陣は見事に各々のキャラクターを演じてのけた。特に、マニゴルド演じる小野大輔の演技は素晴らしく、悪の華たる蟹座の魅力を存分に発揮していた。
このように、『OVA聖闘士星矢LC』はアニメーションとして比類なき成功例といえる。
もう少し注文をつけるなら、いまいち心に残る曲が少なかったので、もし続編が制作されるとしたらそこに期待したいというところぐらいか。
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