『ジャンプ』のギャグ漫画最前線を走る麻生周一の代表作 - ぼくのわたしの勇者学の感想

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ぼくのわたしの勇者学

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『ジャンプ』のギャグ漫画最前線を走る麻生周一の代表作

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画力
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ストーリー
2.5
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
2.5

目次

『週刊少年ジャンプ』で連載したギャグ漫画

現在、『週刊少年ジャンプ』上で『超能力者 斉木楠雄のΨ難』を連載中の麻生周一の、一度目の連載作が『ぼくのわたしの勇者学』だ。これも『斉木楠雄』と同じく、れっきとしたギャグ漫画である。

連載期間はおよそ一年。一挙2話掲載などをやってのけ、単行本は6巻で完結している。

『ジャンプ』におけるギャグ漫画の割合が少ないなか、一発目の連載としてはかなり善戦したほうだろう。新人で10週打ち切りにならず、ギャグ漫画でこれだけコミックスが刊行するのはそうそうあることではない。こういった実力があってか、『勇者学』は一時期の『ジャンプ』で、ギャグ漫画の看板となっていたこともある。

ギャグ漫画としては、もう少し突出したところも欲しい

ストーリーの舞台となるのは学園で、主人公でボケの鋼野剣は教師という立場だ。ツッコミは準主人公の河野盾。テイストとしてはうすた京介の『ピューと吹く! ジャガー』に通ずるものがある。

河野盾は学校はもちろん、休日でも鋼野に出くわし、そのたびに振り回されるという構図だ。そこに、やがてゲーム研究部の面々が加わり、イベントが増えていくという流れになる。

物語は一話完結で、ハズレ回と当たり回の差が激しい。むしろギャグ自体も面白いものとつまらないものがはっきりと分かれるので、よほど好きでないと単行本を買うまでには至らないだろう。

漫画のなかの毎回全てのギャグで人を笑わせられるとは限らない。だが、一定した面白さが『ぼくのわたしの勇者学』にあるかというと、首を傾げてしまうだろう。そこは『勇者学』に限らず、ギャグ漫画のもっとも難しいところだ。

また、先にも述べたように『ぼくのわたしの勇者学』は『ピューと吹く! ジャガー』に似ている部分が多々見受けられる。

ボケとツッコミの立ち位置もそうだが、ギロチンのまさゆきはハマーに似ているし、ツッコミが盾ひとりで他の人間がボケというのも一致する。ボケの構図もツッコミの顔も書き文字も『ジャガー』に似ていて、『勇者学』ならではの特徴が見えてこない。

こういったところも、現在連載中の『超能力者 斉木楠雄のΨ難』に比べると、まだ未熟な部分が多くみられるだろう。絵もギャグもまだ洗練されていない。逆に言えば、『ぼくのわたしの勇者学』を経験したからこそ、『超能力者 斉木楠雄のΨ難』へと繋がったという部分もある。

新人漫画家の出世作にしては上々だが、もう少し個性をつけるという面で頑張って欲しいところもあった。コミックスのおまけページも若い作者らしく浮足立っていて、いまいち読もうという気を起こさせない。

RPGとギャグの融合

と、厳しい意見を述べてきたが、一時期のジャンプのギャグ漫画をリードしただけあって、『勇者学』には面白い部分はたくさんある。

誰もがやったことのあるRPG風の設定でありながら学園が舞台なので、わかりにくさがなくギャグにすんなりと入っていきやすい。読むうえで段差がないというのも、ギャグ漫画にとっては大事なところだ。

そして一番のウリであるこのRPG風のギャグこそが、『勇者学』の真骨頂であるといえるだろう。RPG(主にドラゴンクエスト)をやったことのある読者なら、くすりと来るものが多い。武器・防具屋の看板、RPG風の会話など、見覚えのあるファクターが『勇者学』の魅力だ。

筆者が一番好きなのは「ゲルマニウムファンタジー」略して「ゲルファン」の回だ。ニートの母親を主人公とするゲームを鋼野や河野がプレイするという回で、登場人物ではなくゲームのボケを楽しんでいくというスタイルになっている。RPGを基にしたとんでもないギャグの連発は、RPGファンにはたまらないだろう(もっとも、これも『ジャガー』のニャンピョウの回に空気感が似ているが)。

その他の基礎の部分も『勇者学』はしっかりしており、ページまたぎを多用したギャグや顔芸など、抑えるべきところはしっかりと抑えている。

ギャグ漫画家にはストーリー漫画以上に登場人物の顔や体格などの特徴を捉えることが重要とされる。太ったキャラや不細工なキャラが、ギャグに良い彩を添えるからだ。その点では、麻生周一はしっかりとどんなキャラでも描きこなし、自分の面白いと思う世界をちゃんと描く準備を整えている。特にギロチンのまさゆきの妹の、例えようのない残念な感じは傑作といえるだろう。

こういった点を鑑みても、『勇者学』は漫画として突出したものはないものの、ギャグ漫画家の連載第一歩としては上出来の部類に入るだろう。

繰り返すようだが、次作『斉木楠雄』を読めば、その上達っぷりが手に取るようにわかるというものだ。現在『斉木楠雄』はコミックス16巻まで刊行されており、FALSHアニメと実写映画化も決まるという順調な足取りを見せている。これも『勇者学』の連載を経たうえでの経験が為すものだとすれば、『勇者学』は十分、その役割を果たしたといえる。

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