半人半妖の女戦士達による薄幸の戦記
ウリはないが安定したストーリー
『ジャンプSQ』上にて連載されていた『CLAYMORE』。全27巻の単行本累計発行部数は800万部を超え、ファンタジー漫画としてはかなりの売れ行きを見せた。
『CLAYMORE』のシナリオもキャラクターも、そう珍しいものではない。
人を食らう化け物・妖魔を倒せるのは銀の瞳の女戦士たちのみ。彼女たちはクレイモアと呼ばれ畏れられている。クレイモアの一人、クレアは恩人であるテレサを殺した妖魔・プリシラへ復讐すべくクレイモアとしての使命を果たしていく…メインのストーリーはこんなところだ。
やがてクレアのもとにはクレイモアの同士が集まり、自分たちを生み出した組織が全ての元凶であることを知り、組織の壊滅を目標とする。そのさなかでプリシラと再会を果たし、決戦が始まっていく、と、長期連載に伴って加えられる要素が多くなっていったが、安定して当初の目的であるプリシラの影は消えていない。目的の軸が定まっているおかげで、読者は物語の方向性を見失わずに済む。
『CLAYMORE』自体は決して珍しいストーリーではないが、このように安定しているところが読者に支持された理由の一つだろう。安心して読めるというのも、漫画にとっては大事なところだ。
儚くも美しい戦う女性たち
そして『CLAYMORE』最大の魅力が、キャラクターたちの儚い人生である。
先に少し述べたように、『CLAYMORE』のキャラクター自体には取り立てて目立った個性はない。むしろ、口調はほとんどが一緒だし、顔の造形も似ているから淡泊に見えるという意見もあるほどだ。
しかしながら、『CLAYMORE』のキャラクターたちの魅力はそれぞれの”個性”によって引き立つものではなく、むしろ”生きざま”によって露になるのだ。
たとえばオフィーリア。凶戦士と呼ばれ、仲間であるはずのクレアを執拗に追い詰める戦士であるが、その散り際は切ない。
オフィーリアは覚醒し、妖魔になったことに気づいたあと、クレアの素質を引き出すために(これは無自覚ではあるが)あえて自らの弱点を示す。クレアの心が屈する寸前、「なにやってんのよアンタは!」と励まし、自らの命を後輩へと差し出すように死んでいく。ハムレットの悲劇の美女オフィーリアのように水のなかで美しく散っていった姿は、敵でありながら切ない気持ちを去来させた。
また、クレアに命を救われたことに義を感じ、北の戦乱で覚醒しかけたクレアを引き戻すために死んだジーンも涙を誘う。この北の戦乱は作中でも屈指の見どころであり、数多の戦士たちが無残にも死んでいくシーンは儚く物悲しい。
北の戦乱のあと、生き残った者たちが死んだ戦士たちの技を体得しているのも、戦士クレイモアならではの哀惜と弔いが表れており、感慨深い気持ちになる。
筆者が一番気にいっているのは、深淵の者イースレイの死に際だ。最強の覚醒者であり、大陸全てを自らのものとすべく動いたイースレイ。その本心は全くつかめず、人間のラキやプリシラを連れているなど不可解な行動が多かった。
しかし、イースレイが求めたのは家族の安らぎであり、最後は「死にたくないなぁ…」と心のうちでつぶやき、喰い殺されてしまう。
最強の敵キャラクターの、あまりにも平凡な願い。それを知った数多の読者は、どんな気持ちで彼の死を見届けただろうか。
やや中だるみが多い展開だったか
『CLAYMORE』は相当の実績を残し、無事に完結。生き残ったキャラクターたちのその後もしっかりと描かれ、読後感も悪くない。
しかしながら、後半のダレる展開で離れたファンも少なくなかった。
もともとアクションシーンにおいて大ゴマを多用する『CLAYMORE』は、見やすくなっているぶん、話の展開が遅くなりがちだった。序盤~中盤においては動(戦闘シーン)と静(会話シーン)がバランスよく配置されているので気にならないが、後半の休む間もなく戦闘が続く頃になると、あまりにも同じ展開が続きすぎて読んでいるほうは飽きてしまう。
物語を大団円へと向かわせるためには仕方のないことだとはいえども、キャラクターも増えすぎて飽和状態になっていた。
クレアたち旧戦士、新時代の戦士、新たな深淵の者…と混戦状態になり、少し離れた読者はついていけなくなってしまう。
キャラクターの散り際が魅力の作品だけに、キャラが増えすぎることはあまり歓迎される事態ではないだろう。ここをもう少し整理してもらえると、『CLAYMORE』はもっといい評価を受けたのではないか。
しかし、ダレ気味の後半を差し置いても、『CLAYMORE』は良い漫画だった。
ひとりひとりの人間が、生きて、考え、死んでいく。こういうきちんとした人間賛歌を描ける漫画家は貴重で、読者からは常に求められている。
作者八木教広の連載作は『エンジェル伝説』と『CLAYMORE』のみだ。いずれも長期連載・ヒットを飛ばしていることからも、その高い実力がうかがえる。作者独自の武器で、これからの活躍に期待したい。
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