ラブコメかギャグなのか
『うる星やつら』とタイプは同じだが、ややバランスが悪いか
『スクールランブル』は週刊少年マガジンで連載されていた漫画だ。6年の連載期間で、約750万部発行された。
これはマガジンの歴史のなかでも、かなり売れた部類に入るだろう。メディアミックスも盛んにおこなわれ、アニメや舞台、ゲームにキャラクターCDなど様々な分野に手を伸ばしている。
ところでこの『スクールランブル』のストーリーは、ギャグなのか、ラブコメなのか、判別が難しい。
分類としては『うる星やつら』のようなスクールギャグコメディに近いだろうが、『うる星やつら』が1つの話のなかにラブコメ、ギャグ、シリアスを混ぜるのは違って、『スクールランブル』はエピソードによってテイストを変える。
つまり、一つの長編がそれぞれどういった方向性で進むか異なり、ギャグとラブコメが上手く混在する状況にはなっていないのだ。
もし『スクールランブル』のラブコメ路線が好きではないのなら、そのエピソードを全く読まなくなってしまう…と切り捨て方も出来てしまう。また、物語序盤こそギャグが多かったものの、後半はほとんどラブコメがメインになってしまうので、『スクールランブル』の勢いのあるギャグが好きだった人は、途中で読むのをやめてしまったかもしれない。
増えすぎてしまったキャラクターたち
また、キャラクターが増えすぎたのも『スクールランブル』の残念な点といえるだろう。
当初、主人公・塚本天満の恋が中心となっていたが、天満に恋する播磨拳児が登場してから、播磨と天満、二人の主人公が擁立される。
その後、天満は友人と妹の八雲とのやり取りが増え、播磨は漫画家として奔走するようになる。人間関係が広がるにつれて、八雲や天満の友人たち中心の話が増え、やがては彼女たちも主役になっていく。そして彼女たちの人間関係からまた新たな主役が生まれ…と、主役交代の連鎖反応が起きてしまい、当初の主役だった天満や播磨がだんだん出番を失っていった。
偶像劇とする見方もあるのだろうが、初期の『スクールランブル』が好きだったファンからすれば天満や播磨の出番が減っていく展開にはひどくがっかりさせられただろう。
主人公だけでなく、準主役級のサブキャラクターもかなり多くなる。天満のクラスである2年C組などは、生徒のほとんどが一度はスポットがあてられるようになる。しかもそれぞれにラブコメが展開されるとなれば、ちょっとうんざりしてしまうだろう。
名前も顔も覚えていないキャラクターの恋愛話が突然展開されてもなぁ…というのが、読者の正直な気持ちだ。
『スクールランブル』のキャラクターは一人一人しっかりとかき分けられ、個性豊かで面白いだけに、サブキャラはサブキャラのままでいてほしかった。ついてこれない読者が続出したのも、おそらくこれが主たる原因であると筆者は推測している。
読む人を選ぶラブコメよりはギャグが面白い
とはいえ、『スクールランブル』は秀逸な漫画だ。後半増えたラブコメ展開よりは、序盤のギャグがひたすらに良い。
特に男主人公・播磨のエピソードはいずれもハズレがない。いつの間にか漫画家になっていたり、失恋して漁船に乗り込んだり、漢・播磨拳児主役の話はどれもぶっ飛んでいて面白いのだ。
播磨は沢近や八雲など、複数の女性に好意をもたれているのにかかわらず、天満一筋なのが好感がもてる。そういったところが評価されてか、播磨は人気投票ではいつも上位で、カップル部門でも播磨と沢近、播磨と八雲、播磨と天満という組み合わせが上位三位を占めている。
播磨が『スクールランブル』の主役のままだったら、もうちょっと評価も変わってきたのではないだろうか。
また、『スクールランブル』で忘れていけないのが”柱ツッコミ”だ。1ページずつに挿入される編集者のツッコミが、漫画にいいアクセントを与えている。
『スクールランブル』においてはツッコミキャラクターというのが存在せず、ボケを回収する立ち位置の人間がいない。
そこを補完するための”柱ツッコミ”なのだろうが、コマをぐちゃぐちゃにすることなく、冷静で、しかも的を外してはいない。
ここまで冴えたアイデアを思いついた編集者(か、作者かはわかっていないが)には、敬意を表したい。
名作にはなりえないが、非常に惜しい
ラブコメ路線では映えなくても、ギャグ漫画としては十分に面白い『スクールランブル』。
評価されない原因となったのはおそらく、作者が自分のキャラクターに愛着を持ちすぎたことにある。これは連載終了後に、作者が「まだまだ描きたい大事な作品」であり、「いつか青年誌で『大人になる彼ら』を描いてみたい」と語っていることからも明らかだ。
漫画家として長年付き合ったキャラに愛着を持つというのよくあることだが、読者としては興ざめしてしまうのが事実だ。
おそらく、青年誌に『スクールランブル』の続編が掲載されたとしても、愛読する読者は少ないのではないだろうか。
今いちど、作者には自分の作品の評価と魅力を振り返ってもらいたいばかりだ。
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