人という愚かしさの美しさを味わう
繊細で丁寧な心理描写
実に丁寧な作品だなあ・・・!!
というのが一番の印象でした。
普通のパート主婦が思いもよらないことから
お金にまつわる犯罪に手を染めて堕ちていく・・・
という、よくあるテーマだと思うのだけど 、その、
「なぜ手を染めてしまったのか」
「なぜ引き返せなかったのか」
という理由の背景が
実に繊細で、丁寧で
細かな心の動きと、
その心を産み出すことになった私生活の問題、
心の澱、
偶然が生み出したささいなキッカケ、、、
それらのひとつひとつが
実に納得のいく描き方で描かれていて
「ああ・・・そういうことなら、
普通のパート主婦が
こんな大それた犯罪を犯してしまうのも、
ムリはないかもね」
って、人間の弱さと現代の社会の在り方を
しみじみと実感させてくれる。
このへん、脚本と演出、見事だなあ!! と。
こういう作品に出逢えると嬉しくなりますね。
抒情的かつ体感的な演技
作品全編に感じることなんだけど
すごく、
抒情的で体感的な作品
という実感。
簡潔に言い表すならば、
淡々かつ 美しい。
そう、まずはとても、淡々としている。
主人公の梨花が、とても淡々とした性格、
ということもあるのだろうか。
おだやかで人柄も良くて、仕事もまじめ、
顧客からも絶大な信頼を得ていて
人のために心を尽くすことが
何よりも好き・・・
そんな梨花を、
原田智世さんが実に見事に演じている。
もともと原田さんの雰囲気にぴったりの役どころ、
ではあるのだろうけど
なんだろうな・・・
ふとした手の動きとか
ふっと眼をふせたしぐさとか
声のトーンとか・・・
そういう、とても細かなところに
梨花の性格がすごくよく顕れていて
その演技が素晴らしいなあ・・・と、
唸りながら観てた(笑)
基本のベースがその淡々としたモードなので
やがて生まれる梨花の心の動きの
揺れ、情動、不満、焦り、不安・・・
それらがさざ波からやがて大波へとなって
ありありと伝わってくる・・・
そのコントラストの演じ分けがとてもリアルで見事で・・・
まるで自分自身が体験しているような、
なんともいえない一体感を感じたな~・・。
そして、なんともいえず、美しいんだ、これが。
どういう美しさか、って・・・
人という愚かさの美しさって、いうのかな。
原田さんは透明感のある美しさの女優さん、
という印象だったけど
この作品はまさに、
美しさが際立っていたように思った。
音楽と空間の美しさ
この作品を大きく支えていた
「影の主役」とも感じるのが 、
音楽の美しさと
しっとりとして透明な空気感。
挿入歌の切ないメロディが、
この作品に本当にピッタリで
今でも思い出すと切なくなってくる。
そして、そのメロディに乗せて
梨花の独白のセリフが
静かに、静かに、沁み渡る・・・。
全編通して醸し出される
透明な空気感は、
不思議な空間の隙間を思わせる・・・。
美しい・・・とにかく、美しい・・・。
映画版も観たけれど、
個人的にはドラマ版の方が好みかな。
尺が長い文、よりじっくりと描けているからかな、
とも思うけれど。。
そんなところもかなりの見どころといえるのでは。
人間の弱さの根っこにあるもの
この作品は、確かに
「お金」にまつわる犯罪を取り扱ってはいるのだけど、
「お金」や「犯罪」がテーマというより
「人の弱さの根っこにある、本当の想いとは」
ということが、一番のテーマなんじゃないか、と思う。
梨花はふとしたことから
銀行のお金に手をつけてしまうようになるんだけど
それは、
ふとしたことで知り合った若い男性と恋に堕ちてしまい
その彼に貢ぐため・・・なんだけど、
そもそもそうなってしまったのは、
ご主人との生活の中で
満たされない想いが
長年少しずつ少しずつ
溜まっていってしまったから・・。
夫婦仲が悪いわけでは決してない。
ご主人もご主人なりの精いっぱいの愛し方をしている。
ただ・・・
梨花の求めている愛し方ではなかった。
その愛し方は、梨花を傷つけ、空虚にし、
彼女の尊厳をずたずたにした。
この現代社会に生きる私たちは、
「自分を大切にする」ことを教えられる前に
「他人に迷惑をかけないように」
「他人のためになることをするように」
と教えられる。
自分の価値を忘れてしまった人ほど、
他人に尽くそうとしてしまうもの。
この梨花のように。
ほとんどそれは無自覚で・・。
空っぽの自分を満たすために、
人に尽くしながら、
「私を愛してほしい」と叫んでいる。
その空虚感と欠乏感でぱんぱんになって
ふとしたキッカケに触れたとき
するすると甘く切ない破滅の道へと堕ちてゆく・・・・
でも本当は・・・
梨花はただ、
自分という人間を、ちゃんと認めてほしかったのだ。
「男性社会」の都合で作られた「女性像」でも「妻像」でもなく、
ただひとりの人間として、
自分の価値を認めてほしかったのだ。
そしてそれは・・・
本当に一番認めてほしかったのは、
愛してほしかったのは・・・
自分自身だったのだ・・・。
ご主人もそう。
彼は彼なりに、
ひとりの男性として彼女を愛そうとしてただけ。
その愛を受け取ってほしかっただけ。
それが彼女を傷つけているなんて知らなかったのだ。
そして、思うことがあるなら、
まっすぐ言ってほしかったのだ。
彼なりに精いっぱい受け止めたかったのだ。
その他の登場人物たちも、
「お金」というものを通して
現代を生きる私たちの
様々な人間の業と向き合っている。
「お金に縛られたくない」と、
ギュウギュウに生活費を切り詰めた挙句
家庭崩壊寸前までに陥ってしまう 、
水野真紀さん演じる「木綿子」も、
「節約」という形で
結局「お金」に縛られている愚かさを体験する。
でもそれは、
「本当の幸せはお金が決めるわけじゃない」
ということを知っていたからだし
ただただ、家族みんなと幸せでいたかったからだ。梨花の不倫相手となる、
満島真之介さん演じる「光太」も
梨花の豪遊ぶりにやがて金銭感覚がマヒし、
自分の夢も見失っていってしまうけれど、
もともとは、
純粋に自分の映画製作という夢を大切にしたかったからだ。
梨花との関係も、純粋に梨花という人柄に惹かれたからだ。
本当はお金持ちではない、と最初から分かっていたとしても
「光太」はやっぱり梨花に惹かれていただろう。
みんなみんな・・・
本当の根っこにあるものは
けなげで美しい純粋な想いなのだ。
ではどうして「お金」というものに触れると
人は変わってしまうのだろう。
きっと・・・
「お金」というのは
そんな体験をとおして、
忘れかけてしまっている
本当の自分の姿を思い出すための魔法の力を
たずさえているのかも、しれない。
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