すべてを知りたい
この作品が連載された1997年。この年の大きな事件の一つといえば「神戸連続児童殺傷事件」ではなかろうか。当時14歳の中学生が起こしたこの猟奇的な殺人事件。まさかこんな悲惨な事件を中学生がおこすなんてと世間を震撼させたと同時に、人々の心に巣くう闇に対し皆互いに互いを疑心暗鬼の目で見てしまったことだろう。そんなさなかリアリティ溢れる死体描写やグロテスクな作風で連載を続けたこの作品は少なからずそんな世の風潮に拍車をかけてしまったものではないかと私は思った。
簡単に内容を説明すると、刑事である「小林洋介」が無残な恋人の死とその犯人への復讐をきっかけに別の人格が生まれる。その人格や自身すら知りえぬ自らの秘密、それらにかかわる巨大な組織の陰謀など様々なものが密接に絡み合って、終着が見えない作品である。
終着が見えないと表現したが、ではこのようなお話の終着とは一体なんなのか。私はサスペンスものにしても、ファンタジーものにしてもお話には終着などないのだと思う。そこにあるのは人々の知りたいと思う欲望だけがあり、お話とはその欲望を満たすために秘密をちりばめた時の流れを追うものではないかと思う。
この「多重人格探偵サイコ」はそんな「怖いけど知りたい。でも知った内容が非人道的で自身に影響が出てしまったらどうしよう。それでも私は知りたい」という人間の危険な欲を満たすための作品のように感じた。
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