スクエニ女性作家の中では突出している東まゆみのオリジナル長編
美しいだけではない ”動く”キャラクターの魅力
ガンガンがかつての隔週発刊から月刊に移行していった時代、ガンガンの連載陣には女性作家が多かった。『幻想大陸』の夜麻みゆき、『PONとキマイラ』の浅野りん、『浪漫倶楽部』の天野こずえなど、それぞれが個性を持ったタッチと持ち味を活かした漫画を描き、それぞれに人気があった。ガンガンを始めとする当時エニックスの漫画作品は、学園ものと恋愛ものばかりの少女漫画に飽きた少女たちの世界を広げるのにふさわしいキュートでファンタジックな作品ばかりで、繊細かつ美しい作画が少女たちの心を引き付けてやまなかった。
東まゆみも、その一人だ。だが東まゆみは、前述した作家たちとは毛色が違った。
東まゆみは、女性的な作画の美しさと丹念なストーリーラインの構成力、そして華のあるアクションシーンで魅せる、スクエニ作家でも指折りのバトル・アクション漫画の描き手だったのだ。
現在でこそ荒川弘のおかげで、女性作家の多いスクエニにもアクション漫画の存在感が増してきたが、当時は違った。
『ガンガン』誌上においては『ハーメルンのバイオリン弾き』や『魔法陣グルグル』などストーリーバトル漫画を描くのは男性が多く、『ハーメルン』も『グルグル』もギャグ、ほのぼの路線とアクションメインで作品を動かし続けた訳ではなかった。『Gファンタジー』では峰倉かずやが『最遊記』を、『ガンガンWING』では久保聡美の『陽炎ノスタルジア』などが人気を集めていたが、両者ともアクション・バトルというよりはキャラクターの偶像劇・心理描写に重きを置いた流れで、バトルシーンそのものは決して多くはない。
そのなかで、『ヴァンパイアセイヴァー』の連載を始めた東まゆみは、新人ながら異才を放っていた。格闘ゲームのキャラクターのコミカライズという難題を自分の中で消化し、モンスター型のキャラはおぞましくもユーモアに、女性キャラは可憐で妖しく描いた。それは、キレイな絵(風景・キャラ)しか描けないと思われがちな少女漫画家の中に光る確かな才能だったのだ。
彼女の才能は『スターオーシャンセカンドストーリー』にも活かされ、やがて初のオリジナル作『エレメンタルジェレイド』に繋がっていく。
東まゆみ初の長編 問われる真価は
スクウェア・エニックスからマッグガーデンに舞台を移し、オリジナルを描き始めた東まゆみ。その内容は、武器と変身する少女とその契約者たちの物語ーー東得意のバトルファンタジーだった。
だが、単なるファンタジーものでないことは、まずコミックスの表紙を見れば明らかだ。東まゆみはキャラクターデザインがバツグンに冴えている。主人公・クーとヒロイン・レン。二人の立ち姿を見ただけで読者はこの物語の内容を想像したくなる。続くシスカ、ローウェン、キーアなどアークエイルの面々もよい表情、立ち姿で平積みを見た読者の好奇心をくすぐった。ヴォルクスやグレイアーツなどのイケメンキャラクターは、女性ファンの心を捉えるには十分だっただろう。
このように、東まゆみはまずイラストだけで客の心を掌握する才能を持っている。女性読者は、男性読者よりも絵に厳しい、とされている。同時に、表紙絵を見てレジに持っていく”ジャケ買い”をする女性も多い。その点において、『エレメンタルジェレイド』は合格も合格なのである。
そして中身を見てみれば、まず設定が入っていきやすい。空賊の少年・クーが出会った”拾い物”の少女は、エディルレイドの中でも特別な存在『七煌宝樹』のレン。レンは”エディルガーデン”というクーにとって聞き慣れぬ土地を目指すという。そこに突然現れるアークエイルの三人…。と、少年漫画の定石を踏んだ始まりだ。
基本を倣いつつも、東まゆみは工夫を凝らす。それが”謳”の存在だ。契約の際、また戦う際に、契約者とエディルレイドが奏でる古語で構成された”謳”は、読者の目を引き付ける。そして”謳”によって異なる技の形態…とくれば、少年漫画好きはそそられる展開だ。
窮地を脱したクーとレンは、共にエディルガーデンを目指して旅立つ。成り行きで共に行動することになったアークエイルの三人と共に。物語はどう進んでいくのか…。
名作になりえなかったワケ 予測可能なストーリー
さて、ではそんな読者の琴線に引っかかりまくりの『エレメンタルジェレイド』が世間にいまいち認知されなかったのは、どういう理由なのだろうか。
それは一口にいえば、「先の展開が読めてしまう」。これに尽きると思う。
前項のラストで書いたアオリ文を読んで、読者諸兄は今度の展開をどう予測しただろうか。おそらく大半の人が、「あぁ、主人公とヒロインはなんやかんやありながら絆を深めてエディルガーデンに行くんだな」と思っただろう。
正解。そうなのである。そもそも第一話の展開からもわかるように、東まゆみは個々のキャラクターを活かせる構成力を確かに持っていながら(それはグレイアーツやラサティの骨太なエピソードなどを読めば明らかである)、メインのストーリーは無難で抑揚にかけているのだ。誰もが見たことのあるストーリー、展開で物語が終始続いていく。これでは読者は途中で買うのをやめてしまう。確かな作画センスと潜在的マーケティング能力を持つ漫画家でありながら、とても惜しい点だと思う。
しかしながら、東まゆみは一介の漫画家で終わるにはとてももったいないほどの才能を持っている。少年漫画家なバトル展開と少女漫画的な情緒豊かな語り口は、持ち味を活かす形で組み合わせればもっといい作品を生み出せるだろう。
作者の今後の展開に期待したい。
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