時計じかけのオレンジの感想一覧
映画「時計じかけのオレンジ」についての感想が5件掲載中です。実際に映画を観たレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
何とも言えない気持ちが残る作品
作品自体は嫌いではないけれど、何とも言えない気持ちは残る作品かもしれません。主人公のアレックスは根っからのワル!強盗・暴力・麻薬、そして強姦といろいろとやっていたけれど仲間に裏切られて刑務所へ。根っからのワルのアレックスをもし洗脳実験で真人間にできれば、この治療方法が認められると彼を洗脳状態にしていく姿は奇妙でもあり不気味にも感じました。ずっと映像を見続け、その間ある音楽を聞かせる。洗脳が成功すればその音楽を聴くと吐き気や頭が痛くなるというあののたうち回る姿は今まで罪を犯してきたアレックスに対するある意味罰なのでしょう。その状態から逃げるために駆け込んだ家は自分が暴力で殺した女性の家というのも皮肉なもんです。気分はよくない作品ですが、実は好きな1本です。
キューブリック節
「2001年宇宙の旅」、「フルメタル・ジャケット」など映画史に三千と輝く名作を残した、スタンリー・キューブリックのこれまた違った方面での名作の映画です。「フルメタル・ジャケット」のような悪意をコメディーで描くことでよりエグく見せる手法と、2001年のようにスタイリッシュで不思議さを演出するような映像と演出が、CG全盛の今の時代を持ってしても、これほど奇妙な作品を作った人間はいないのではないかと思います。話は本当に見ている自分が、映画の中の主人公アレックスのように暴力をみたら嫌悪するように洗脳されている気分になります。賛否ある作品だと思いますが一度見て欲しい作品です。
Choice!
どうしても他人に危害を加えずにはおれないような犯罪的人物と言うのは実際に存在する。この作品の主人公アレックスは無辜の市民を強奪し、強姦し、暴行して、良心の呵責など豪も感じないというどうしようもない極悪人である。こういう人間を社会は強制的に「更正」させるか、あるいは作中のちょっと偽善的な神父のいう「選択」の自由を彼らにも認めるかという、究極の選択を本作は提示している。そのテーマは重厚だが、作品全体の印象はシニカルで、猥雑で、怪しいエネルギーに満ち満ちている。札付きのワルたちが使うロシア語だかなんだか分からない妙なスラングも魅力的で、何度も復唱した覚えがある。これは俺が一番好きな作品なのだ。
キューブリックは予知したのか
これが公開されたのが1971年、今でも古さを感じさせない不思議な映画である。まるで予知したがごとく、今現在のロンドンはこの映画のようだ。CCTVですべて包み隠すことなく映像として証拠で残し、住民はプライバシーと引き換えに、安全を求めている。そして、この映画の主人公たちが略奪と暴力で暴れまわったのと同じことがそっくりそのまま現実となった。ロンドンはニューヨークと並んで多人種が住んでいる。その後ろで顔を隠した匿名性を利用し、未成年であるという隠れ蓑をかぶったヤングギャングの存在が有る。民族の共存や個人の幸福と自由等と高らかに耳あたりの良い言葉は美しく宣言される一方、底なしの憎悪と怨嗟が渦巻く。世の中に対して適応したくとも出来ない人間も多い。そんな現状と大人の都合を描いた名作だ。
バイオレンスの中で問いかけられる善悪
登場するのはありとあらゆる悪に身を染めている犯罪集団の若者たちです。まず前半でその無軌道なまでの悪行ぶりが映像に映し出されますが、リーダーの主人公が警察に捕えられます。刑務所では思いやりのある神父に世話してもらいますが、本人は後から強制的な心理学的な治療によってあらゆる攻撃的な性格を取り去られ、穏やかな性格に作り替えられます。するとそこで外に出てからかつての犯罪の対象相手から報復を受け続け、ひどい有様になって入院します。政治問題になることをおそれた政治家から手を回され、彼は元の悪の人格に戻ります。自己の意思によらず強制的に善人になされたのですが、今度は本人の自由意思によって悪に戻ったわけです。洗練されたポップな映像の中で、人間のあり方としてどっちがよかったのか。それは軽いたっちの映像の中で問いかけているものがあると思います。