万人受けは難しい、パラレルワールド、想像上の歴史を楽しめるか!?
史実への忠実は求めてはいけない
歴史的史実を基に作成された映画やドラマは、100%史実に忠実であることは滅多にない。あのお堅いNHKの大河ドラマだって、エピソードのいくつかは後世の作家の捜索や、その場の演者の意見などで史実を捻じ曲げてストーリー展開していくことがあるという。
あまりに改変が突飛すぎると毛嫌いする視聴者も多いが、GOEMONに至っては、もう史実どうこうという範疇ではなく、日本の歴史と似て非なる別の世界の、もう一つの異次元の地球で起きた話とでも思って観るとちょうどいいだろう。五右衛門と真田十勇士の霧隠才蔵が友達だとか、(そもそも才蔵自体が架空の人物という説もある)五右衛門が秀吉の側室の淀と旧知の仲だとか、大雑把な流れは史実を参考にしていても、こまごました人間関係はほぼ史実は無視されている。
挙句に忍びの修行をしていたとはいえ、カムイもびっくりの重力に完全に抗ったアクションや、着物などの風俗は、信長の南蛮かぶれがそのまま息づいていたら、日本もこんな風になったかもしれないという、日本であって日本でない不思議な空間となっている。
紀里谷氏の表現したい世界観には非常にマッチした、当時の南蛮に被れた日本人を誇張させた服装は、史実とは違うがこれはこれで楽しめるし、美しく思えるシーンもある。また、この表現は、題名のゴエモンがGOEMON表記なことから、海外での公開を意識した世界観でもあったのではと思われる。
ややCGに頼りすぎ、画面が暗く見づらさも
この映画は一体どこまでちゃんとセットを組んで撮影しているのか、正直殆どセットを組んだ撮影は行われておらず、殆どブルーバックを前に撮影され、建物その他は全部CGなのではないかと思うような画面である。アクションにしても、オーバーなアクションは当然CGだが、馬に乗りながら武器を投げるシーンなどは、実写でやった方が迫力が出るのに、そういったちょっとしたシーンも思い切りCGに頼っている感がある。
元々現実感の希薄な世界観なので、CGの動きの方がかえってマッチしているとも取れるが、一方でまだ動きの滑らかさが技術的にぎこちない部分もあり、ゲームソフトのキャラクターの格闘を見ているような、もう少し非現実を現実に近づけ、CGを使っているのか実写なのかと分からぬほど自然にアクションシーンが撮影されていたら、もっと良かったと思う。特にそれを感じるのが素手の格闘のシーンだが、CGを駆使したこの作品の格闘シーンより、はっきり言ってCGなしのジャッキー・チェンの格闘シーンの方が何倍もすごいため、こういうシーンは実写でも役者やスタントマンの使い方次第でリアリティやすごみが、生身の動作でも出せたのではという惜しさは感じる。
また、どのシーンも独特の色彩の背景に包まれていて、光の当て方などにも特徴があるのがこの作品だが、CGを駆使した作品の多くの事例にもれず、画面が暗いという欠点がある。
せっかくの格闘シーンで誰が誰だか分らぬ、動きが分からぬでは意味がなく、劇場ではもっと暗く感じてしまう。不思議な世界観を出すために明度を落としたのかもしれないが、もう少し画面を明るくした方が迫力も出たように感じる。
色々突っ込みたくなる大人、突っ込めずに楽しめる子供
この作品の対象年齢について考えてみると非常に難しい。ある程度歴史を知った人間が見た方が、歴史のパロディ作品として楽しめるという意味では大人が見た方がいいようにも思うが、忍者の人間業を超えた突飛でもない動きなどは、子供の方が楽しめるのではないだろうか。
子供だと、史実を知らないまま見て「霧隠才蔵と五右衛門は友達だったのか」と歴史的誤認をしてしまう可能性もあるが、あえて突っ込む予備知識がない世代なら、純粋に物語を楽しむことができるだろう。しかし、大人だと、この二人は友達なわけがないとか、極めつけはこんなにジャンプができるなら、なぜ才蔵が捕まった時に刑場破りをしないのよと、そこへ帰結してしまう。
また、最後も家康に争いなき世を任せたいのであれば、むやみに敵陣に乗り込んで相手を倒しまくるという矛盾した行動をとる意図がよく分からない。この関ケ原のシーンの無駄な虚しさは、大人が感じるものであろう。子供は何も考えずカッコいいと感じるかもしれない。
そうなってくると、ある程度歴史に関心がある中高生あたりが一番楽しめる世代と言えそうだ。
インパクトが強烈な大沢たかおさんの「絶景絶景」
この作品はキャストが豪華で、どの役も役にはまっていると感じる。江口洋介さんの五右衛門もなかなか風格ある泥棒で、争い無き世を求めて自由に行動するあたりは、NHKの大河「新選組!」の坂本龍馬役と共通するような役どころで、江口さんの大らかな包容力がマッチしている。
一方、大沢さんは比較的普段の役どころが幸薄な男性が多く、線が細い印象だったが、この作品の才蔵も言ってみれば幸薄には該当するものの、五右衛門の身代わりになり狂気に満ちた表情で絶景絶景と叫ぶ姿は、後に五右衛門が子供と一緒にかまゆでにされたという史実が、才蔵のことだったのかと見ている側に信じ込ませてしまうのに十分な迫力があった。
この映画ではどこか、絶景絶景は才蔵のセリフというインパクトが強い。
戦闘シーン、群衆シーンはまるでレッドクリフ状態のこの作品、あの状態でもそこそこ生き延びることができるポテンシャルを持つ五右衛門が、才蔵を助けられないわけがないのだが、そんなところだけは史実に妙に忠実だったりして、なかなかつかみどころのない作品である。
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