東宝の鬼才、東映ヤクザ路線に挑む - ダイナマイトどんどんの感想

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ダイナマイトどんどん

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東宝の鬼才、東映ヤクザ路線に挑む

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映像
4.5
脚本
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キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

大映が東宝監督で制作した異色ヤクザ映画

大映は1971年に倒産して大手映画会社としての活動を停止しましたが、後継会社の大映映画株式会社が一介のプロダクションとしてその名を引き継ぎ、散発的に映画を製作しています。この1978年作品「ダイナマイトどんどん」もそのひとつですが、新生大映映画としては異色な点がいくつかあります。

まず、東映ヤクザ映画路線を一手に主導して飛ぶ鳥落とす勢いだった俊藤浩滋プロデシューサーがチーフとして大映に乗り込み、指揮をとっていること。配給は東映が担当しますので、ここまでは型破りというほどではありません。東映スターの菅原文太と北大路欣也を引き連れて調布の大映撮影所に乗り込んでいます。

そしてもう一人、東宝の岡本喜八監督が外部招聘されています。大映映画は京都撮影所・勝プロダクション製作の「座等市と用心棒」(1970)に次いで2本目。調布撮影所は前年のテレビ映画「昭和怪盗伝」(仲代達矢主演)で経験済みです。

で、企画はというと、ヤクザ映画には違いないのですが、一種のパロディというか、戦後初期、北九州で対立する二大暴力団が警察の仲介によって紛争を野球の試合で解決する、というすっとぼけた話になっています。無国籍的なギャング映画の佳作はいくつもものにしながらもヤクザ映画は撮ったことの無い岡本監督がメガホンを取った理由もここにあるのでしょうし、俊藤浩滋自身が実録路線に梶を切った東映の流れに今ひとつ乗り切れていなかった(しかもそれすら終焉を迎えかけていた)事情も影響しているような気がします。おちゃらけた話のわりには、戦後風景を大きなセットできっちり再現した、かなりな大作映画になっています。

脚本は、ほぼヤクザ映画とは無縁の大御所・井出雅人。この年、野村芳太郎監督の「鬼畜」も手がけ、本作とともに2本をキネマ旬報ベストテンに送り込む絶好調ぶりを示しています。

冒頭から喜八タッチでハートをわし掴み

岡本監督はコンテをコンマ秒単位で事前に準備しておく演出で知られ、日本映画でも抜群のリズム感覚の持ち主として定評があります。メインタイトルに至る冒頭部は、まさにそのリズムや呼吸が絶品のきらめきを見せる至福の数分間で、何度観ても興奮させられます。この段階で、菅原文太、小島秀哉、岸田森、フランキー堺と、主要俳優の大部分がサーッと惜しみなく投入されているのもいい。突撃するヤクザたちの足さばきがほとんどダンスになっているあたりに注目です。これぞ喜八タッチの真骨頂。

苦りきった警察署長(藤岡琢也)が両方の組長、アラカン、金子信雄を呼び出す次場面をさらうのは、アラカン側の代貸・中谷一郎。男っぽさとユーモアを最高のブレンドで見せてくてたこの俳優の真価はそれほど多く映像に残っていないのが残念ですが、それでも岡本作品の何本かで味わうことができるだけでもよしとしましょう。これも、それほど出番は多くありませんが、その1本です。

映像が少ないといえば、松竹新喜劇の名優・小島秀哉はもっと少ないだけに、準主役待遇のこの映画は非常に貴重です。もっと岡本映画で観たかった気もしますが、情を前に押し出すタイプの俳優さんだけに、これ1本だけの出演となってしまったのかも知れません、同じことは北大路欣也にも言えますが、一方で喜八・文太コンビが再度組まれなかったのは理由不明で不思議といえます。

人情喜劇そして炸裂するドタバタアクション

宮下順子が登場し三角関係が示されるあたりから、ぐっとテンポが落ちウェットになってきます。井出雅人ワールドともいえますし、いずれにしても岡本監督には非常に珍しい題材なんですが、彼は初期に「ある日私は」といメロドラマの佳作を撮っているように、柄でもない分野でも非常に水準の高い仕事をする人です。万能の職人なんです。ホロリとさせクスリと笑わせる不器用な男たち、女たちの人情喜劇の世界。

そしてタメにタメたところで、ラストの試合でドタバタアクションが炸裂します。音楽佐藤勝は、ここ一番で、そこまで出し惜しみしていた主題曲メロディを始めて高らかに鳴らし(これ名曲です)、まさに感動の一瞬。そのあと、傷痍兵フランキー堺が反戦的なセリフをナマな感じで語り始め、ここで白けるという批評もありましたが、私はそうは思いません。「江分利満氏の優雅な生活」でもそうでしたが、岡本監督はごくたまーに突然エンタテインメントを中断してしまう人ですが、そんなときは物凄く真摯な顔を覗かせます。作家の誠意を感じさせます。

結局野球は暴力沙汰に一変してしまい、両者一網打尽で沖縄強制労働キャンプ送りになってしまうというのがオチ。その休憩時間に「決闘の申し込みじゃ!」と怒号が響き渡り、両者にらみ合いの後、また野球が始まろうというストップモーションに主題曲が流れます。本編ではスカウトと野球賭博に徹し自身プレイしなかった敵方代貸・岸田森がここでは試合に加わりそうなのも嬉しい趣向です。金子、中谷、アラカンが欠けていたのがちと残念ですが。

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