異色の原作をアレンジした刑事ドラマ - デカ 黒川鈴木の感想

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デカ 黒川鈴木

3.503.50
映像
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脚本
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キャスト
4.50
音楽
3.00
演出
3.00
感想数
1
観た人
1

異色の原作をアレンジした刑事ドラマ

3.53.5
映像
3.5
脚本
3.5
キャスト
4.5
音楽
3.0
演出
3.0

目次

原作は東京創元社刊行の連作短編

滝田務雄が東京創元社から刊行したデビュー短編集「田舎の刑事の趣味とお仕事」のドラマ化です。翻訳推理小説の老舗であり、日本人作品にかけてはガチガチの本格推理に力を入れている同社らしく、また、タイトルから想像がつくように、かなり異色の警察小説で、ドラマもそれを生かすべく工夫をしています。深夜ドラマとしてももややイレギュラーな45分枠で、1話の正味が30分弱になっています。なお、製作開始時点では第二短編集「田舎の刑事の闘病記」(文庫版では「「田舎の刑事の趣味とお仕事」と改題しています)が既に刊行されているのですが、なぜかこちらは完全に無視されており、第1短編集から6話が取り上げられたあとは7話分がオリジル脚本で続きます。何らかの混乱があったように見受けられます。ワンクール番組なのにレギュラーの田中圭が途中降板したのもダブルブッキングだった模様で、主演の板尾創路は著書「板尾日記」で不手際への憤懣をぶつけています。

キャストはまずまずだが

原作設定は少人数の田舎警察署の刑事課を舞台にしており、黒川鈴木という名の巡査部長が主役。その部下白石高作が副主人公。これに黒川の妻(原作では名前なし)と、もう一人の部下・赤木忠志が絡みます。この配置はほぼ忠実にドラマ化されており、交通課から刑事課に応援派遣される巡査・緑谷緑という若い女性が新しく追加されているぐらいです。

主役の板尾創路は私見では原作イメージと違うのですが(私の脳内では田中哲司でした)悪くありません。白石の田辺誠一と黒川の妻(ドラマ用に静江という名前が設定)・鶴田真由は完璧すぎる人選で、思わず膝を打ったぐらいです。ところが・・・というあたりは後述します。

日本版フロスト警部か

推理小説には「ダメ男の主役探偵」という系譜があり、元祖はドーヴァー警部です。性格最悪、品性下劣、能力最低だがなぜか偶然の後押しもあって事件は解決してしまうというキャラクター。近年これを引き継いでいるフロスト警部は、「少しはいいとこもある」「たまに推理があたることもある」という感じに軌道修正され、リアルな共感を呼んでいます。黒川鈴木もこの系譜ですが,「神経質」「杓子定規」「意地悪」「恐妻家」といった人間性の一方で、推理能力はまずまず高い設定となっており、ソフト版フロスト警部といえるでしょうか。ドラマ版はさらにソフト化されており、あまり意地悪でも神経質でもありません。変わりに靴の紐をうまく結べないというベタなギャグが毎回用意されています。解決篇は結構カッコ良く決めてしまう。板尾創路の持ち味からすれば妥当な脚色なのでしょうが、原作ファンとしてはうーんという思いがぬぐえないのも事実です。ただ、原作を忘れれば決して悪い主役ではありません。

白石は原作では黒川に嫌われ苛め抜かれている役どころですが、ドラマは軽く突き放されている程度。珍コンビの楽しさを狙う作りとしては、この脚色は成功だったと思います。無能で軽薄だがめっぽう人のいい青年を田辺誠一は熱演しており、ホントこの人はクールな役とバカ役の振幅が激しくて毎回感服させられます。犬がじゃれつくように黒川を慕う演技もいい。

残念だった黒川夫人の描写

田辺誠一と同様、名前を見て思わず頷いた鶴田真由の黒川夫人ですが、残念ながら実際のドラマでは激しすぎます。原作の、絶対に大声を出さない、強い言葉を使わない、静かに遠まわしにじわじわと黒川を追い詰めていく怖さ、楽しさが全部すっ飛んでしまっている。これは女優の責任ではなく明らかに脚本演出の方針で、ドラマの調子にアクセントをつける狙いとして性格変更したのでしょうが、鶴田真由なら「静寂の恐妻」にはピッタリだと期待しただけに残念でした。ただ、これも原作を知らない人にはまずまず楽しめる演技になっているとは思います。

なお、実は原作はあらゆる人物について容姿、年齢、服装の描写などが一切ありません。すべて言動のみを通して想像させるつくりになっていて、たとえば黒川夫妻が30歳ぐらいというキャスティングもありだったと思います。

犯罪部分はシリアスに

コミカル度は原作以上にアップされている一方で、事件のシリアスさも補強されています。比較的無機的に描写される原作に比べ、特に動機面が深刻に描かれているケースが多く、喜劇的に動くレギュラー陣を除けば完全にシリアスドラマになっているといいでしょう。特にオリジナルスーリーはその傾向が強くなっています。つまりメリハリが強いわけですが、そこで全体の喜劇色と肉離れを起こさなかったのは、ややニュートラルな板尾の個性が貢献しています。ブリッジになっているのです。これが、田辺誠一が謎解きを担当していたら大変なことになっていたでしょう。

板尾人脈でしょうか、漫才師や笑い系のタレントが多数ゲスト出演していますが、全員が事件関係者側なので、一切喜劇演技はしていません。さながら笑いタレント陰惨シリアス演技大全集みたいになっているのも、この番組のユニークな点です。

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