狂乱のドタバタで少年ギャグマンガの孤塁を守る
25年続く人気ギャグマンガ
「毎度!浦安鉄筋家族」は、「浦安鉄筋家族」「元祖・浦安鉄筋家族」に続くシリーズ第3弾で、連載中に25周年を迎えました。2018年春にはこの第3弾も完結して第4弾「あっぱれ!浦安鉄筋家族」に移行していますが、題名が異なっているだけで内容はほとんど同じです。第2弾で主人公グループが小学校2年生から3年生に進級したぐらいです。このとき一部の人物設定が変更されましたが、すぐに元に戻されました。その後は何回夏休みやクリスマスを繰り返そうが3年生のままで、久々に再登場するゲストキャラクターに「何年ぶり?」とかとぼけた会話をかわしたりしています。
少年ジャンプ連載の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の連載が終了した現在は、少年誌(こちらは週刊少年チャンピオン連載です)長寿連載が続く貴重なギャグ漫画となりました。「天才バカボン」のような簡略化された線ではなく、比較的劇画に近い、書き込まれた絵によるギャグ漫画である点も「こちら葛飾区亀有公園前派出所」と共通しています。
徹底したスラプスティック志向
内容は、一言で要約すれば、浦安在住の小学校3年生・大沢木小鉄を主人公に、その家族、友達、教師などによるドタバタな日常、といったところでしょうか。こう書いてしまうと「サザエさん」を連想される方もおられるでしょう。その通り、枠だけは「サザエさん」なんです。ただし、それ以外が天と地ほど違う。
まず、ギャグが狂騒的です。滑ったり転んだりだけでなく、暴力描写も半端でなく、子供同士で殴って顔が変形したり(前歯は毎回確実に吹っ飛びます)、子供が大人を殴る場面もしょっちゅです(ただし、その逆はさすがに少ない)。こう書くと顔をしかめる方も多いでしょうが、作者は暴力を描きたいわけではなく、とにかく破壊的でスピーディーなギャグを目指しているんです。ですから、車の暴走、衝突はもちろん、建物もしばしば全壊します。先ほど日常、と描きましたが、超・日常という方が性格でしょうか。
圧巻の似顔キャラクターたち
ここまで書くと察しがつくでしょうが、作者は熱烈な香港映画ファンです。エピソードの数え方は第1部では「1発目、2発目・・・」、第2部では「1固め・・・」でしたが、この第3部では「1キンポ」から始められています。重要レギュラーの担任教師・春巻龍はブルース・リーのそっくりさんですし、ジャッキー・チェンやサモ・ハン・キン・ポーのそっくりさん(二人とも近所の主婦)も時おり登場します。特に前二者はそれぞれのファンが読んだら号泣しそうな情けないキャラクターー(ジャッキーは極悪性格)に描かれてますが、この世界では手酷い扱いをされている似顔絵対象ほど作者の愛情対称なんです。ちなみに春巻は「違うツイー」「そうだホイ」「わかったノラ」などと言葉の語尾に香港スターの名前をつけてしまう癖の持ち主で、これが何ともいえない味になっています。
その最もたるものが、顎のとがった、プロレスラー出身の国会議員で、彼の特性は「巨大ウンコ」ただひとつ。それも半端な巨大さではなく、デパートを倒壊させたり、小学校をほぼ飲み込んでしまったこともあります。本人はやや大柄という程度なのですが、どこに入ってたんだという突っ込みはナシ。(数十人分の給食をあっという間に平らげて太りもしない美少女・ノムさんは第二部から準レギュラー化した人気キャラクターです)。作者はこのモデルI氏の熱烈な崇拝者であることを明言しています。
似顔絵キャラクターはこれだけではありません。「坂上欽一」「チンペーさん」(これはもう完全に本人設定)「武田金八」「カルロス権藤」「蚤もんたん」「闇崎駿」などモデル明示に近いものはもちろん、ブラッド・ピッド(商店主)やスティーブ・マックイーン(小学生)は一言も説明なし。斉藤洋介そっくりさん(冴えない会社員)、大滝秀治そっくりさん(ホラ吹き爺さん)などは準レギュラー化の構えです。これらはレギュラー陣に比べて一段と細密な線で描かれ、驚嘆すべき巧みな似顔絵になってます。そのリアルさで奇天烈なドタバタを演じるおかしさはまさに圧巻。もちろん、破壊ギャグの大御所。ドリフターズも全員そろって登場します。
浦安ダメ男ワールド
冒頭で大沢木小鉄を主人公と書きましたが、基本的に群像劇なので彼が登場しない回も少なくありません。時に近年は「たまには二人で」シリーズという、レギュラーを珍しい組み合わせで二人に絞ってみる試みが好評なようです。しかし、第3部に至ってはっきりしてきたのは、「浦安鉄筋家族」が、ダメ男ワールドであるということです。
女性レギュラーの筆頭は、小鉄の同級生・あかねでしょう。家にプールのある大富豪の娘でテストは常に100点。しかも美少女。キレやすい面もあるが、基本的には優しく親切な性格で、頭がよいこともあって常に会話を常識的にリードします。途中からぐんぐん存在感を増し、第3部ではもはや共同ヒロインと言っていいのが、小鉄の母・順子。これまた才色兼備で、やはりキレやすく暴力的ですが(この作品にはこれに当てはまらないキャラクターは非常に少ない)普段は家族思いで温厚。この二人に次ぐ、口の悪い関西弁少女・のり子も、成績は悪いものの、頑張り屋で親切な性格に設定されています。
これに対し、主人公・小鉄はテストで自分の名前もちゃんと書けないほどの成績で、とにかく朝から晩まで暴れまわっています。ただ、人には親切。「元気で親切」これ以外に取り得がないのですが、それで立派に主役を張っているところが作者の価値観です。ですから小鉄は「ダメ男」とは見なされていません。
浦安ダメ男ワールドの両横綱は、担任教師・春巻と、小鉄の父親・大鉄です。
まず春巻。しょっちゅう財布を落として極貧生活を送り、あかねから借金することもしばしば。貧弱体格で(顔はブルース・リーなのに)小学校2年生(初登場時)との喧嘩にも勝てず、なぜか遭難癖があって1ヶ月無断欠勤することも日常茶飯事というとんでもない教師なのです。第2部で一度1年生の担任に回されたところ、究極の学級崩壊でクラスが原始世界化してしまったほどです。一時、出番が減ってましたが、第3部ではやや復調。なぜか教師っぽい言動も時おり見せるようになり、でも基本はアホで、顔立ちが美青年ベースなために逆に複雑なキャラクターになってきています。
そして、この第3部で俄然存在感を増してるのが大鉄です。
1日29箱を吸う超ヘビースモーカーで「人生テキトー」が座右の銘。年齢設定は41歳ですが、20代で連載を始めた作者は途中でこれを追い越し、感情移入が押さえ切れなかった模様です。少年時代篇は描かれるわ、なぜか彼に惚れて付きまとう美女幽霊が準レギュラー化するわ、とにかくいじられまくり。大鉄をはじめとするヘビースモーカー軍団にたまり場にされて迷惑しきりのファミレス美人店長も、なぜか彼に好意的で、順子も含め美女にモテモテという不思議な構図になってきています。とはいっても、本人にはその意識は全くなく、順子にはしょっちゅう殴られて前歯を飛ばしてますし、店長にも飛び蹴りをくらったりしてますが。
大沢木一家のダメ長兄・晴郎も危ない美女・宮崎危機に暴力的ストーカーされてますし、春巻も生徒の母たちに構われまくり、どうも第3部に至って浦安シリーズは、「ダメ男と美女のフーガ」的様相が見えてきたようです。
1%のほのぼのも
ちなみに、ドタバタ原理主義者である作者は、後書きで、ちっ、ほのぼのをやっちまったい、みたいなことを良く書いていますので、浦安シリーズにほのぼの要素があると言われれば怒るかも知れません。が、それも厳然たる事実です。特に時おり見せる子供たちの楽しい表情は無類で、時おり挿入される大型イラストが何ともいえません。長く人気がある秘密はドタバタ要素だけではないと思います。
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