雰囲気重視のミュージックビデオのような作品 - ペタル ダンスの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

ペタル ダンス

4.004.00
映像
5.00
脚本
3.00
キャスト
3.00
音楽
4.00
演出
5.00
感想数
1
観た人
1

雰囲気重視のミュージックビデオのような作品

4.04.0
映像
5.0
脚本
3.0
キャスト
3.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

ストーリーはとくにない雰囲気重視の作品

石川寛監督と言えば、CMやMVだが、雰囲気重視の映画も数本作っている。そのため、最初から「ストーリーはとくになく、起承転結は期待しない方がいい」のが、この監督の映画である。キャストも豪華で、宮崎あおい(岡田准一と結婚した)、忽那汐里(デッドプール2にも出演した)、安藤サクラ(万引き家族にも出演した)、吹石一恵(福山雅治と結婚した)などがメインキャストである。

おそらく、ストーリー重視で映画を見たい人はガッカリするだろうし「結局どういうことなの?」と疑問符で終わる可能性もある。いわゆる「オチ」は存在しない。キャストが豪華なだけで、壮大なミュージックビデオのような感じに思う方もいるだろう。

この作品において一番大事なのは「空気」だ。セリフがなく、お互いに何か考えているが、言わないまま時間が流れてく、その様子を観察する映画だ。「たぶん、こんなことを考えているんだろうな」というのは大体察しがつく。もしくは、見ている各々が自分の感覚で投影していい部分だ。そういう意味で想像の自由度が高い作品だとも言える。

正解はなく、答え合わせもない。どんでん返しもないし、それらの演出がうまく作られているわけでもない。どこか自然で、不器用で、ドキュメンタリーチックに撮影されている。そういう雰囲気を楽しむ作品である。

不自然と自然が交差する演技

この映画から言えることが、安藤サクラの圧倒的な(自然な)演技力と、宮崎あおいの演技の不自然さである。作りこまれた映画、いわゆる「監督の指示に従って演技する」みたいな映画においては、宮崎あおいはアニメキャラのように使えていいのだろうが、こういった自然な動きを重視する作品において、宮崎あおいがいかに不自然か浮き彫りになる。月9のドラマに突然アニメ声優が出演するくらい不自然だ。

それがいいか悪いかは別問題だが、動きのない静止画で見る分には見栄えがあっていいのだが、いざ「みなさんいつも通りに過ごしてください、自然にしてください」と行った動画撮影の時に、本当の演技力や魅力がわかるんだろうな、と思う。

とどのつまり、この映画においての見所は、安藤サクラと忽那汐里の圧倒的な自然な演技力だ。さすが国際女優は違う、という格の違いを見せつけられた気がした。

どういうストーリーだったのか?

映画を最初から最後まで見た人でも「どういうストーリーだったの?」とよくわからない人も多いだろう。起承転結がないので説明が難しい。簡単に言えば、自殺未遂をした友人の見舞いに行く話である。

ジンコ、素子、ミキは友達で、ミキが何らかの理由で自殺未遂し、助かって入院している。そのミキを見舞うためジンコと素子は車で行く予定を立てるが、ジンコが負傷。たまたま出会った原木という同世代の女性が運転手をしてくれることになり、3人でミキのところに向かうという話だ。

ただ見舞いに行ってミキに会うだけなので、そこからどうなる、何かが起こる、ということもなく終わる。ただ、ミキに会いにいくまでの道すがら、普通の映画ならカットされそうな無駄なシーンが挟んである。無駄と言ってしまえば元も子もないが、とくに決まったセリフのない食事シーンや、文具店に立ち寄るシーンで、意味はない。ロードムービー的な感じで撮影したのだろうが、折角の自然な雰囲気を宮崎あおいが壊していく。

自殺未遂をしたミキだが、なぜそんなことをしたのかに関して語られることもなく、最後は「みんなそれぞれ人生大変だけど、まあ、いいじゃん」って感じで終わる。20~30代の女性に好まれる映画かも知れない。

曲がいい

この映画において、もうひとつ重視したいポイントが音楽だ。同監督の「tokyo.sora」でもそうだったが、とにかく音楽のチョイス、使い方が素晴らしい。さすがCMディレクターだ。シャンプーのCMにでも出てきそうなキャッチーな使い方で、空気感がたまらない。夕日を眺めて胸がジーンとするような、そんな気持ちにさせてくれる。

作曲しているのは菅野よう子で、センチメンタル系の音楽が得意な作曲家だ。女性の移ろいやすい気分や、物悲しく切ない音楽と言ったら菅野よう子ではないだろうか。そういう意味で言えば、壮大なスケールの菅野よう子ミュージックビデオ、という見方をするのも悪くない。

誰が主人公だったのか?

誰が主人公か明確でない、というのもこの作品の特徴だろう。基本的にはジンコと原木がメインとなり物語が展開していくが、ようは「自分が共感できる人に感情移入して見てください」といった感じだろうか。ジンコは男性問題で悩んでいるようだし、原木は勤めていた職場(店長)が夜逃げしてしまい無職になってしまった。

おそらくほとんどの人は原木を主人公だと思うだろう。出演シーンも一番多いと思う。ただ、それぞれの立場によって、それぞれ感情移入できるところがある。ジンコは好きな人からアプローチを受けるが素直にイエスと言えないでいる。素子は離婚した元旦那と友人のような関係を築いていて、彼に車を借りることになる。ミキは自殺したくなるほどに追い込まれていた。理由はわからないが、なんとなくそれぞれ辛いものを持って生きている、という感じで、共感できる人が多いだろう。誰が主人公ということではなく、全体的にちょっとずつ共感できるように作られている世界観なんだろう。

暗いリアルな女子旅

よくある広告のイメージだと、女性同士がキャピキャピしながら旅を楽しむ、みたいな感じだが、この作品の女子旅はとてもリアルに近い。そもそも、リゾート地に行くような旅行ではなく、自殺未遂をした友人の見舞いに行く旅なのだから、雰囲気は暗い。だが、この暗さがとてもリアルだ。季節も寒い秋頃のようだし、旅館の部屋にある石油ストーブがなんとも物悲しい。女子旅なのに荷物は少なく、厚着で、あまり笑顔はない。

実際、仲の良い友人同士の旅行ってこんな感じかな、とも思うし、学生時代からの友達だったら言わなくても空気でわかる、みたいな感じがあって「あーなるほどね」って感じで伝わってしまう。とくに30前後の女友達との旅行というのは、案外こんなテンションなのかもしれないと思う。

女の友情とは何なのか

安藤サクラ演じる素子は、結局、ミキがなぜ自殺未遂なんかバカみたいなことをしたのか、最後まで理解できない。憤りを感じたまま対面する。会ったからといってその理由は理解できない。仲のいい女同士であっても、それぞれ個人のことはわからないのだ。

女同士の友情というのは、そういうもので「なんやかんや」と言いながらも、もっと深いところでは共感している、という感じがある。登場する4人の女性は、それぞれ別の悩みを持ちながらも、大きな樹木の根っこは同じ、という感じがある。「わからないけど、わかる」という、一見矛盾した感覚が同居しているようだ。

映画のタイトルバックとなっている「あなたが元気でいてくれたら、うれしい」というフレーズに、あらゆる感情が凝縮されているような気がする。もちろんそこには「自殺なんかするんだったら相談してくれればよかったじゃん」という気持ちと「相談されても一緒に泣いてあげることしかできないと思う」という気持ちが同居している。それが女の友情なのかもしれない。

一度目でストーリーを追い、二度目以降はそれぞれのキャラクターの表情や仕草、細かい感情の揺れ動きをチェックすると楽しめる作品だろう。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ペタル ダンスを観た人はこんな映画も観ています

ペタル ダンスが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ