呑気な達也が複雑な気持ちを抱え、気遣いができそうな南が天然すぎて驚愕 - タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は…の感想

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タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は…

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音楽
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呑気な達也が複雑な気持ちを抱え、気遣いができそうな南が天然すぎて驚愕

4.34.3
映像
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ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
声優
5.0
音楽
4.0

目次

既視感がある墓参シーンは芸が細かい

この作品は劇場版ではなくテレビスペシャル版であるが、最劇場版2作目の「さよならの贈り物」と同様、南と達也が和也の墓参に訪れた際に、須見工の新田に遭遇するシーンで始まる。

命日に墓参するなどの一致はあっても、示し合わせたわけでもないのに物凄い確率で出会うあたりはアニメだからか新田が待ち伏せているのか怪しい所ではあるが、ちゃんとさよならの贈り物で使用した背景が使用されていて、比較すると上杉家の墓の両隣の山口家と古井家という墓までしっかり同じに再現されている。劇場版3作目からは10年以上の開きがあり、作画もかなり進化して原作に近く美しくなっているなどの変化を感じるものの、こういう10年前の映画のワンシーンを再度再現できるのは、制作会社が変わっていない強みだろう。

和也の存在の大きさと新田の評価

同時に、和也の死というものがこの作品の登場人物たちに与えた影響の大きさを感じる。和也は達也の生き方だけではなく、新田のようなライバルの人生にも影響を与えていたのだ。同時に、このシーンは事故から数年経って今もライバルの死を惜しみ墓参をかかさぬ、新田の律義さ、誠実さを表現している。

達也は呪縛から逃れていなかった

この作品を見てショックだったのは、大学に進学した達也が野球を辞めてしまっていたことである。

しかもその理由は「自分が野球を続けると、和也がかわいそうだから」

この心理は一体どう解釈すべきなのだろうか。達也は確かに、終始和也を意識し、和也の代わりに南の夢をかなえるという気持ちを持って野球をしてきたのは事実であるが、本来達也本人も野球好きであった上に、そもそも夢が叶ったのは達也本人の資質によるところが大きい。

また、和也が存命中も和也に遠慮し、おどけた兄を演じるというよりは本人の地ももとよりそんな風だったのだと思うが、南と和也を立てることを良しとしていた。

しかし一方で、ボクシング部に入ったのは、和也と南への遠慮だけではなく、違った道を歩くことで比較の対象になることを避け、上杉達也としてのアイデンティティを確立させるためもあったのではないだろうか。当然和也が死んでしまうことなどその時は思いもよらなかったわけで、恋愛上遠慮するなら野球をしていても遠慮はできる。達也の性分上、自分の方が野球の資質が上なので、自分が野球をしたら和也に勝ってしまい、和也の面目をつぶして南がどう思うかわからないなどそんな気を使ったとは到底思えない。その証拠に、ボクシングで勝つことで南を振り向かせようと決意をしているようであった。

ボクシングを始めたのは、和也のいない場所での自分を表現したかった。そんな気持ちがあったに違いない。結果的に和也の死で野球部に入り、夢を引き継ぐことになり、結果努力の甲斐あって甲子園に連れていくどころか甲子園で優勝まで果たしてしまう。

達也が南に「上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも」と言うセリフには、和也の代わりではなく、達也個人として彼女を愛し、和也の夢をかなえるのと同時に自分も彼女の夢をかなえるという上杉達也としての意志であることを、悟ったものと思っていた。

そういう感情の中で、死んだ和也に憐みなど感じていただろうか?単に和也を意識してしまう、マスコミに和也を引き合いに出される、ということだけなら、和也の代わりを良しとしていたのなら気にはならないのではないだろうか?これからだって、和也の代わりとして野球をしていけばいいはずだ。

しかし、引き合いに出されることで、上杉達也という自分が認められぬことへの嫌悪ではなく、死んでしまった弟を憐れまれるのが嫌だというのなら、達也は「亡き弟の夢は自分の夢でもあるので」と言い切ることで、自分を前面に出し、自分の意志であることを強調することで和也の代わりを演じているわけではないと周囲に示すこともできたのではないだろうか?事実そうだと思う。

しかしそうしたわけではないし、むしろ自ら弟の身代わりを名乗って野球を辞めているのである。なぜ弟をかわいそうな人物にしたくないのに、かわいそうにしてしまうことを言えるのかがわからない。弟の代わりに過ぎないと言って野球を辞めることの方が、余計に自分を単なる和也の代行という立場にし、周囲からも和也の代行に過ぎなかったと思わせることを助長させてしまうのに、作中の達也は行動と考えに矛盾があるのだ。

これがこの作品の達也の感情の理解しがたいブレと言える。後に孝太郎に和也がいないところで野球をすればと言われてふっきれるが、もう和也がいない場所で甲子園に優勝し、自ら南に告白したことで、和也の代わりでなくても、和也をかわいそうな目で見られない形で自分の夢をかなえる術も得たと思っていただけに、5年後も和也に遠慮をし続けていたのかと、驚愕してしまう作品である。

やや複雑な心理描写だが、突っ込んで考えると達也が和也を一番かわいそうにしてしまっていて、釈然としない。もう少し気持ちをシンプルに、自分は上杉達也なんだ、そうすることが和也への供養でもあるのだ、和也は和也だから比較しないでやってくれという気持ちの方が、ずっとわかりやすいし、そういう気持ちの延長で野球を離れたという方が理解できる。

蛇足感がある女性キャラが意外に良い味を出している

この作品の水野さんという女性は、最初は登場時の印象の悪さによるインパクトから、彼女の過去の掘り下げが非常に蛇足的に感じ、ややストーリーの失速感を覚えた。

しかし、彼女は、横恋慕が目的というよりは、双子の妹を失った人間として同じ境遇の達也を人として知りたい気持ちの方が強く、多少あわよくば南から達也を奪う気があったとしても、達也にも南にも、結果的には考えを改めるきっかけを作ってくれた良キャラである。

彼女のおかげで達也が少々の過ちで人の評価を短絡的に決めない人格者という一面を垣間見れたし、男性の優しさに受け身で気持ちも察してくれという南とは違い、自己主張がはっきりしている彼女は、何となく見ていて達也には居心地のいい友人だったように思える。

南に達也との関係について噓をついたのはいただけないと思ったが、あの嘘のおかげで南も達也も言葉足らずを大いに反省するきっかけにはなったように思う。

同じ経験を持つ者同士のシンパシーは、南とは違った魅力を持つ女性として一歩間違えば水野さんは達也の彼女候補になりえたかもしれない。

新田があまりに哀れ

この作品で最もショッキングなのは、南の新田への態度と言っても過言ではない。

正直この脚本だと南の人格が疑われ、ファンの減少につながらないか、制作サイドは懸念しなかったのだろうかと思うほどだ。

南の声優の日高のり子さんが、南を演じていた際、本命の達也のみならず、他の男性にも煮え切らぬ態度をとる南に苛立つ事があったそうだが、この作品の新田への態度はその極みと言える。

前述の通り、墓参のシーンなどで新田の誠実さが垣間見られ、タッチを観るのがこの作品が初の人でも新田が善良な人物であることが明白にわかる。南にも誤解から迷いがあったとはいえ、自分に誠実な男性がちゃんと意志を確認した上でアプローチしているのに、断るのではなく助けを乞うことで新田が南を襲ってしまったかのようになっているのだ。故意でも困るが天然ならさらにたちが悪い。

新田なら許してくれると思ったならさらに酷いと言わざるを得ない。

新田は南の思惑通り(?)彼女を許すばかりか、達也とのキューピット役にまでなってしまうが、この作品で南の評価が一気に落ちてしまったことは言うまでもない。

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