正義はどこにあるのか?
現代のドン・キホーテ現る
この作品には二人の主要人物の掛け合いが見どころの一つといえるだろう。
作品のタイトルは、スペインの作家であるミゲル・デ・セルバンテスの小説である『ドン・キホーテ』をモデルとしているという。
小説の中の主人公であるドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ は、騎士道物語に耽ってしまったが故に、現実と物語の区別がつかなくなってしまったのだが、ドン★キホーテの主要人物である新人・児童福祉司の城田もまた、福祉司としての信念から現実と理想とを行き来するまさに現在のドン・キホーテとも言えるだろう。
そして、もう一人の主要人物である任侠集団の親分である鯖島は、インテリ・理論派である城田とはタイプが違う武闘派であるが、時に城田の仕事に対して一役買うなどの手柄をあげたり、思わぬひらめきで城田をアシストする存在ともいえ、小説『ドン・キホーテ』における無学だが、機知にとんだ言い回しをしてドン・キホーテを手助けするサンチョ・パンサともいえよう。
ドン★キホーテでは、城田と鯖島の中身が入れ替わってしまったことは、二人の人間の境界が曖昧になったという区別がつかなくなった状態を表現しているという意味では、広い意味で現実と物語の区別がつかなくなった状態ともいえるのではないか。
児童と児童相談所の問題を巡って
小説のドン・キホーテの作家であるミゲル・デ・セルバンテスは、生涯にわたって何度も投獄をされており、牢獄中から釈放後にわたって多くの家族を養いながら、この小説を書いていたという波乱万丈な人生を送っている。
多くの家族という環境は、ドン★キホーテにおける児童相談所の保護施設内で過ごす子ども達を思わせるものでもあり、そんな子ども達と触れ合う児相職員の様子はセルバンテス本人の様子とも重なるものなのではないか、とも感じる。
法という線引きにより児童たちを救い出し、親と子という関係を断ち切ることをする児相職員の仕事は、実に精神をすり減らして行われる過酷なものであるといえる。
しかしながら、彼らの努力も虚しく、なかなか児相職員の悩みや仕事は減らないのが現状である。
皆が皆、円満な親子関係を築いている訳ではなく、家庭の数だけ問題も生じ、様々な親子の形が存在しているからだ。引きこもり、登校拒否、非行少年、ネグレクト、家出、家族崩壊・・・周囲からはなかかな理解されにくい、救いがたい問題が昔から日本にはあふれているのが現状であり、情報があふれて便利になった現代社会における児童たちにとって、直面する悩みはより複雑化している。
世代間伝達という、親から子へと受け継がれてしまう負の循環は、当事者達の自助努力だけではなかな断ち切れないのも事実としてあり、その一線を超えるというのはいうのは生半可な覚悟や力ではかなわないともいえよう。児相職員は、そういった思い重積をを背負って日々、仕事に励んでいるのである。
常識では考えられない家庭問題を、ただの常識にしばられた人間一人の力では乗り越えるのは難しいであろうが、児童福祉司の城田の持つ信念と、鯖島のもつなんとかしてやるという我武者羅なパワーが合わさることで、ドン・キホーテのような大きな敵をものともせずに戦いを挑むことが可能になったともいえよう。
各々の立場で正義という『道』をどう貫くのか?
物事の一線を超えるには、常に常識を気にしていたらそれは無し得ることは難しい。
児童福祉司の城田には彼なりの正義があり、任侠を貫く鯖島にも彼なりの正義があるのであろうが、それをどこまで貫けるのか?・・・騎士道を貫き通したドン・キホーテの様に、自身の正義なり信念を貫き通せれば、それはいずれ『道』になるといえる。
児童たちをとりまく様々な問題と家族たちの思惑、その中で子が感じていることをいかに大切にしながら正義を貫き通すのか、これはとても困難なことであろう。特に、一度家族から裏切られ、傷つけられた子どもは、簡単には人という者を信用できなくなるため、自分以外の他者に勝手に正義や理屈を押しつけられることに拒否的になってしまう。信用を得るには、それなりの時間や思いの継続が対価として必要であり、それを実行しようとするならば、常識では考えられないほどの熱量をぶつけることが大切であろう。
児童にとって、大人は本来生きていく道を指し示してくれる存在であるが、児相で保護される子たちの親は時にそれが難しい状態であることが多いために、道を作る機会を知らずに育ってしまうことがある。それは実に残念なことであるが、そんな子供たちが城田や鯖島に影響を受け、道を見失た児童たちがそれぞれに自分だけの正義や道を自力で見つけて、歩んでいけるようになっていく様は見ていてとても勇気づけられ、喜ばしい気持ちにもなる。
一見、破天荒と捉えられる行動も、それを求める者にとっては一種の救いであったりする。きっと、小説で活躍するドン・キホーテも知らず知らずに誰かの心を救っている様に、城田や鯖島の行動も、周囲からは理解されにくい子どもたちの心を救っているのかもしれない。
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