いいぞ~と、言いたくなる
ただ食べるだけという新しさ
孤独のグルメは、主人公の井の頭五郎が一人でご飯を食べる、ただそれだけのストーリーという、非常に革新的なスタイルのドラマです。
しかし、そのシンプルな内容に反して好評を博し、2018年春には、シリーズ7作目の放送が決定しています。
そんな作品の原点でもある、孤独のグルメ、シーズン1では、それ以降の続編では見られない、井の頭五郎の姿を見ることができます。
シーズン1ではまず、冒頭の五郎さんの独白から物語がスタートします。
内容は舞台となる街を、五郎さんがどう思っているか、というものです。
このパートは、シーズン2には本当にワンセンテンスに省略されており、シーズン3以降にはほとんど触れられなくなってきます。
このあたりを見るに、まだ普通のドラマとしての体裁を保とうとしている感じがします。
そして、その後は腹が減って店を探すまでの、前置きのパートとなります。
たいてい冗談をしている姿などが描かれています。
このパートは、後の続編に比べて詳細に描かれていると思います。
この部分で、視聴者には井の頭五郎がフリーの貿易商であることや、独身貴族であることが分かります。
このパートは、続編が増すごとに短縮されており、最近では五郎さんはすぐお腹が減って、店を探している印象です。
ですので、シーズン1では少し前置きが長いように感じました。
ドラマに対してドラマ部分を削ってほしい、というのもおかしな話ですが、もっとご飯を映してほしいと思ってしまいました。
シーズン1では、尖ったキャラクターだった五郎
また、シーズン1では井の頭五郎のキャラクターが、まだ尖っている感じがします。
まず、あまり笑顔の表情がありません。
一人でご飯を食べているので、当たり前のようですが、続編では嬉しそうな顔や、おいしそうな顔を結構していると思います。
シーズン1では原作のように、淡々と食べているように見えました。
また、顧客に迷惑をかけられて情けない表情になったり、心の中でツッコミを入れるコミカルな表情をしたりと、続編では表情が増えたのかなと思います。
また、モノローグもあまり情感がなく、本当に独り言のように淡々と流れています。
それが続編だと、もっと感情豊かになっていると思います。
一番違うなと思ったのは、シニカルな表情が多いことです。
いちゃつくカップルや街行く子供連れに、時に皮肉げな表情になる五郎さんは、シーズン1ならではという感じです。
所帯染みたものを見下すような、いかにも斜に構えた、独身貴族の中年男性といった立ち居振舞いです。
シーズン2には子供にベンチを譲ってあげるなど、打って変わって優しくなっているので、キャラクターの変更があったのかなと思います。
また、「だから飲んべえは気まぐれなんだ」というような、毒舌もモノローグに登場します。
結構原作者の久住昌也さんが、漫画や文章で辛口のコメントをすることがあるので、それに因んだセリフかなと思いますが、最近の五郎さんはあまり悪いことを言わないので、こういった面もシーズン1ならではだと思います。
このように、原作に忠実にやろうとすると、おそらくシーズン1のような役作りになるのだと思います。
しかし、見ていて親しみやすさを感じるのは、それ以降の続編の方です。
続編では五郎さんのキャラクターはどんどん丸くなっており、視聴者からすると、松重豊さんが本家の五郎さんのような印象を受けるほどになっています。
グルメを見たいのか、それとも主人公を見たいのか
この作品を見ていて感じるのは、主人公、井の頭五郎の安定感です。
孤独のグルメというタイトル通り、五郎さんは結婚もしていないし、仕事仲間もいない、全くの孤独の状態で生活しています。
しかし、五郎さんには全然悲愴感がないんですよね。
毎日黙って仕事をし、腹が減ったら店を探す。
そのように日々を淡々とこなしています。
そんな井の頭五郎に、見ていて全く孤独を感じないのです。
中年男性の孤独な生活風景なんて、ともすれば悲愴感が出てしまいそうではあります。
しかし、五郎は結婚するチャンスがなかったのではなく、元々結婚願望がないんですよね。
さらに会社社長とあって、高級車やブランドの服を所有するほどお金があります。
ですので、いわゆる「孤独な中年男性」ではなく、「孤高の独身貴族」なのです。
そして間違っても、何かの拍子に「こんな時、家族がいたらなあ」なんてことは言いません。
食事をする時は、一人なのにとても楽しそうです。
五郎さんの生き方は、なんとなくこちらまで安心させてくれるような心地よさがあります。
この作品を見ている人には、同じように一人でご飯を食べている人が沢山いると思います。
そんな時に、孤独のグルメは見ていて安心感があるのかな、と思いました。
この作品はグルメドラマですが、それだけではなく、井の頭五郎の安定感を視聴者は見ていたいのではないか、と思いました。
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