がっかり邦題の割りには楽しめた映画 - 復讐捜査線の感想

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がっかり邦題の割りには楽しめた映画

3.03.0
映像
3.5
脚本
2.5
キャスト
3.0
音楽
3.5
演出
2.5

目次

原題「Edge Of Darkness」

がっかり邦題はたくさんある。あえてここでは書かないけれど、その題名を観て「よし!この映画に行こう」と思うかと配給会社に聞いてみたいとすら思う。逆に言うと、内容はいいのにその邦題のせいで損している映画がたくさんあると思う。なぜなら前回観た「ミニミニ大作戦」が意外に面白かったからだ。なのでがっかり邦題でも敬遠するのはもったいないかもしれないと思い直したのだ。
今回の「復讐捜査線」。確かに刑事であるメル・ギブソンが警察とは別に復讐のため独自に捜査するという意味では、内容と全く違う邦題ではない。原題よりも分かりやすいのかもしれないが、かなりセンスが悪い。言い換えればダサい。原題「Edge Of Darkness」でいいのではないかと思う。それかこれをそのまま訳す方がいくらかましだと思う。
しかしこの邦題のおかげでギャップを感じて、余計面白く感じてしまったところも確かだ。がっかり邦題にはこのような効果を案外狙っているのだろうか。でもそのがっかり邦題のおかげで観ない客もいると思うので、このやり方は諸刃の剣かもしれない。

観るべきはメル・ギブソンの演技の深み

この映画にはメル・ギブソンの演技の素晴らしさを感じる場面がとても多い。元々「マッド・マックス」とか「リーサル・ウェポン」とかアクション系の印象はあるけれど、「顔のない天使」や「陰謀のセオリー」など演技の深みを感じさせてくれることも多い俳優だ。この映画もその演技の重厚さを十分感じさせてくれるものだった。
例えば娘エマが食事前いきなり劇的に体調を壊した時の刑事らしくもない慌てふためきようであったりとか、エマが故意に被爆させられたと知った時の一瞬の辛そうな顔だとかは、演技に見えないくらいのリアルさで、この役柄をメル・ギブソンが全力で理解していることがよく感じられた。ただやはり絶対に強いという印象があるのでそこは少し役者としては損かもしれない。ブラッド・ピットでもそう思うけれど、こう絶対的な強さを出されると危機に陥っても死なないだろうなと、冷静にストーリーを見てしまうからだ。そういう意味ではトム・クルーズだと普通の中年も演じられる分、役の幅が広がるのかもしれない。
確かにその強さが武器になっている映画もあった。「顔のない天使」では暗い過去を背負った元教師の役だったけれど、その強さが逆に痛々しさを感じさせるように感じた。けれど今回の映画は相手は放射能という目に見えない上勝てるはずのないものだったけれども、瀕死であれほどの相手を倒す展開はその強さから少し予想できた。そこが少しマイナスポイントでもあるところだ。
ただラストの場面、死んだエマが迎えにきて一緒に病院から出て行くところは、強いからこその優しさがにじみ出ていて好きな場面の一つだ。

監督の手腕を感じさせるキャスティング

この映画は、エマの少女時代をホームビデオで撮った映像から始まる。可愛らしいその姿だけれど、こういう始まり方をするからには恐らくこの女の子は死んでしまうのだろうなという不吉な予感を感じさせるものだ。そして場面が切り替わって大人になったエマが映るのだけれど、この女の子が大きくなったらこの子になるだろうなという完璧な子役だったと思う。そういう子役をよく見つけてきたなと思う映画は(「大いなる遺産」のフィンの子供時代や、「ミスティック・リバー」の3人の子供時代を演じた子役たちなど)、それだけでポイントが高くなる。ストーリーの流れに違和感を感じないし、何よりもリアリティがあるからだ。今回の子役も大きくなったらエマを演じたボヤナ・ノヴァコヴィッチに似た女性になるだろうなと思わせる子供だった。
またボヤナ・ノヴァコビィッチ自体さほど演技に深みがあるわけではなく、うまいと思うわけでもない。でもそのたどたどしさや若い人特有の透明感が、幼い正義感に満ちた女性を感じさせ、変にうまい俳優でなくとも逆にこちらの方がいいのかもしれないなと思わせるくらいだった。

物足りないところのいくつか

この映画は最後まで楽しめたのものの、大絶賛というわけではない。トーマス(メル・ギブソン)を助けたレイ・ウィンストン演じるジェドバーグだけど、この人がどうして関わってきたのかイマイチ分かりにくかった。その上ジェドバーグが頼りになるのかどうなのか不安になる理由の一つだけど、ターゲットである議員がインタビュー番組で話している内容でびっくりしているところがある。こんなテレビで言うような情報一つこの人は知らなかったのかと、ちょっとのんきすぎるように思えた。またこういう役回り特有の怪しさや怖さもこの人にはなく、そこも物足りなかったところだ。レイ・ウィンストンは結構色々な映画に出ているけれど、それほど何も思ったことがない分、今回のこの物足りなさはもしかしたら監督の責任かもしれない。
あとカーチェイスの場面があるのだけど、途中からどっちがどっちを追いかけているのか分かりにくかった。トーマスが追いかけられているのか追いかけているのか、ストーリー上どちらもありそうなだけに、余計分かりづらかった。でもそのカーチェイスの時間が長すぎないのは個人的には良かったところだ。
あと警察の無能ぶりもイライラするところだ(これは監督の思惑なのかもしれないが)。言葉だけは一人前だけれど、何もしないところなどはトーマスの悔しさが理解できる分苛立たしい。しかしそれも上では色々繋がっているからこそなのだろうけど、そしてこういう展開はありがちではあるのだけど、やはり苛立たしいところだ。

衝撃的なシーン、心を動かされたシーン

エマが殺されたときや、エマの情報を渡そうとした女性が殺されかけたときなどのインパクトは大きかった。いきなりなので驚いてしまう分、最近の映像技術の高さにも驚いてしまう。特にトーマスに情報を渡そうとした女性がドアを開けた瞬間に跳ね飛ばされるところは、少しずつ再生してみても全く違和感がないくらいリアルだ。最近あのような映像が多い。車を降りた瞬間に跳ねられるとか、道を渡った瞬間に跳ねられるとか。CGにしても、細かいところまで再現されていて純粋にすごいなあと思ったところだ。
あとエマを殺した男をトーマスが捕らえたところもよい。クレイブン!と叫ばせてエマが死んだときの映像を織り込んでくるところとかは、トーマスの苦悩が感じられて少し鳥肌がたってしまった。
また折々に挟まれてくるエマとの回想も切ない。髭剃りの場面とかは涙腺が緩みそうになってしまった。インパクトの大きい映像もありながらも、そういう小さな感動を感じさせてくれる映画だった。

全体的には出来のよい映画だと思う

アクション映画のような派手な動きはないものの、メル・ギブソンの抑えた演技はこの映画全体の印象を締めてくれている。他にそれほどビッグネームはいないけれど、ビッグな俳優が出るのがいい映画では決してないという当たり前のことを再確認させてくれた映画だった。またストーリーも破綻せず、ストーリーのためのストーリーという感じがないのもよい。ただもっというと、エマが死んでまで告発しようとした理由が核兵器を違法で作っているというだけでなく、もっとダークな理由があってもいいかなと思った。それでも十分ダークではあるのだけど、もっと闇の根の深いものを求めてしまうところだ。
とはいえ、十分最後まで楽しめる出来の映画であることは確かだ。また余計な音楽がないのもいい。そしてがっかり邦題だからといって食わず嫌いもよくないなと再確認させてくれた映画だった。

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