長編だから描ける、両想いになるまでの苦労
タイトルにすらセンスを感じる、流行発信元作品
ラブ★コンというタイトルは、単純に覚えやすいし読みやすい。本来はラブリーコンプレックスの略なのだそうだが、あえてラブリーコンプレックスというタイトルにせず、タイトルの時点で略称にしてしまっている点に、著者中原アヤ氏のセンスを感じる。
流行っている漫画は、タイトルを気づくとファンに略されていることが多い。こちら葛飾区亀有公園前派出所ならこち亀、恋愛カタログは恋カタ、ベルサイユのばらなどはベルばらなどである。ラブ★コンは最初から略称で、読者がどういう意味だろうと疑問に思い、聞いてみて納得、コンはコンプレックスかと、流行語になってしまいそうな納得感がある。
ラブ★コンでは、「キュン死に」など、この作品が出元となって若者に流行した言葉もあり、関西弁の掛け合いのリアルさや面白さ、低身長の男性を一躍イケメンの地位に昇格させるなど、流行への貢献度がかなり高い作品である。また、自分がコンプレックスに思うことに悩みながらも、時に笑い飛ばしたり開き直る主人公たちの明るさは、自己肯定感が低くなりがちな今の若者には、非常に学ぶところも多いのではないだろうか。
また、この作品は主人公リサを始め、リサの友人たちもファッションセンスに優れており、とりわけリサはアパレル業界への就職を希望し、専門学校に行くレベルにある。読者の女の子たちは、この作品から、言葉のみならず服装などのトレンドも参考にする人が多く、そういった面でもこの作品は当時の女の子たちの流行の発信元として大きな役割を担っていた。
長丁場だからできた、高校時代の長き片思いを描き切ること
最近の月刊誌や週刊誌の連載は、アンケートの読者受け一つで連載の続行と打ち切りが決まってしまうと言うが、この作品は幸い長く愛されたため、読者が主人公リサと大谷の長い長い両想いまでの道のりや、両想いになった後の苦労を共にできる点が良い。
友達としては相性もいいし、趣味は合うけど、喧嘩ばかりだし自分より背が低いという、本来の自分の理想とは異なる男子を気づいたら好きになっている。
まずは自分の気持ちを認めること。リサはこれだけでもかなり苦労している。大谷の元カノへの嫉妬や、人柄の良さ、背が低い子供みたいな男子と思っていたが、ふと手をつないだ時に、思った以上に骨ばった手から感じる「男性」。そして、さらに大谷は、その倍くらいリサを女性として意識するのに苦労するため、両想いになるまでがとてつもなく長丁場になる。
しかし、読者は、色々なイベントやトラブルを通じ、二人の思いが交錯していくのをハラハラ見守るのが楽しくてしょうがないし、青春をリアルタイムで共有できる。
こんな高校生活を送りたかったという理想が、この作品には詰まっている。
コント並みの関西弁の応酬が見事
意外に漫画界で酷評されやすいのが、関西弁を使った漫画の関西弁のセリフが不自然だという点である。関西弁というのは、関西在住の人に言わせると非常に奥が深く、泉州弁、河内弁、京言葉などの違いがあり、関東の人が関西弁を真似すると、それらの言葉がごちゃごちゃになり、いわゆる似非関西弁になってしまうのだ。
ちなみに、岡田あーみん氏作のルナティック雑技団を事例にすると、「おんどらぁ、ええ根性しとるやない、人が入っとー確かめへんで、あけるドアホがどこにおるんえっ、われっ」というセリフに、神戸弁と大阪弁と河内弁と京都弁がめちゃくちゃになっていると突っ込むシーンがあるが、こういうツッコミは関西在住者で、日常関西弁を使っている作家にしかできないことだ。(関西弁を理解していない人には、どうおかしいのかよくわからないが、関西の人には非常に違和感がある。)
違和感ない関西弁を使っている作品としては、このラブ★コンもその一つで、特にリサと大谷のノリツッコミや大喧嘩は、芸人のコント並みに面白い。関西弁に違和感がないだけではなく、漫画であるにもかかわらず、言葉のテンポが見事なのだ。大阪の人は、まともな関西弁の漫画はじゃりン子チエだけという評価の人が多いが、中原アヤ氏の作品と、岡田あーみん氏の作品も、違和感ない関西弁の作品として挙げられてよいと思う。
コンプレックスを理解し合い、いとおしく思うこと
ラブリーコンプレックスというタイトルの真意の通り、リサと大谷は、互いの身長差を喧嘩の際に罵ったりするものの、なんだかんだで互いのコンプレックスを認め、短所も愛している点がうらやましい。
本来夫婦なども、こうあるべきなのではないだろうかとすら感じる。お互いが身長のことを罵ってもそれがいじめにならないのは、根底にお互いの間に信頼があるからに他ならない。また、リサも大谷も基本自己肯定感が高く、リサならおしゃれにいそしんだり、大谷はバスケットを頑張ったり、自分のコンプレックスを自虐して楽しむ余裕すらある点は、生き方上手だと言えるだろう。
リサと大谷は、友達付き合いのころから、人として相手を最低限尊重する心を互いに持っていた。コンプレックスがある者同士だから感じたシンパシーや、「この人にしか理解してもらえない」というオンリーワンな存在であった点が恋愛に発展した大きな理由だろう。非常に長い物語だが、その長さゆえに表現された葛藤が大きい分、ハッピーエンドが喜ばしい作品である。
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