友だちが恋人になったっていいじゃないか
テンポのよい言葉あそび
標準語主体で読む漫画が多い中で、これだけ関西弁で進む少女漫画を読むと新鮮だと思う。たいていは東京に大阪弁とか九州弁の訛りを持った人が転校するとか、北海道・東北のバリバリの訛りの中に東京の標準語の人がやってきてちょっと輝いちゃうっていうのがよくあるパターン。物語がすべてその言語で許されるのは、大阪弁位な気がする。男の子がしゃべってても女の子がしゃべっててもかわいいから。かわいい子がかわいく言ったら最高にかわいいから。
オール阪神巨人のことを引き合いに、リサと大谷の物語はスタートする。常に漫才級のからみとボケ。先生、ナイスなネーミングです…170cmの身長を持つリサと、156cmしかない大谷。リサはデカくて女っぽさがなくてモテない。大谷はチビでもかわいがられ、バスケがうまいとかキャラがおもしろいとかで意外にも人気がある。表立ってはそういう評価であった。付き合ってないのがおかしいくらい息の合っているように見える2人。自分たちからすればそれはケンカのつもりだった。それが少しずつ変わっていく、その過程をゆっくりと、丁寧に描いた漫画であるように思う。17巻ってだいぶ…長いわ。
スタートの時点ではお互いに別のドキドキする相手がいて、その人を振り向かせたくて進んでいく。それもまたこの時期の漫画ではない設定だったかなーと思う。大谷とリサがゴールすることはわかりきっていたし、つまんないかなー…って思っていたわりには、ハマったお話だった。やはり会話・コメディー部分のテンポが良かったのだろうと思う。それに、主人公のリサと大谷だけではなく、鈴木くんも小春ちゃん、その他のキャラクター達がいい子たちで、読みやすいのもあるだろう。
歩み寄り方にはいろいろある
鈴木くんに一瞬で一目惚れしてしまったリサ。そしてすでに小春ちゃんを狙っていた大谷。お互いがお互いの友だちと付き合うという目的を果たすため、一時休戦してタッグを組む。相手のことを知ろうとして行動しているのに、相手のことと同じくらいかもしくはそれ以上に協力してくれる人のことを知っていくことになる。背の大きさ関係なく、人としていいところを誰かに説明するには、それを伝えようとする人がわかってないといけない。アピールして、成就したらよかったんだろうけど…小春ちゃんも鈴木くんも、両想いだったっていう悲しい現実…
誰よりもうまくいってもらいたいと思っていた。その切なさがそのまま恋の芽を芽吹かせる。リサも大谷も優しいんだよねー友だちに幸せになってもらいたい・自分が好きだと思った人に幸せになってもらいたいと考えることができるんだから…ここで嫉妬炸裂させたり、何もできなくなるような人だったら、惹かれあったりはしなかっただろう。お互いの努力はすっかり無駄になっちゃったけど、残ったものは偉大だったね。「憧れ」が「恋」にはならないことがある。そのパターンを表現していたと思う。
そしてここからは、「友情」が「恋」になるパターンの始まり。でもすぐにはそれを認め合えない2人。どこからが恋で、どこまでは友だち…?リサはお互いが恋愛初心者だと思っていたのに、大谷には元カノもいたらしいとわかったしもう大パニック。どっちが最初とか、経験がどうとか、そんなん関係ないのに、自分だけが独占したい・されたいと思う気持ちは、もはや恋だよね。
いい展開になるまでが長いんだよね
もうね、すごい意地を張るわけ。お前のことなんか好きじゃないって言ってないと、自分の心変わりを認められないし、それに周囲からおもしろがられるようなことになるなんて許せない気持ちもある。趣味もノリもぴったり合っていて、お互いを大切に想える気持ちだってたぶん同じ。だけど、今までの関係からさらにステップアップすることが全然想像できない。それでもそばにいたいと思う…リサはちゃんと乙女である。
男の方がなんとなくこういう気持ちを受け入れが苦手なのではないだろうか。友だちだと思っていた相手からの告白。ちょっと待てお前は最高の友だちだろ?この時点では本当にそれくらいの気持ちしかなかったと思う。しかし実際に離れてみたら、リサを好きなファンはいっぱいいたと知ったし、意外にもスタイルの良さが評価されていることを知ったし、性格の良さなら俺だって知っている。自分が男らしくふるまいたいけれど、チビであることで馬鹿にされたら立ち直れない…ごちゃごちゃ考えている大谷であった。
結局リサも大谷も、自分たちの気持ちがどうか、ということよりも、人からどう見られているかが気になってしまって動けなくなっていたのである。リサが勇気を出して壊そうとしたものを、一度は受け入れられなかった大谷。2人が付き合えた時は、もうーやっとかよーってほっと一息。ここまで長かったけれど、うまくいけば嬉しいものである。
ステージが変わればそのステージで悩みがある
どうにかお付き合いが始まった2人。しかし、恋というのは付き合ってからが本当の人間関係の始まりである。独占欲から嫉妬してみたり、相手のことを無視して自分の気持ちを優先させたくなったり、友だちが恋人より優先されることにイラついたり…周囲が何を言うかなんて関係ないけれど、付き合うということは、一番近くで生きていくということであり、1つの生き物になれるわけじゃないんだよね。
片想いのときは、どうしたら気持ちが伝わるかって必死だった。だけど、いざ付き合えても終わりではなくて、付き合い続けていくための悩みになる。慣れてしまえば当たり前になってしまうものだから、慣れるって本当に怖いんだよね。常に初心を忘れずに相手を想えればいいのに、自分の気持ちが優先されないことに腹を立ててしまいやすくなる。
価値観がずれているなんて当たり前で、相手のことを全部わかっているなんてそんなの驕り。言葉で伝わるものもあれば、表現できないものもある。わかってあげたいと行動することが大切だし、価値観はすり合わせていくことそのものを楽しんでいかないと、長く人と付き合うなんてできないんだろう。
そしてそれは、人を成長させるよね。思いやりや協調、何かを打破することなど、恋愛はたくさんしなさいと教える人がいるが、まさしく人を知るには恋をしたほうがいいってことだ。多くの人と付き合うもよし、同じ人でも常に考え続けられるならそれでもよし、すべてを知ったような気持ちにはならずに、挑み続けるべきなんだ。
ラブリーなコンプレックス
背が大きい・小さいことが何を決めるんだよって話。人間の大きさは見た目じゃわからんもん。リサと大谷は、その特徴があったからこそ知りあえて、仲良くなれて、付き合えた。素敵な個性に感謝しなければならないだろう。
他人がいなければそれをコンプレックスだとも思わないんだろうけどね。日本人なんかは特に、見た目が似通ってないと落ち着かない人種だから、余計に人と違っていることに恐怖を感じてしまうよね。それをすっかりそのまま表現した漫画だなーと思うわ。結局はその恐怖を乗り越えた先にしか幸せは待ってない。勝つしかないんだよ。
男友だちだと思ってた相手に恋をして、心が近づいたり離れたりしつつ、恋人として幸せをかみしめられるようになったリサ。いろいろあるんだ付き合うってやつは。恥ずかしいとか、みっともないとか、そんなもんは好きだからこそ見せたくないが、好きだからこそ見せあわなきゃいけないものだと、どのタイミングで気づけるかが、長続きする秘訣なんだろうと思うよ。
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