負の連鎖
蛙の子は蛙
本作品はセックスをする時に女性に暴力を振るっている父親に対して自分も同じ様に父の血を引き継いでいる為、同じ事をしてしまうのでは無いかと言う恐怖に襲われながらも、やっぱり自分も暴力を振るってしまう少年の苦悩を描いた作品。私は血縁関係において、親がこうだから子もこうであるものであると言う考えは持ち合わせていない。私は両親と血は繋がっていてごく普通の親子であるが血縁関係を信用していない。しかしながら一緒に暮らしていると親の嫌な癖が自分にもいつの間にか移っていて自己嫌悪に陥る事がある為、本作品に対し血縁関係と言うよりは生活を共にしているからこそ父親に似たのであると解釈している。
不思議な関係
本作品では実の母親を「仁子さん」と名前で呼んでいる事に違和感を感じる。また父親の新たな愛人の琴子と何も弊害なく普通に暮らしているのにも違和感を感じる。さらに父親と母親(仁子さん)は生活は別々なのにご飯は仁子が作り遠馬に渡し、父親に届けると言う一応家族の様な一面もあり何とも理解し難く不可解な関係であり、しかもその形態を登場人物が皆不思議に思わず受け入れているのが信じられない。
セックスの勧め
本作品では父親が息子に対して「セックスをやれ」、と勧めており、終い目には「一人の女性に対して一気に自分と息子、二人の子供が出来るかもしれないな」、などと呑気な事を言っている。常識的に有り得ないし何とも理解し難い。こんな親がもしこの世に居るならクズだ。
遺伝
本作品では仁子が円(夫)との二人目の子供を中絶している。理由はあの男(円)の子だからと言う。容姿が似て生まれて来るのは解るが、性格が必ずしも父親と同じであるとは限らない。その点は大いに疑問だが、それだけ円が酷い人間だった事は本作品を読んでいても解る。
別れない理由
こんなに酷い目に遭いながらも何故仁子が円と別れないのかが全く理解できなかった。色々夫婦間や家族間にはあるだろうが、円はセックスをする時は暴力を振るっても、普段は振るわない。仁子は戦争で左手首から先を失い、当時結婚を約束していた男性が居たのだが、その男性の母親に「手の無い子供が生まれる」と嫌味を言われ傷つき破談していた。そんな中自分よりも10歳も年上で手首が無くても良いと言って結婚したのが円だった。円は仁子の手首の事を一度も蔑んだことは無かった。その優しさが仁子の中に今も染み付いているのかもしれない。でも私にはやっぱり理解し難い。私も病気を抱えている身であり、世間からは受け入れられづらい。そんな中、受け入れてくれる男性は勿論嬉しいが、暴力を度々振るわれてまで一緒に居ようとは思わない。
性への執着
年頃の遠馬のセックスへの執着は驚くものである。しかし男性とはそう言うものなのだろうか…?青年期を思い出してみる。私は女性のため遠馬と同じ17歳の時にあれほどセックスへの執着は無かったと思う。(私が初なだけかもしれないが)とにかく毎日したい!何か嫌な事があったら無性にしたい!そして遠馬はコンドーム無しで千種とセックスしようとするが馬鹿かと言いたい。まだ17歳の子供である。しまいめには「俺としたいんやなくて、ゴムとしたいんか?俺の子が出来るのが嫌なんか?」とヤケクソになる。本当に愚かだ。こんなやつがいるから、不運にも出来た子供が意図的に出産した後殺されたり、育児放棄されたりして酷い目に遭うのだ。こぬやな作品は誰が読んだって構わないが、それによって男性が間違った方向に感化されるのが懸念される。
制裁
本作品では最後に円が仁子に殺せされる。それは「負の連鎖」を断ち切るものだった。と言うのも、一緒に暮らしていた琴子が身籠り、その後円の暴力を恐れ家出したため、セックスをする相手が居なくなり、遠馬の彼女である千種にも手を出したからである。こればっかりは同情するし、当然の結末であると言える。大体暴力を振るう時点で人間として終わっている。しかもその暴力は決して憎しみからのものでは無い。自らのセックスにおける快楽のパフォーマンスの一つとして悪気無くやっているのだ。こんな変な性癖を持った奴は頭がどうかしているし、どうにでもなってしまえ!と思った。
読み易さ
本作品は短い上に非常に読みやすかった。まず難しい漢字にはふり仮名が打ってあり、それでもって難しい言い回しもなくすんなりと入ってきた。また生々しいセックスの所においては殿方だけで無く、普段恥ずかしがっている女性もいち文学作品なのだからと思い切って読めるだろうと思う。
芥川賞受賞作
本作品は第146回芥川賞受賞作と言うことで読んでみたけどイマイチ何もぐっと来なかった。芥川賞の基準がわからない…。又吉直樹の「火花」を読んだときもそうだったけど、芥川賞の伏線が謎だ…。個人的には本書に入っていた「第三紀層の魚」と瀬戸内寂聴との対談の方がよっぽど人間味があり感慨深くて良かった。
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